SDGs(持続可能な開発目標)がグローバルに重視される中、企業にはサステナビリティ(持続可能性)を念頭に置いた責任ある事業活動が求められている。経営においては、ESG(環境、社会、ガバナンス)が重視され、非財務情報も含めた情報開示が欠かせず、今や企業内の情報管理、データ活用もサステナビリティと無関係ではいられない。

SAPジャパン(SAP)は11月19日、サステナビリティ領域における自社の戦略やこれまでの取り組みとともに、同社が新たに提供する企業のサステナビリティ支援のためのソリューションを紹介した。

2008年のリーマン・ショックが経営に影響をおよぼしたことを受けて、SAPは2009年に自社の経営上の中期的なゴールにサステナビリティを掲げ、これまで活動を続けている。

SAPではサステナビリティに取り組むにあたって、EXEMPLAR(エグゼンプラー)とENABLER(イネーブラー)という役割を自らに課している。エグゼンプラーはサステナビリティ経営の実践者、イネーブラーはソリューションの提供者を意味する。同社では2009年から自ら実践して培ったサステナビリティの知見を、企業のサステナビリティの機会や課題に対して、ソリューションやサービスを提供するというアプローチを続けてきた。

SAPジャパン 常務執行役員 チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー兼デジタルエコシステム事業担当の大我猛氏は、「当社は40万社以上の顧客を有し、提供するサービスは全世界の取引の77%に関与していると言われている。当社の取り組みが地球全体のサステナビリティに寄与できるものと考える」と語った。

  • SAPジャパン 常務執行役員 チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー兼デジタルエコシステム事業担当 大我 猛氏

エグゼンプラーとしての活動では、事業戦略やパーパス達成にサステナビリティを落とし込むため、売上や利益といった財務面だけでなく、非財務における目標を設定している。また、従業員がサステナビリティに関するデータを閲覧できるダッシュボードも社内システムに実装されている。

サステナビリティを従業員の日々の活動に落とし込めるよう、SAPでは10億人の生活を豊かにするための社会課題解決事業のアイディアを社員から募る「One Billion Lives」といった、従業員がサステナビリティについて考え、活動できる場づくりにも力を入れる。

  • SAPが考えるサステナビリティ推進の鍵

イネーブラーとしての活動では、「3つのゼロの追求」を掲げ、CO2排出、ごみ、不平等のゼロにつながる新製品と市場創出を目指す。「企業には包括的なサステナビリティー経営、ESG経営が必要になり、それらを可能にするソリューションを提供する。同時に当社だけの取り組みに終始せず、エコシステムを作り上げることが重要だ。日本においてはパートナー企業やサステナビリティに特化したスタートアップ、専門性を持つパートナー、顧客である日本企業と協力する」と大我氏。

SAPがイネーブラーとして提供する具体的なソリューションとしては、実務部門における非財務情報の見える化をサポートする「SAP Product Footprint Management(PFM)」と「SAP Responsible Design and Production(RDP)」のほか、経営層へのサステナビリティ関連指標の見せる化を支援する「SAP Sustainability Control Tower(SCT)」が紹介された。

PFMは、調達・購買した品目のカーボン情報を可視化する機能だ。例えば、日々の購買業務で利用するSAP S/4HANAの購買モジュール画面に、品目単位でGHG(温室効果ガス)の排出量データが表示される。ユーザーは、それらのデータを基に自社のCO2削減や外部開示活動を行える。

SAPジャパン サステナビリティ推進 AIエヴァンジェリストの福岡浩二氏は、「まずは購買から始め、今後は製造、輸送、販売にも拡張していく」と明かした。

  • SAPジャパン サステナビリティ推進 AIエヴァンジェリスト 福岡浩二氏

RDPは消費財の製造から消費に至るまでのライフサイクルを可視化するソリューションだ。自社が関わっている製品のサステナビリティ管理にあたって、拡張生産者責任 (EPR)にも対応できるようなカテゴリ、品目を実装している。例えば、ペットボトルのプラスチックの含有量や包装ラベルの製造業者、製造現場の労働環境などを把握することもできるという。

SCTはリリース前の新製品で、非財務情報の開示ためのフレームワークを提供するものだ。非財務情報を含めた業績指標をERPやその他のアプリケーションと連携させて管理することができ、非財務レポートの作成に役立てるほか、データの持つ価値を提示するなどの機能が実装される予定だ。福岡氏は、「個社のサステナビリティに関する目標と達成度合いを示しつつ、今後求められるアクションまで誘発するような仕組みを提供したい」と述べた。

  • SAPのサステナビリティ向け新製品のそれぞれの位置づけ

同日には、企業のサステナビリティ経営のサポートに向けて、SAPが協業するスタートアップ、サステナブル・ラボとゼロボードとの取り組みも紹介された。

サステナブル・ラボは、SDGsの定量化に特化した非財務ビッグデータプラットフォーム「TERRAST」を提供する企業だ。同社では、データ間の因果関係を推定する因果分析を用いて、サステナブルな活動が企業の利益にどうつながるかを可視化し、企業の説明責任をサポートする改善案を提案するサービスなどを提供している。

SAPとの協業では、同社のAnalytics Cloud上の人的資本ダッシュボードに非財務価値を含めた企業価値の可視化機能を組み込むことで、女性役員比率や有給取得率などの人的資本のデータを用いて、企業の取り組みを評価・管理・共有・改善策構築を行えるようにした。

ゼロボードは、データ連携を前提としたGHG可視化クラウドサービスを提供する企業だ。同社のソリューションを用いて、自社だけでなくサプライチェーン全体のCO2排出量の算出が可能だ。

同社のソリューションがSAP S/4HANAと連携したことで、SAPのERPに限らず、さまざまなシステムからCO2排出量を収集・可視化できるようになった。また、出勤、出張など社内の企業活動から排出されるCO2も簡易に算出し、財務諸表データと関連づけた分析なども行える。