米VMwareは10月5日から7日(現地時間)にかけて、年次カンファレンス「VMworld 2021」を開催した。その際、今年6月にCEO(最高経営責任者)に就任したラグー・ラグラム氏に話を聞く機会を得た。これまでCOO(最高執行責任者)を務めてきた同氏だが、どのような戦略の下、VMwareをリードしていくのだろうか。

  • 米VMware CEO(最高経営責任者) ラグー・ラグラム氏

新たなクラウド戦略の特徴とは?

ラグラム氏はCEOに就任する前はCOOとして、クラウドコンピューティング事業とSaaS変革に向けた事業の構築と主導など、同社のテクノロジーの方向性について舵取りを行ってきた。前CEOのパット・ゲルシンガー氏の戦略と同氏の戦略はどう違うのだろうか。

ラグラム氏はVMworld 2021の基調講演で、「今後20年間はマルチクラウドが主流になる」と述べ、同社がマルチクラウドに注力していくことを宣言した。そこには、「課題もある」と同氏は話す。

「VMwareのビジネスのチャプター1はサーバの仮想化であり、チャプター2はプライベートクラウドだった。そして、今、チャプター3として、お客様の方向性に合わせてマルチクラウドの世界を開いていき、ネットワーキングセキュリティのすべての面で強化していく」

VMwareは以前からクラウドを事業の柱と据えていたが、ラグラム氏の戦略では何が変わるのだろうか。VMwareはこれまで「あらゆるデバイス(Any Device)であらゆるクラウド(Any Cloud)とあらゆるアプリケーション(Any Application)が利用可能な世界の実現」を標榜していたが、今年のVMworldではこのメッセージがきかれることはなかった。

この点に関し、ラグラム氏は「プライベートクラウド、エッジも含めてすべてマルチクラウドにしていく。これが新しい点だ。3つの「Anywhere」のコンセプトは変わらないが、「Anywhere」はいわば自分たちの都合ともいえる。これからはお客さまに適した言葉で表現することにした」と語っていた。

パット氏との違いについては、「よりアグレッシブにポジションを変えていきたい。また、サブスクリプションを増やしていくが、バランスの取れたモデルは引き継いでいく」という。

  • VMworldで、マルチクラウドを支援するサービス群として「VMware Cross-Cloud Services」が発表された

11月にデルからスピンオフ、その影響は?

ラグラム氏は、今年11月に実施されるデルからのスピンオフについても言及した。VMwareはデルグループの傘下ではあったが、独立性をもって事業の運営が行われていたが、スピンオフすることで、何が変わるか。

「スピンオフは両方の世界のいいとこどりをした歓迎されるもの。デルとはいい関係。アグリーメントという形に落とし込んでいる。引き続き、デルといい関係を続けていく」と、ラグラム氏はスピンオフをしても出るとは協調関係続けていくことを強調した。

デルから独立することで、資本構造を柔軟に使えるようになる。これは、「買収もできることを意味し、顧客にメリットがあると思っている。顧客の問題を多く解決することが可能になる」と、同氏は述べた。

また、ラグラム氏は「これまで、デルと競合していたベンダーとは深い関係を築くことができなかったが、スピンオフによって変わる。これからは、それらのパートナーと共同の顧客に対応できるようになる」とも語っていた。

VMwareの事業領域はどこまで拡大するのか?

VMwareはサーバ仮想化を起点に、クラウド、エンドユーザーコンピューティング、セキュリティと事業分野を拡大してきた。これからは、どのような成長を遂げていくのだろうか。

ラグラム氏は、「企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるにあたっては、エッジが重要な要素となる。アプリケーションを変革し、エッジで実行がトレンドとなっている」と述べた。

今、さまざまな業界が新しいアプリケーションをエッジで構築し、新しいレベルのイノベーションを創出しようとしているという。例えば、AmazonはカメラとAIを使う「Just Walk Out」というテクノロジーによって、レジを通さずに商品を購入できる「Amazon Go」という店舗を展開している。

ラグラム氏はもう一つのトレンドとして、「在宅勤務」を挙げた。新型コロナウイルスの感染拡大によって、急激に導入が広がった在宅勤務だが「もうなくなることはない」と、同氏はいう。

在宅勤務をしているはホームネットワークを使って仕事をしているが、そのセキュリティ、デバイスの管理が問題となっている。そこで、企業はエッジのセキュリティを担保する必要が生じている。

VMwareは以前からエッジのソリューションを提供していたが、VMworldでエッジの製品ポートフォリオ「VMware Edge」を発表した。VMware Edgeは、複数のクラウドにわたり、「near edge」(クラウドと顧客のリモート拠点の間に置かれ、サービスとして提供されるエッジネイティブなワークロード)と「far edge」(エンドポイントに最も近い顧客のリモート拠点に置かれたエッジネイティブなワークロード)のいずれにおいてもエッジネイティブアプリの実行・管理・保護を可能にするための製品から構成される。

  • 「VMware Edge」の概要

クラウドシフトを支援するというVMwareの姿勢はこれまでと変わらないが、顧客に寄り添う形でマルチクラウドの導入を支援するというメッセージは新たな戦略といえる。ラグラム氏率いる新生VMwareに期待したい。