Amazonには、「社内広報のスペシャリスト」がいる。彼らは物流拠点や配送拠点などへの情報伝達や拠点ごとの情報共有における課題の洗い出しなどを担当している。コロナ禍においては感染対策やワクチン接種に関する会社としての決定事項を早く、正確にスタッフに伝える役割を担っている。

日本の社内広報スペシャリストである、アマゾンジャパン 社内広報マネージャーの坪内文典氏に、コロナ禍において物流拠点で発生した情報共有の課題や、課題を解決する中で得た多拠点間のコミュニケーションを円滑に進めるコツを聞いた。

  • アマゾンジャパン 社内広報マネージャー 坪内文典氏

プロフィール
2005年に日本初のAmazonの物流拠点「アマゾン市川フルフィルメントセンター(FC)」で、派遣社員として勤務。入出荷、在庫品質管理部門、教育部門や改善活動などを統括するバックオフィス業務などを経て、2016年6月からアマゾン川越FCの在庫品質管理部門のシニアエリアマネージャーとして勤務し、FC内の数多くの現場を経験。現場での経験を活かし、2016年11月に社内広報のスペシャリストとして就任。2021年現在は、「社内広報マネージャー」として従事している。

--「社内広報スペシャリスト」とはどのようなポジションですか

坪内氏:Amazonがさらなる業績拡大と取扱品目の拡充、新サービス導入などを見据えて、物流部門の社内コミュニケーションを充実させようと2016年に導入されたポジションです。グローバルにサービスを展開する国・地域に同様の担当者が1名から数名ずつ置かれていて、日本では同年に私が就任しました。

2016年はアマゾンジャパンの売上高が1兆円を突破した年で、その後は国内で「Amazonフレッシュ」や日本語対応Alexa、Alexa搭載の「Amazon Echo」などが提供されました。

新たなサービスを導入し、Amazonでのショッピング体験を向上させるうえでは、下支えとなる物流施設の効率的な稼働が重要になります。また、物流拠点や関連する他部署との連携はもとより、グローバルでの方針やルールの浸透なども欠かせません。「今後は社内広報を統括する専任の担当者を置き、社内コミュニケーションに力を入れる必要がある」という考えの下、「社内広報スペシャリスト」の導入が決まりました。

専用アプリで情報発信、ARでソーシャルディスタンス確保

--仕事内容について教えてください

坪内氏:日本全国に20カ所以上ある、商品の保管と配送業者への手配を行う「フルフィルメントセンター」と約30カ所の自社配送拠点「デリバリーステーション」で働く正社員、契約社員向けにさまざまな情報を発信しています。例えば、業務上の連絡事項や福利厚生の案内、会社全体の業績・方針の共有、新サービスのローンチ、年に数回実施される大型セール前の告知、セールを盛り上げるためのイベントやキャンペーンの案内、社員のエンゲージメントを高めるミーティングの案内などです。

  • 「フルフィルメントセンター」の様子。商品が棚に陳列され、梱包もこの施設で行われる

フルフィルメントセンターとデリバリーステーションのどちらも、雇用形態、年齢、性別、国籍や言語などが異なるさまざまな方が働いており、変化のスピードが速いAmazonの動向についていけるよう、正確・迅速に情報を伝えていくことが、今の私の役割です。

2015年に社内広報の部門が設けられるまでは、各物流拠点では必要な情報を取得・共有するために、バラバラにコミュニケーションが取られていたこともありました。社内広報の部門設立によって、すべての物流拠点に共通する情報を、一斉に発信することをサポートできるようになりました。

Amazonにはインターナルトランスファー(社内異動)という、違う部署であっても希望する部署、ポジションに異動の希望を出すことができる制度があります。現場での10年の経験から私自身、今後も成長を続けるビジネスにおいては、社内コミュニケーションの強化が重要になるであろうと考えていた時期でもあり、制度を活用して「社内広報マネージャー」のポジションに公募しました。たくさんの方が働く現場で、リアルタイムに情報を共有することの難しさは理解しており、これまでの経験から得た知見が生かせていると思います。

  • 「デリバリーステーション」の様子。配送のための準備が行われ、ドライバーが商品を積み込む

--コロナ禍で物流拠点でのコミュケーション手段は変わりましたか

坪内氏:情報を等しく、広範囲に、かつ一定期間伝えるには物理的な掲示が有効なため、従来は紙のポスターやチラシ、大型のディスプレーなどを利用していました。

しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年以降は、感染予防対策を徹底しているものの、従来のポスター掲示などによる伝達では密集を避けにくく、ソーシャルディスタンスの確保が難しくなったため、デジタルツールを活用し始めました。

現在はAmazonが自社開発したスマートフォンアプリを活用しています。アプリは、従業員に直接メッセージを送信できるほか、動画を埋め込んだり、アプリ上でストリーミング配信を視聴したりとデジタルコンテンツの発信ができるようになっており、2021年から全国の拠点で導入しています。

物流拠点のリーダーからのメッセージを発する集会や、年に数回実施する物流拠点の全メンバーを対象とした全体集会などもオンラインで実施し、ライブストリーミングが可能なプラットフォームを通じて共有するようにしています。

また、各物流拠点では「人が密集しやすいエリアはどの辺りなのか」なども把握しています。特に人が密集しやすいエリアには「ディスタンス・アシスタント」というカメラ付きのモニターが設置され、ソーシャルディスタンスを維持できているかをAR処理された映像で可視化する仕組みが取り入れられています。今後ポスターなどを掲示する場所を検討する場合には、これらの位置情報を参考とすることで、安全と情報共有を両立できるでしょう。

  • 「ディスタンス・アシスタント」では、他の人が2メートル以内にいるかどうかをモニターの画面に表示されるインジケーター(円)で知らせる。相手から2メートル以上離れている場合は緑の円、2メートル以内の場合は黄色の円、さらに距離が近い場合は赤の円で表示される

加えて、やはりアナログなツールも便利なので、引き続き使い続けています。ハンドアウト(プリントアウト資料)などアナログ資料の配布も適宜行っています。新型コロナウイルスの感染を回避しつつ、使えるツールをいろいろと交えて、効果的な情報共有を試行錯誤しているのが現状です。

リーダーや責任者との「パイプライン」を太くする

--多拠点間のコミュニケーションのコツは何でしょう

坪内氏:多拠点間のコミュニケーションでは「現場で何が起きているか」を把握することが重要だと考えています。そのためには積極的な情報収集が欠かせません。新しい拠点が稼働した際には取材をすることもあり、そこで得た新しい取り組みや責任者のコメントも紹介しています。

こちらが動くだけでなく、各拠点のリーダーや責任者とすぐに連絡を取ることができる状態にするなど、情報のパイプラインを太くすることも大事です。現場から情報を吸い上げる手法や仕組みがあると発信する内容を絞りやすくなります。

  • 自身のこれまでの仕事を振り返る坪内氏

また最近では、情報を発信する前に拠点のリーダーたちと「次に何を発信するか」を合意しておくことも重要だと考えています。情報を発信しても、思ったほど現場に届いていないなと思うとき、周知・浸透の後押しをしてくれるのが現場のリーダーたちだからです。

--坪内さん自身は、仕事をするうえで心掛けていることはありますか

坪内氏:Amazonでは、「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」をミッションに掲げているのですが、私もその考えをベースに仕事をしています。何か考えたり、決断したりする際には、「お客様は誰なのか、何を求めてるのか」を基点にして、そこから逆算してやることを決めて、仕事を進めていきます。私にとっては、「物流・配送拠点で働く方々」がお客様です。

仕事をするうえでの基点がブレなければ、実情に合った対応も、柔軟なカスタマイズもできるかなと考えています。

--今後の目標について教えてください

坪内氏:現在、デジタルツールを活用してさまざまな情報発信をしていますが、今後は可視化にも注力していきたいです。

デジタルツールで「読まれたか」「届いたか」が可視化できるようになったことは大きな変化で、アンケートなどを活用すれば生の声も分析できます。

コミュニケーションの効果を数値化して、「もう少しこうしたほうがよかったか」「内容やツール、チャンネルのどこを改善すべきか」などを分析して、次に生かしていきたいです。

また、国内でのこれまでの現場や社内コミュニケーションでの経験を生かして、いずれは日本だけでなく、その他の地域の社内コミュニケーションを担当できるようになるなど、広い視野を持ってキャリアアップを目指すことが、現在の目標です。