オブジェクトストレージサービスを提供するWasabi Technologiesが、日本において本格展開を開始する。

日本法人のWasabiテクノロジーズジャパンの代表執行役員社長に、黒田和国氏が就任。マネージドサービスパートナーであるNTTコミュニケーションズの東京都内のデータセンターに、アジアパシフィック(APAC)地域では、初めてとなるパブリッククラウドサービスの拠点を開設。年内には、国内2つ目のデータセンターを設置する計画も公表した。

  • Wasabiテクノロジーズジャパン 代表執行役員社長の黒田和国氏

また、日本においても、海外と同様に、間接販売を中心に事業展開する考えを示し、現在、NTTコミュニケーションズおよびNTTPCコミュニケーションズの国内2社のマネージドサービスパートナーに加えて、すでに数社と話し合いを進めていることを明らかにした。

一方で、日本にAPAC地域の本社機能を設置することを発表。黒田社長が、APAC地域事業副社長を兼務。韓国、シンガポール、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドなどを含むAPAC地域全体の事業を統括することになる。APAC地域でのデータセンターの設置も検討しており、日本での本格展開と同時にAPACでの事業拡大にも乗り出す。

Amazon S3と比べて5分の1の費用で利用でき、さらにAmazon S3と互換性があるAPIを提供していることを特徴に急成長を遂げているWasabiが、日本において、どんな成長を遂げるのかが注目される。

Wasabi Technologiesは、2015年に米マサチューセッツ州ボストンで創業。2017年からクラウドストレージサービスを開始し、米国で4カ所、欧州で1カ所にデータセンターを展開している。世界で6番目の事業規模を持つクラウドストレージベンダーだ。

Wasabiの社名は日本語のワサビを語源としており、黒田社長によると、「最新技術を活用して、データを素早く取り出すホットストレージサービスを、低価格で提供するのがWasabiのビジネス。ホットは英語では辛いという意味もあり、辛い象徴であるワサビから命名した」(黒田社長)という。

顧客数は2万5000社以上に達し、メディア&エンターテイメント、研究開発、ヘルスケア、教育、公共、エネルギー、金融機関、製造業など多岐に渡る。米国では約600大学での導入のほか、大規模導入事例として、テレビ局のCBSがある。全世界約5000社のパートナー企業を通じて販売展開している。

最大の特徴は、Amazon S3互換の低価格ストレージを提供している点だ。

Wasabi TechnologiesのDavid Friend CEO

Wasabi TechnologiesのDavid Friend CEOは、「Amazon S3と比べて5分の1の費用で利用でき、さらにAmazon S3と互換性があるAPIを提供していることから、Amazon S3に対応した既存アプリケーションが利用できる。AWS S3で使用しているアプリケーションを変更せずに利用できる」と説明。「過去3年間での収益成長率は3倍になっている。最も急速で成長しているクラウドストレージサービスである」と語る。

AWS S3およびIAMAPIを完全にサポート。バックアップ、ディザスタリカバリ、コンテンツデリバリーなど、Amazon S3に対応した300種類以上の様々な既存アプリケーションが利用でき、その実現に向けて、350社以上のインテグレートテクノロジーアライアンスパートナーとの連携を行っているという。

また、低価格で提供できる理由について、「同時に多くのドライブに書き込みができる独自のアーキテクチャーを採用していること、クラウドストレージのエキスパートとして、絶対的な効率性を追求し続けてきたことが理由である」と述べる。最先端のハードウェアテクノロジーを活用するとともに、ソフトウェアに対する大規模な投資を行うことでWasabi独自の高速ファイルシステムを開発。複雑なストレージ階層を用いないシンプルな構造が特徴であり、これが大幅なコスト削減とパフォーマンスの向上を実現しているという。 社員数は約150人。少数精鋭の体制とともに、非上場ながら、これまでに2億7500万ドルの資金調達を行っており、迅速な意思決定を行える点も特徴だ。

デル テクノロジーズやVeeamソフトウェア、Arcserve、 Akamai、 Limelightといった企業とも、テクノロジーパートナーとして連携している。

黒田社長は、Wasabiの特徴として、「Price」、「Performance」、「Protection」の3点をあげる。

1点目のPriceは、これまでにも触れたように、AWS S3よりも5分の1の価格で提供している点を指す。

Wasabiが提供するクラウドストレージの定額料金は、1TBあたり月額6.99ドルとなっている。さらに、egress 出力ダウンロードと、APIリクエストが無償となっている点も見逃せない特徴だ。AWS S3では、egress 出力ダウンロードにおいて、1GBあたり最大0 .09 ドルの費用がかかっており、「egress 出力ダウンロードの無料化は、ハイパースケーラーのにはない魅力的な特徴のひとつ。IoTのように出し入れが多い場合にはとくに差が出る」(黒田社長)と語り、「コールドストレージの価格で、ホットストレージを提供できる」と胸を張る。

2点目の「Performance」では、高速にアップロードおよびダウンロードが行える点を指す。

同社によると、1MBオブジェクトの書き込みパフォーマンステストを複数行った結果、いずれもAWSよりも高速だったという。

「どんなオブジェクトストレージプロバイダーよりも高速である。また、高度に分散したアーキテクチャーにより、エクサバイト規模のストレージを提供することができる」と語る。

さらに、Wasabiストレージと顧客のコンピューティングリソース間では、高速相互エクスチェンジを実現。グローバルには、エクイニクスやデジタルリアルティなどとの連携により、パブリックインターネットでは100Gb/s、プライベートダイレクトコネクトでは10Gb/sを可能にしている。

3点目の「Protection」では、データセンターの冗長性に加え、11×9(99.999999999%=イレブンナイン)のデータ耐久性を実現。さらに、90日ごとに、アップロード時とダウンロード時にデータ整合性をチェックし、転送中および保存中のすべてのデータを暗号化するほか、オプションとして、偶発的な削除や変更を防ぐ不変パケットを用意。強力なIDとアクセス管理、MFA多要素認証を提供しているという。また、プライバシーやセキュリティに関する業界標準規格にも準拠しているという。

さらに、Wasabiのマネジメントコンソールは、AWSのマネジメントコンソールと同じ概念で構成。「AWSに慣れているユーザーであれば、そのまま利用できる」(黒田社長)という。また、パートナーおよびユーザー向けのマルチテナントアカウント管理プラットフォーム「WACM(Wasabi Account Control Manager=ワッカム)」を活用することで、APIを介してWasabiをパートナー独自のプラットフォームに統合できる。

Wasabiの活用シーンは、多岐に渡る。

成長が著しい領域がバックアップおよびリカバリーであり、ここでは、Veeamソフトウェアなどとの連携のほか、Microsoft 365のバックアップ用途での活用が急速に増加しているという。また、アーカイブでは、「企業のなかに多く存在している『削除していいのかわからないデータを』を低コストのWasabiで活用する例が増えている」という。また、データの取り出しの速さの特徴を生かして、データアナリテイクスやアプリケーションデベロップメントでの活用が増加。コロナ禍におけるコンテンツデリバリーの増加や、高解像度化が進展している監視カメラで収集したデータの蓄積、IoTで収集したデータの蓄積、AIや機械学習に関するデータ保存も増加しているという。

同社では、日本におけるアプローチとして、テープカートリッジからクラウドへのデータ移行のほか、低コストでのハイブッリドストレージの提案、オンプレミスストレージからのクラウド移行の提案、マルチクラウド環境でのストレージ活用、データレイクやエッジコンピューティングでの活用提案も行っていくという。

なお、日本法人の社長に就任した黒田氏は、マサチューセッツ州立大学ボストン校を卒業後、米国において、ルーセント・テクノロジーに入社。その後、日本オラクルの通信事業統括本部事業統括本部長や、ジュニパーネットワークスの128 Technologyアジア太平洋地域事業統括本部長などを歴任。2021年2月、WasabiテクノロジーズのAPAC地域事業副社長に就任していた。