SAS Instituteは今年5月に開催した「SAS Global Forum 2021」で、AIプラットフォーム「SAS Viya」のクラウドパートナーをMicrosoft AzureからAmazon Web Services、Google Cloudにも拡大することを発表した。今回、SASでCIOを務めるJay Upchurch氏に、クラウド戦略を中心に話を聞いた。

  • SAS Institute CIO Jay Upchurch氏

--今回、「SAS Viya」のクラウドパートナーが拡大した。これにより、3大クラウド事業者で利用できるようになるが、それぞれの関係を教えてほしい--

Upchurch氏: SASは2020年6月にMicrosoftとの戦略的提携を発表した。クラウドネイティブなSAS ViyaをAzure向けに最適化するほか、Dynamics 365、Microsoft 365、Power Platformとの統合も含まれる。私が担当するクラウド事業である「SAS Cloud」もAzureで動いている。つまり、Microsoftは戦略的に重要なパートナーであり、われわれは1社のクラウドプロバイダーを利用することで一貫性を得ている。

提携から11カ月、Kubernetes、データレイク、ストレージオプション、IDアクセス管理などの分野で。ネイティブのAzureサービスへのViyaの統合を進めてきた。また、SASの運用ツールとネイティブのAzureサービスとの統合により、インストールの自動化、管理、モニタリングなどを実現している。また、共同での市場戦略も進めており、お互いの製品を自社顧客に販売できる。

今回、AWS、Googleと提携したことで、パブリッククラウドでViyaを動かす選択肢を拡大した。調査会社のSynergy Research Groupによると、2020年のパブリッククラウドのシェアはAWSが32%、Azureは20%、GCPは9%となっている。つまり、3社のクラウドでかなりの顧客をカバーできる。だが、Microsoftとの提携とは異なり、共同の市場戦略などは提携に含まれていない。

--「Red Hat OpenShift」との提携も発表した。この提携の狙いは何か--

Upchurch氏: データをどこに置くのかなどの規制が厳しい業界で展開する企業は、なかなかパブリッククラウドを使うことができない。多くはVMwareベースの仮想化を導入しており、Kubernetesを活用するためにOpenShift環境に移行する。

SASは以前からRed Hatと良好な関係を構築しており、まだクラウドに移行しておらずRed Hat OpenShiftでハイブリッドを考えている顧客は、Red Hatとの提携を活用できる。

--今後、パブリッククラウド側の戦略をどのように考えているのか--

Upchurch氏: 中国市場を考えると、Alibaba Cloud、あるいはTencent Cloudなどが自然なステップになる。Oracle Cloudも考えられる。

--新型コロナにより加速したトレンドはあるか?--

Upchurch氏: よく言われることだが、クラウドへの移行が進んだ。さまざまなCIOと対話を続けているが、世界中のCIOがジェットコースターのように急速な変化を体験している。

もう1つ興味深いのが、人材の側面だ。世界的にIT人材の不足が顕著になり、企業はどこに投資するのかを決断しなければならない。つまり、社内のIT技術者にシステム運用をしてもらうのか、クラウドにあるものを使い社内の人材にはより競争優位につながる作業をしてもらうのか。人材の希少価値が高まるにつれ、クラウドへのシフトは加速するだろう。

--1月にBoemska買収を発表した。Boemska買収の狙いは何か?--

Upchurch氏: SASは言語で成功し、その後ツール、そしてプラットフォームと拡大してきた。ノーコード/ローコードは、SAS技術を多くのユーザーが使えるようにするという点で、重要な取り組みだ。どのようなスキルセットを持っていても、どこに住んでいても、そしてどこでSASを動かしていても、すべての人がSASに簡単にアクセスできるということを目指している。ここでBoemskaは重要になる。

また、データセットが大きくなっており、モデルの自動調整を行う必要もある。処理能力を要するため、コストが高くなる。Boemskaはアナリティクスワークロードに対してボトルネックを検出したり、性能についての洞察を得たりすることもできる。

--SAS Viyaの新機能や今後の方向性について教えてほしい--

Upchurch氏: SAS Viyaは、1年前よりCICDベースのリリースに移行している。月1回のペースで新機能をリリースしているので、ロードマップやコミット分野は常に変化している。

今後の方向性として、2つ紹介したい。1つ目として、「SAS Viya」と「SAS 9」のプラットフォームの統合を進める。SAS 9は大規模なインストールベースを持っており、機能面でViyaとSAS 9を同レベルにし、スムーズにマイグレーションできるようにする。そのためのツールの提供も大きなフォーカス分野となっている。

2つ目は業界ソリューションだ。小売向け、IoTなどの業界ソリューションをプラットフォーム上に構築しているが、現時点で全ての業界ソリューションがViya上で利用できる状態ではない。これらをViyaにプラグインするだけで活用できるようにしていく。土台に共通コードベースがあり、業界ソリューションがその上にあるという形だ。Viyaをマイクロサービスセットにしたことで、必要なマイクロサービスを組み合わせながら効率の良い業界ソリューションを構築できる。フットプリントも軽量になり、コストと性能の両方でメリットが得られる。

--CIOとして最も重視していることは何か?--

Upchurch氏: テクノロジーはビジネス変革を加速するツールとして使うことができる。この1年だけを振り返っても状況は大きく変化した。CIOは経営陣の1人として、テクノロジーを使ってさまざまな部門を結びつけたり、業務を自動化したり、他のプロセスと統合することができる。技術を使うことで業務を自動化できたら、より新しいビジネスをうむことに時間を使うことができる。

そのためには、受け身ではなく、各部門に参加して何をやっているのかを理解し、何をやりたいのかをくみとる――ここに最も心理的な時間を費やしている。