SAS Instituteは5月19日と20日、オンラインで年次イベント「SAS Global Forum 2021」を開催している。同イベントに合わせ、SASはAIプラットフォーム「SAS Viya」のクラウドパートナーとして、2020年のMicrosoft Azureに続き、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloudと拡大することを発表。以下、同社の創業者兼CEO、Jim Goodnight氏、CTOのBryan Harris氏による初日の基調講演の模様を紹介する。

5月から新たなブランディングを展開

Goodnight氏はまず、「データとアナリティクスが世界中で普及している。われわれは重要な意思決定にあたって、ますます数学と科学に依存している」と述べた。SASにとっては、データもアナリティクスも1970年代から取り組んできたものだ。この分野のプレイヤーが増えていることを受け、老舗としての存在感を示すべく、SASは5月から新たなブランディング「Curiosity Forever」(好奇心は永遠)を展開している。

  • SAS Institute 創業者兼CEO Jim Goodnight氏

「(コロナ禍の)この1年、われわれはこれまで通り顧客にフォーカスしてきた。研究開発スタッフはリモートで作業しつつ、急変する顧客のニーズとして、アジャイルかつ耐性のあるアナリティクスに向けて開発を続けてきた」とGoodnight氏。同社は働きやすさで知られるベンダーでもあるが、4月にはFortune誌の働きやすい企業ランキングに入り、Fast Companyの「最もイノベイティブな企業」にも選ばれたと、同氏は胸を張った。

SASの最新のイノベーションであるAIプラットフォーム「SAS Viya」について、Goodnight氏はその誕生の経緯を次のように明かした。

「2009年にシンガポールの銀行から、リスク計算に18時間を要するが、それでは迅速な意思決定ができないという意見をもらった。そこで、計算処理に要する時間をどうやって短縮できるかを考え、ビックデータを処理してインメモリに保持するシステムを設計した」

これにより、処理を数十、数百のコアに分散することができる。「SASの技術と土台のハードウェアの制限を取っ払うことを考えた」とGoodnight氏は語った。

そうやって誕生したSAS Viya、第3世代では「市場で最速の性能になった」という。2020年11月には最新のバージョン4がリリースされた。

「Viyaは最初から性能、速度、大規模なデータの3つを想定して設計されている。データを分析してモデルを作成すると、すぐに運用環境で動かすことができる。競合他社の場合、追加のコードが必要だが、われわれは不要だ」と、Goodnight氏は違いを強調した。

データと分析を使って世界を助けることができるという信念の下、Goodnight氏は今年も公開されているデータを使ったSAS Viyaのデモを披露した。今年は、複数の機械学習モデルを利用して、新型コロナの患者の増加による病床の予測を披露した。

  • デモでは、Microsoft Azure上で30分でマシンがプロビジョニングされ、並列処理で巨大なデータの分析、ドラッグ&ドロップで機械学習のパイプラインの構築などを行った

クラウドベンダーとの提携拡大で顧客に選択肢を

そのViyaでは、2020年のGlobal ForumでMicrosoftとの戦略的提携を発表した。これは、Microsoft AzureをSASのクラウド顧客向けの推奨クラウドとするもので、顧客がSASのワークロードをクラウドで動かすことを支援する施策という位置付けだ。加えて、「Dynamics 365」「Power Platform」など他のクラウドサービスでもSASアナリティクスの統合を進めるとしていた。

ビデオメッセージを寄せたMicrosoftのCEOであるSatya Nadella氏はSASとの統合について、「アフターコロナの世界では、顧客、従業員などの期待が変わっており、アナリティクスはそこで重要になる」との見方を示した。「企業がデータを活用して(あらゆる従業員が)予測的・分析的パワーを使えるようにすることが、業績に直接影響してくるだろう」とNadella氏。SASとMicrosoftとの提携により、「この実現を支援することで顧客のトランスフォーメーションを加速できる」と続けた。

  • Microsoft CEO Satya Nadella氏

そして今年は、クラウドの選択肢としてAWSとGoogle Cloudを加えることが発表された。またRed Hat(IBM)とも提携、ハイブリッドクラウドでSAS製品を動かすことができるという。「AWSとGoogleとの提携はクラウドへの移行において、顧客に選択肢をもたらすもの」とGoodnight氏は述べた。CTOのHarris氏は、「オンプレミスでも、クラウドでも、ハイブリッドでも、エッジでも実装できる柔軟性を提供する」と説明した。

  • SAS Institute CTO Bryan Harris氏

顧客が実感しているSASとMicrosoftの提携のメリットとは

Microsoftとの提携のメリットを享受しているのが、米AEG Sportsだ。同社は、米メジャーリーグサッカー(MSL)のLA Galaxy、米ホッケーリーグ(AHL)のOntario Reignなどのチームを擁するスポーツやエンターテイメント企業で、SAS ViyaをAzure上で活用してファンの感情を分析してマーケティングの効果を高めるたという。

CTOのHarris氏との対談で、AEGのAaron LeValley氏は、選択した理由について「クラウドとアナリティクス、それぞれのベスト企業の組み合わせ」と説明した。SASとMicrosoftの提携のメリットとして、「コスト効率」「スピード」「企業内の連携」の3つを挙げた。

Azure上でSAS Viyaを動かすことでコストを抑えることが可能であり、その分をデータとアナリティクスに振り向けることができたため、「新型コロナの後に迅速に市場の変化に対応できた」とLeValley氏。3つ目の連携については、「Active Directoryによるシングルサインオンにより、簡単に洞察について共有ができた」と述べた。

SASはイベント中、IoTについても進捗を報告している。IoTでは50以上の企業と提携しており、「運用環境で使えるIoTシステムにおいて、アナリティクスのライフサイクルをエッジまで拡張する。顧客は必要なところで利用できる」とHarris氏。

SASの本拠地があるノースカロライナ州のケーリーでは、Microsoftとの提携を通じて、センサーからのリアルタイムデータをクラウド経由で収集する洪水の予測システムを構築、非常時の対応の自動化につながっているという。