ベルギーの独立系半導体ハイテク研究機関imecは、11月18日に開催した「imec Technology Forum(ITF)Japan 2020」に際し、次世代モバイル通信である6Gへ向けたロードマップの作成に焦点を当てた競争前段階の「Advanced RF」研究プログラムを研究パートナー各社とともに開始したと発表した。

imecの研究者が重点的に探索研究しようとしているテーマの1つは、100GHzを超える無線周波数によって可能になる高い帯域幅の通信向けにエネルギー効率とコスト効率の高いハイブリッドIII-V/CMOS積層チップの開発だという。デジタルドメインとアナログドメインの両方で、システム、回路、ネットワークの知識と半導体のノウハウを組み合わせて実現するとしている。

  • Advanced RF

    モバイル通信向け周波数帯域幅の高周波化 (出所:imec Technology Forum Japan 2020、以下すべて)

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    imecのAdvanced RF研究プログラムにおける垂直統合型研究テーマ

帯域幅の需要は2年ごとに倍増し、既存の無線スペクトル帯域に空きがなくなる中、通信業界は将来のモバイル通信要件を満たすための新しいテクノロジーとアプローチの探査を継続的に行っている。2000年代初頭からこれまで、3G、4G、5Gとセルラーネットワークは発展してきたが、それでもさらなる高速通信に対するニーズは強まるばかりである。

imecのこの分野のR&D活動のVPであるMichael Peeters氏は「実際の標準化の取り組みはまだ始まっていないため、6Gの正確な特性とパフォーマンス仕様についてはまだ議論が始まったばかりである。しかし、明らかなことは、次世代のワイヤレスネットワークが今までの性能を大幅に凌駕することである。次世代通信に期待されている性能には、100Gbit/sのシングルリンクスループット、マイクロ秒レベルの遅延、およびビットあたり1ナノジュール未満という高いエネルギー効率が含まれている」と述べている。

さらに同氏は、「これは、自動運転車などの人工知能(AI)対応の自律システム間の統合学習などの概念を実現するために重要であると考えている。他のユースケースには、密集した都市中心部での高速で信頼性の高いモバイルホットスポットの展開、没入型拡張現実(AR)アプリケーションのサポート、ホログラフィなどがある」と具体例を挙げている。

さらなる高周波数帯で必要となるInP基板

幅広い帯域幅の探求は、より高い無線周波数の使用と密接に関連している。周波数が高いほど、より多くの帯域幅を利用できる可能性が高まるためだ。したがって、5Gモバイルネットワークは、28GHzおよび39GHz帯域での動作が想定されているが、将来のモバイルネットワークは、世界中の増大する帯域幅の需要に対応するために100GHzを超える周波数に頼るようになる可能性が高い。

imecのアナログ/プログラムディレクターであるNadine Collaert氏は「高周波数帯で、手頃な価格のソリューションを実現するためには課題がある。今日の標準的なシリコンデバイス技術には、より高い無線周波数で必要な送信電力とエネルギー効率が不足している。InPなどの新しいIII-V材料は、解決策となる可能性があるが、シリコンプラットフォームに統合するのにはまだ適していない。したがって、ハイブリッドIII-V/CMOSの3D積層を具体的に検討することにしている。III-V材料をCMOS技術と組み合わせる方法、信頼性の観点からそれらの材料がどのように機能するか、どんなメカニズムで性能が劣化するかなどを調査することにしている。これらの洞察に基づいて、100GHz以上で効果的に動作する効率的で低コストのモバイルデバイス技術の開発を指したい」と抱負を述べている。

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    3Dパッケージング技術によるCMOS/III-V (InP)/アンテナ積層

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    imecがすでに開発したヘテロ集積を可能にする3D技術

ハイブリッドIII-V/CMOSアプローチのプロトタイプ

「将来のモバイルネットワークは、100Gbit/s以上のデータレートを提供するために、100GHzを超える周波数で動作する必要があることが認識されている。しかし、これまでのところ、基盤となるテクノロジーを開発するための明確で成熟した道筋が欠けていた」と、imecのCEOであるLuc Van den hove氏は指摘している。「高度なRFプログラムにより、半導体分野での先駆的な役割を超えて影響力を拡大することを目指している。6Gの実現だけでなく、次世代のWi-Fiにも対応するための洞察とテクノロジーを提供していきたい」としており、そのためには、システムと技術の同時最適化が必要であるとしている。

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    6Gを持続可能な技術とするためのシステムと技術の同時最適化

過去数年にわたって、imecの研究者はすでにこのトピックについて研究を行ってきているという。一例として、すでにエネルギー効率の高い方法で最大80Gb/sのシングルリンクデータレートを可能にするコンパクトな140GHz無線モジュールが開発済みだという。