2020年下半期、半導体業界では米国を中心に大型M&Aが相次いでいる。Analog Devices(ADI)によるMaxim Integratedの買収額が210億ドル、NVIDIAによるArm買収が400億ドル、AMDによるXilinx買収が350億ドル、そしてIntelのNAND事業のSK Hynixへの売却が90億ドルと、わずか数カ月間で大型M&Aの発表が相次ぎ、買収額の総額は1000億ドルを超え、これらすべてが各国の規制当局に承認されれば、その買収総額は過去最高を更新する状況となってきた。

これらのM&Aにより、シナジー効果が発揮されることで、米国勢の設計力はますます強化され、さらに高度で差異化された多様な先端半導体製品が米国半導体企業で設計されるようになり、世界の半導体ビジネスを主導するとともに革新を起こすことが期待される。IntelのNAND事業売却は他のM&Aとは異質だが、選択と集中戦略で本業のCPU開発に人材と資金を投入し注力するいう意味では設計力の強化につながるだろう。

MarvellがInphiを買収しデータセンタや5Gインフラ事業強化

そんな中、Marvell Technologyが同業ライバルの米Inphiを100億ドルで買収すると10月末に発表した。Inphiの持つ光ファイバー通信技術やDSP技術と、Marvellが持つ有線通信技術やストレージ、ネットワーク、プロセッシング技術を組み合わせることで、Marvellはクラウド/データセンターや5Gインフラの事業の強化を図るとしている。

こうして誕生する新会社の市場価値はおおよそ400億ドルとMarvellは見込んでいる。新会社がリーチできる市場の規模は230億ドルで、その市場は年間12%の成長が見込めるとする。もし取引が成立した場合、同社は18か月間で約1億2500万ドルの収益を見込んでいる。

今後両社の株主総会、および関連当局の承認が順調に得られれば、2021年下期に買収が完了する見込みで、その際、現在のInphiの最高経営責任者(CEO)であるFord Tamer氏はMarvellの取締役会に加わる予定である。また今回の買収に伴い、Marvellは本社をバミューダ諸島から米国に移す計画としている。

Marvellの社長兼CEOのMatt Murphy氏は、「Inphiの買収により、クラウド市場におけるMarvellのリーダーシップは強化され、今後10年間で我々の5G市場におけるポジションが高まる。Inphiのテクノロジーはクラウドデータセンターネットワークの中核を担っており、独自のシリコンフォトニクスとDSPテクノロジーを活用する400Gデータセンター相互接続光モジュールなどの革新的な新製品でリーダーシップを拡大し続けている。Inphiのクラウド顧客への存在感の高まりは、MarvellのDPUやASIC製品の更なる導入機会にも繋がると信じている」と述べている。

NANDを手放す一方でAIベンチャーを次々と買収するIntel

Intelは、NAND事業をSK Hynixに90億ドルで売却する一方、AIの運用基盤を構築するため、AI関連のスタートアップを次々と買収している。

例えば10月29日、機械学習モデリングとシミュレーションを実行するための最適化プラットフォームを開発しているスタートアップ企業SigOptを買収したことを発表した。SigOptのAIソフトウェアテクノロジーは、ハードウェアとソフトウェアのパラメーター、ディープラーニング、機械学習、データ分析のユースケースとワークロード全体で生産性とパフォーマンスを向上させるのに役立つので、Intelは、AIハードウェア製品全体でSigOptのソフトウェアテクノロジーを使用して、開発者向けのインテルのAIソフトウェアソリューションの提供を加速、拡大、拡張することを計画しているとしている。なお、Intelは買収額やその他の買収条件は公表しないとしている。

さらに、Intelは、データサイエンティストが機械学習モデルを構築して実行するためのプラットフォームを開発し運用しているイスラエルのスタートアップ企業であるCnvrg.ioも買収した模様であると米国シリコンバレーのテクノロジーメディア「TechCrunch」はじめ一部のメディアが11月3日付けで伝えている。Cnvrg.ioは、Intel買収後も、Intel傘下の企業として従来通り顧客への対応を続けていくとしている。Intel広報は、買収の事実は認めているが、買収額はじめ詳細を一切開示しておらず、プレスリリースも11月12日現在だしていない。

なお、Intelは、2019末にAIチップメーカーであるイスラエルのHabanaを20億ドルで、2017年に自動運転支援用画像処理システム開発のイスラエルMobileyeを150億ドルで買収している。

Intelは急成長AI分野に賭けてM&Aで開発体制強化

Intelは、2024年までにAIシリコンのアドレス可能な市場の合計金額が250億ドルを超えると予測しており、その中で、データセンターのAIシリコンは同じ時間枠で100億ドルを超えると予想している。

インテルは同社のAI戦略について、SigOpt買収の際に、次のように説明している。

「ビジネスの成果を向上させるAIの力を信じており、それにはハードウェアとソフトウェアの幅広いテクノロジーの組み合わせと、完全なエコシステムのサポートが必要である。インテルのAIソフトウェア戦略は、インテルのハードウェアパフォーマンスを最適化し、AIワークフロープロセスを高速化するツールを提供し、開発者に一貫したエクスペリエンスを構築することを目的としている」

2020年の半導体企業M&A総額は1171億ドルを越え史上最高に

2020年10月末時点での契約締結時点での米国半導体企業によるM&Aの総額は、のMarvellのInphi買収やIntelの2件の買収を含めて1171億ドル(+すでに買収が発表されたが買収額非発表分+今後12月末までにさらに発表されるかもしれない分)となり、M&Aラッシュにより史上最高額を記録した2015年の1077億ドルを100億ドルほど超えて、過去最高額を更新する可能性他高い。世界の半導体産業は、このような米国の大手半導体企業の積極的なM&Aにより、ますます上位の寡占化が進むこととなり、今後もその傾向が続くことが予想される。

参考文献

Marvellのプレスリリース
IntelのSigOpt買収発表に関するプレスリリース
TechCrunchによるIntelのChvrg.io買収報道