Samsung Electronicsの事実上のトップである李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が10月8日、韓国の金浦空港から大韓航空チャーター機でオランダへ向けて出国し、翌9日に露光装置メーカー大手ASMLの本社を電撃訪問したと多数と韓国メディアが伝えている。

Samsung広報担当者は李副会長の出張スケジュールについては知らないと韓国メディアに答えており、秘密裏の行動のようで、多くの韓国メディアは、日韓相互入出国規制をビジネス訪問に限って緩められたタイミングであり、日本を訪問するのではないかと事前に予想していたようである。

李副会長が海外出張をするのは、2020年5月の新型コロナウイルスの感染拡大の最中に入出国管理当局にPCR検査を何度も要求されながらも、中国・西安の自社NAND工場を訪問し、拡張中の製造ラインを視察して以来のことである。

微細化で先頭走るTSMCにSamsungが危機感?

オランダを海外出張再開の最初の国に選んだ背景について、一部の韓国メディアは、TSMCの2020年第3四半期の業績を見て危機感を覚えたからではないかと分析している。

Samsungは、10月初めに第3四半期業績(速報値、詳細については10月末に発表予定)が前年同期を上回る見込みであることを明らかにしたばかりだが、その2日後に発表されたTSMCの2020年9月売上高は前年同月比25%増の1275億8500万NTドル(約4700億円)と、過去最高を記録した8月の約1229億NTドル(約4500億円)よりも前月比3.8%増とし、月間業績の最高値を更新した。TSMCのEUV露光装置を使用する7nm/5nmの先端プロセスに世界中から生産委託の注文が殺到しており、このためTSMCは、ASMLの年間EUV露光装置生産能力(40台程度と思われる)を超える数量のEUV露光装置を追加発注しているといわれている。

ASMLは現在、生産能力をはるかに超える受注を台韓米中の半導体企業から抱えているため、ファウンドリ2番手のSamsungはEUV露光装置の確保で苦戦しているといわれている。生産されるEUV露光装置のほとんどがTSMCに優先納入さていれるようで、Samsungはせいぜい年間10台前後しか入手できないのではないかと韓国半導体装置業界関係者は見ている。

これに加えてSamsungは、EUVを多用する最先端プロセスにおいて歩留まり低迷で苦戦しており大量生産ができるような状況にはないと台湾および中国の複数のメディアが伝えており、この問題の打破についても副会長自身が動いたという見方もある。

過去にも装置材料メーカーへ直談判で問題を解決

李副会長は2016年、有機EL(OLED)の蒸着装置の競争が激化する中、日本のキヤノントッキを自ら訪問し、トップ会談で長期契約を結び、それ以来、Samsung Displayは小型OLEDディスプレイパネル市場で圧倒的なシェアを確保できている。

経済産業省が対韓半導体ディスプレイ素材輸出規制を2019年7月1日に発表した際には、李副会長は、文大統領との会合をキャンセルして日本に単身のり込み、素材メーカーと海外拠点からの輸入など代替策の交渉をしたと言われており、Samsungは製造中断の危機を乗り越えて今日に至っている。このような前例があるため、今回も、SamsungトップによるASMLへの直談判によりEUV露光装置の納入台数を増加させる交渉をまとめるのではないかと多くの韓国メディアは見ている。

TSMCとの勝負に必須のEUV露光装置

韓国の非メモリ強化の国策に沿って「2030年にファウンドリを含むシステムLSIビジネスで世界トップになる」と宣言したSamsungにとって、ASMLが独占販売している売り手市場のEUV露光装置を1台で多く入手する契約を結ぶことは将来に向けた最重要課題であろう。

なお、ASMLは、IntelやSMICからもEUV露光装置を受注しているが、IntelはEUVリソグラフィを使う最先端プロセスの開発が大幅に遅れており、場合によっては製造をTSMCに委託することもありうるとしている。一方のSMICへのEUV露光装置の納入は、米国政府からオランダ政府への輸出許可を出さぬようにとの要請でストップしたままである。