大量輸送、個人輸送、貨物輸送の未来が電気動力で行われることに疑いの余地はなく、航空業界でさえもジェット燃料が電気に置き換わり始めています。電気への移行はすでに自動車セクターでは前例のない変化をもたらしており、実際のところ、現状で主要電力源が何らかの非再生可能燃料に依存しているどの分野でも、同様なきわめて大きな混乱が起こるでしょう。

発電方法は、CO2排出量を削減するという世界的なコミットメントに沿って、よりクリーンで再生可能な方法へと移行しつつあります。再生可能エネルギーは現在十分に確立されていますが、新しい(潜在的により効率が高い)技術も研究されており、新技術は確実に開発され、それが開発された時点で移行が完了します。

しかし、化石燃料を用いた火力発電所の廃止に伴い、安価なエネルギーの時代も終焉を迎えるかもしれません。つまり、ここにきて初めて、燃焼よりも導通(より正確には半導体)の方が、性能や効率の面でインパクトが大きいということになります。したがって、(1)単位発電量当たりの作業量を増やすこと、および(2)作業量に対する発電量を増やす必要があることの2つの理由から電気の管理方法も変化しなければならないことを意味します。

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    図1:半導体使用量の増加

ワイドバンドギャップの出現

少なくとも当分の間は、一般的にシリコン、具体的に言うとCMOSが、最も重要な半導体技術としての地位を失う見込みはほとんどありません。しかし、大電力および高周波アプリケーションの場合、シリコンが唯一の選択肢ではないことが広く認識されています。

事実、この点におけるシリコンの限界がさらなる改良の障害となっています。車輛の電動化を成功させるには、このような状況は耐え難いものであり迫り来る危機に対応するために、半導体業界は挑戦に踏み出しました。

ワイドバンドギャップ(WBG)半導体基板、特に窒化ガリウム(GaN)とシリコンカーバイド(SiC)の開発は、電圧/電流容量、スイッチング速度、寄生特性の面で大きな利点があることが判明しました。このような特長を備えているためWBGは、自動車分野のハイブリッドまたは全電動ドライブトレインで使用される高電圧の管理、変換、分配に最適なソリューションとなっています。また太陽電池インバーターや風力タービンなど、高効率が求められる他のアプリケーションや、産業オートメーションにおける電気モーターの駆動にも応用が広がっています。

もちろん、これに大きな課題がないわけではありません。例えばオン・セミコンダクターは、大型ダイSiC MOSFETの開発に成功した半導体メーカーの1社ですが、製造プロセス全体を再評価してSiC用に再設計し、歩留まりの問題を解決したほか、SiCがコンポーネントに与えるストレス増大に対処するためにパッケージも再設計、SiCが可能とする高いdv/dt値に対応できる新しい酸化物を開発しなければなりませんでした。

しかも、これらの課題を比較的短い時間で解決し、ダイオードおよびMOSFETとして市場に投入するには、優れたエンジニアリングチームによる多大な努力と膨大な作業量が必要でした。

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    図2:1200V SiC MOSFET

エコシステムの構築

半導体業界全体から見ればWBGはまだ未成熟な技術です。CMOSとは異なり、市場に「ファブレス」ルートを提供するサプライチェーンが確立されていないため、サプライヤー数が圧倒的に少ない状況です。WBGの先駆者たちは、GaN製品やSiC製品の開発を目指す、より広い業界のニーズを満たすことができる水平分業の構築よりも、WBGの技術と市場そして独自の製品ポートフォリオの開発に注力してきました。

これらの市場ダイナミクスは、テクノロジの進化に伴って変化する可能性がありますが、今日WBGデバイスの供給を成功させたい企業は、ブールからボードまでのトータルソリューションを揃える必要があります。オン・セミコンダクターはこの点に的を絞ることで、ターゲット市場におけるトップSiCサプライヤになるという戦略を掲げています。

トータルSiCソリューション

トータルソリューションの概念は、SiCトランジスタ、ダイオード、または統合パワーモジュールに限定されません。WBGの本質は、それが実現するエンドアプリケーションと同様に破壊的です。技術者は、パワートランジスタにはドライバが必要で、各トランジスタタイプ(Si、SiC、GaN)にはこの点でそれぞれ要件が異なることを認識する必要があります。これは製品を完成させるのに必要なドライバ技術に影響をもたらすためです。

驚くべきことに、一部のサプライヤはSiC MOSFETで使用するためにIGBTドライバを再利用できると主張しています。オン・セミコンダクターは、これは最適化が不十分なソリューションにつながる可能性が高いと考えています。ドライバは、使用する半導体技術の具体的な要件に合わせて開発する必要があるのです。従来のMOSFETやIGBT用に設計されたドライバをSiC MOSFETの駆動に流用しても、WBG内でのスイッチング動作や、入力インピーダンス、ゲート電荷、ダイナミック特性(di/dtおよびdv/dt)などの基板パラメータの違いは考慮されません。

これらの大きな違いを考慮に入れると、標準的なIGBTまたはスーパージャンクションMOSFETドライバは、SiC MOSFETを最適に駆動できるよう設計されていないことは明らかです。結果として、これらのデバイスが最大性能を発揮できなければ、高効率、高電力密度、総コスト削減という要望に応えることはできません。

パワーモジュールの重要性

SiC向けエコシステムはモジュールに拡大する必要もあります。なぜならモジュールはすでにパワーアプリケーションの主要な市場牽引品目なので、WBGへの移行によってこれが変わる可能性は低いからです。所要電力20kW以上のアプリケーションでパワーモジュールを使用するメリットは実証済みであり、また電力需要も増加の一途をたどっています。

モジュール市場でのSiCのインダクタンスと熱的優位性を強く実感できるでしょうが、同じフォームファクタを使用できるとしても、モジュール設計の他のほぼすべての側面に対応する必要がでてきます。それには、例えばSiC FET用SPICEモデルの利用など、高度な設計サポートが必要になります。もう1つの重要な開発は、近い将来に起こると思われるIGBTとSiC間のコスト差異です。前述したとおり、新興市場では製造効率を向上させるために、主要な各ステージにおける垂直統合の強化を必要としていますが、オン・セミコンダクターもこれを痛感し積極的に追求しています。

自動車部門、特に電気自動車からのSiCソリューションへの関心が高く、その度合いは増しています。SiCのサイズ、重量、効率における利点はすでに各メーカーに評価されており、価格差の解消が進めば需要のさらなる増加が予想されます。そうした市場環境の中、オン・セミコンダクターは、すでに多数のダイオードとMOSFETを提供しており、2019年には産業市場向けの完全なSiCモジュールの販売を開始したほか、2020年には車載製品の包括的なポートフォリオをリリース予定としており、こうした取り組みで、SiC向けエコシステムの構築と需要拡大を支援し、半導体業界全体に力を与える好循環を生み出すことを目指しています。

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    図3 オン・セミコンダクターのシリコンカーバイドダイオード&FETのポートフォリオ

著者プロフィール

Bret Zahn
ON Semiconductor
Senior Director and General Manager, Low Voltage MOSFETs, Battery Protection MOSFETs and Wide Band Gap (GaN and SiC)