スペースXの「スターシップ」
イーロン・マスク氏率いるスペースXは、巨大宇宙船「スターシップ」の改造型を提案した。
スターシップは同社が自主開発している宇宙船で、直径9m、全長50mの巨体をもち、打ち上げに同じく巨大な「スーパー・ヘヴィ」ロケットを使うことで、最大100人の人員、もしくは100tの物資を地球低軌道へ運ぶことができる。現在は試作機の開発や試験が行われており、今後、高度数十kmへの試験飛行などを経て、実機の製造に移る計画となっている。
スターシップはもともと、地球から月や火星へ行き、現地に滞在したのち、地球に帰ってくることができる宇宙船として開発が進められているが、HLSへの提案にあたっては、月周回軌道と月面の往復、月面での滞在に特化した設計に変更されている。
たとえば、火星や地球への着陸時に必要となる巨大な翼は、月では不要であることから取り外されている。また、月面でロケットの下部にあるエンジンを噴射して離着陸すると、月の砂を巻き上げてしまうことから、機体側面に離着陸のためのロケットエンジンが追加されている。また、あくまでアルテミス計画で使うことを考えているため、地球からの打ち上げでは人を乗せず、他社の提案と同じように月周回軌道でオライオンとランデヴーしたうえでに月に降りる。
その一方で、スターシップの特徴である巨大な機体はそのままで、前述の2社の提案に比べ、はるかに大量の人員や物資を運ぶことが可能であるなど、明らかに一線を画している。
これら3社の提案について、NASAのジム・ブライデンスタイン長官は「それぞれが非常に異なっています。月へより速く行くことを考えている案もあれば、コストを下げる画期的な技術を生み出すことを目指している案もあります」と語る。
また、とくに他社とは大きく異なるスペースXの案に対しては「明らかに他とはまったく異なるソリューションです。しかし、これはゲーム・チェンジャーとなる可能性があります。私たちはその可能性を軽視したくありません」と期待を語っている。
2024年の月着陸ではゲートウェイは使わず
もっとも、この民間の月着陸船の開発にはやや不安が残る。トランプ政権は2020会計年度のHLSプログラムに約10億ドルを要求していたが、米議会は約6億ドルを計上するにとどまった。今年10月1日から始まる2021会計年度に向けては、トランプ政権は約33億ドル以上を要求しているが、これも満額が認められるかはわからない。
前述した、ISSへの宇宙飛行士の輸送を民間に任せる計画でも、つねに資金不足の問題がまとわりつき、宇宙船の開発が遅れる要因のひとつとなった。HLSでもまた資金が十分に供給されなければ、2024年の月面着陸も遅れることになるかもしれない。
また、以前の計画では、アルテミスIIIでもゲートウェイが使われることになっていたが、コストの都合や、またトランプ大統領が定めた「2024年までに月着陸を実施すること」とした目標を達成するため取りやめとなり、オライオンと月着陸船を直接ドッキングさせる形となった。
ブライデンスタイン長官は「私たちは可能な限り早く月に着陸するため、そのパス(ゲートウェイを使うこと)をやめました」と語る。ただ、「私たちが月での持続的な探査を考えるとき、ゲートウェイはかならず必要です。2回目の月面着陸までには、確実にゲートウェイを導入したいと考えています」と付け加えた。
また、「ゲートウェイを拠点にすれば、月着陸船を何度も再使用できるため、コストを削減できるとともに、月面へのアクセス回数を増やすこともできます。また、月の北極から南極、赤道域をはじめ、月面のあらゆる場所へ行くことができるようになります。そして最終的には火星行きの船としても使うことができ、国際パートナーとの信頼を築くこともできます。私たちはゲートウェイに100%コミットしています」とも語った。
参考文献
・NASA Names Companies to Develop Human Landers for Artemis Missions | NASA
・NASA Selects Blue Origin, Dynetics, SpaceX for Artemis Human Landers
・Blue Origin | NASA Selects Blue Origin National Team to Return Humans to the Moon
・Dynetics | Dynetics To Develop Nasas Artemis Human Lunar Landing System
・Starship | SpaceX