脱日本を進める韓国の電子産業界

韓国産業通商資源部の長官(日本の経済産業大臣に相当)である成允模(ソンユンモ)氏は2020年5月11日、「第2次ポストコロナ産業戦略会議」を開催し、新型コロナウイルス感染終息後の半導体を中心とした産業振興策について産業界代表者と対話したことを明らかにした。

同会議にて成長官は「日本政府が2019年7月に韓国に向けた輸出管理厳格化を実施した半導体・ディスプレー材料3品目について、供給の安定化を実質的に達成できているほか、素材・部品・装備のうち輸入に頼る割合が相対的に高い100品目を2019年8月以降、競争力強化に取り組んでいるが、在庫水準を従来の数倍に引き上げることができた」と述べたという。

輸出管理厳格化3品目のフッ化水素、フッ化ポリイミド、EUVレジスト(感光材)は、日本製に代えて米国、中国、欧州から調達しているほか、外資系企業の投資誘致や韓国企業の生産拡大などさまざまな対策を取り入れることで、実質的に供給の安定化をすでに達成したとしている。

半導体製造で酸化膜のエッチングに使われるフッ化水素は複数の韓国企業が量産工場を新設ないし増設し、同国内の需要に十分応えられる供給能力を確保したという。Sasmung Electronicsが先端のロジックやメモリ製造で使用するEUV用フォトレジストは欧州製品へと調達先を多様化したうえ、米DuPontも韓国に生産施設を設けることを決めた。折りたたみ式スマートフォンで用いられるフッ化ポリイミドは、韓国化学大手SKCともう1社が韓国内で製造を始めており、供給能力が向上する見通しだという。100品目中、76品目は同程度の品質の米国、欧州製品に代替できそうで、48品目はM&Aや投資プロジェクトを通じて国内の生産能力を増強するとしている。

  • 第2次ポストコロナ産業戦略会議

    韓国産業通商資源部が開催した「第2次ポストコロナ産業戦略会議」の様子 (出所:韓国産業通商資源部Webサイト)

日本だけが生産していたレンズ素材も韓国企業が国産化へ

日本が独占的に生産していた、透明性・高屈折性に優れた高機能光学レンズ素材であるキシリレンジイソシアネート(XDI)についてだが、石油化学分野の素材メーカーであるHanwhua Solutionsが5月10日、同国内で商業生産を始めたことを明らかにしている。三井ケミカルについで世界2位のXDIメーカーを目指すとしている。

同社幹部は、「韓国政府の素材・部品・装備産業育成の趣旨に合わせて今後も素材国産化を積極的に進めたい」と話したという。

日本の素材装置産業育成に向けた経産省の仰天計画とは?

韓国では日本の輸出管理厳格化に対処するため、半導体素材や製造装置の国産化を急いでおり、中国も中央政府の半導体デバイスの自給自足方針に基づいて素材や製造装置の国産化にも注力を始めている。そんな中、韓国や台湾など海外の半導体企業に強く依存している日本国内の半導体素材・製造装置メーカーの「国内回帰」を促すため、日本の経済産業省(経産省)がIntelやTSMCなどの外資半導体企業の量産工場を日本に誘致する計画を進めていると一部の国内メディアが報じている。

すでに2020年度予算にも誘致のための予算が組み込まれて国会でも承認済みだという。著者が業界関係者などに聞き取り調査を行った範囲での話であるが、どうやら経産省の一部に本気でこの計画を実行しようとしているところがあるようだ。ただし、あくまでも経産省の願望に過ぎず、成功するか否かは別の話である。

米国や台湾の半導体メーカーにとって日本へ進出するメリットは、日本市場のシェアや工場立地条件(人件費、エネルギーコストなど)の観点からほとんど見いだせない。あえて言えば、東京エレクトロン(TEL)などの大手製造装置、材料企業が近くにあること程度であろう。

米国のトランプ政権は、国家安全保障上の理由から、半導体デバイスのアジアへの製造委託をやめて米国内で製造を行えるようにするため、IntelやTSMCに米国内にファウンドリを新設するよう要請し、すでに商務省や国防総省と各半導体メーカーが協議を始めていると海外の多くのメディアが伝えている。Samsungにもテキサス州オースチンのファウンドリで最新プロセスがつかえるように米国政府は要請していると韓国メディアは伝えており、こうした動きにならったもののように見えるが、日本でこうした動きが実際にものになるのか、しっかりと注視していく必要があるだろう。