韓国SK財閥傘下の化学メーカーSKCが半導体製造用マスクブランクスの試作を開始し、2020年下半期にも本格的に量産を始める予定であることが、韓国産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)からの発表で明らかになった。

マスクブランクスは半導体リソグラフィに必須のフォトマスクを作製するための石英ガラス基板上に金属膜と感光膜を塗布したもので、回路パターンを露光・現像で形成するとフォトマスクが出来上がる。マスクブランクスは日本からの輸入が9割以上を占めており、韓国が対日依存の脱却を目指す素材・部品・装備(装置や設備)の最重要20品目にあげられ、脱日本を目指した取り組みが進められてきた。

同国産業通商資源部の鄭升一(チョン・スンイル)次官は4月20日、ブランクマスクの国産化の成果を確認するため忠清南道天安市にあるSKC天安工場を視察、マスクブランクス生産ラインのあるクリーンルームを見学したという。同氏は、同社幹部との会談で「素材・部品・装備技術力の強化のために、政府と需要・供給企業間の緊密な協力が重要であり、早期の成果創出のために素材・部品・装備100核心品目の商用化に2020年2100億ウォン以上を支援する計画である」と語ったとされる。 。

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    韓SKCのマスクブランクス工場を視察する韓国通商産業資源部の一行 (出所:韓国通商産業資源部Webサイト)

SKCは、430億ウォン(約40億円)を投じ、日本への依存度が高かったマスクブランクス製造工場を2019年末に完成させ、すでにハイエンドの顧客認証用製品の試作を終えている。

2020年内に量産を開始し、商品化することを目指しているほか、2021年にはさらに進んだ製品の量産化を目標に掲げている。

SKCによると、世界のマスクブランクス市場は、2018年の8000億ウォン(約710憶円)から2025年の1兆3000億ウォン(約1160憶円)に年平均7%で成長する見通しだという。

同市場のトップシェアは日本のHOYAで、特にEUV向けは同社が独占している状況である。SKCは、すでに日本政府が輸出管理の厳格化を行った折りたたみスマートフォンのディスプレイ向けフッ化ポリイミドの国産化を達成しており、量産も開始している。

このほか、SKグループ(旧SK財閥)としても、 SK Materialsが半導体用特殊ガスや日本政府が輸出管理を厳格化したガス状フッ化水素を、SK Siltronがシリコンウェハをそれぞれ国産化しているほか、SiCウェハ事業も2019年にDuPontから買収するなど、グループ全体で半導体素材の国産化に向けた取り組みを進めている。

日本からの輸入額はレジストが増加もフッ化水素が激減

韓国の産業通商資源部および関税庁によると、2020年第1四半期(1月~3月)の半導体製造用フォトレジストの輸入は約8684万ドルで前年同期比31.3%増となったという。日本からの輸入額は全体の89.6%を占める約7780万ドルで、前年同期比で27%増、前四半期比で53.2%増、そして重量比でも前年同期比27.4%増と大幅な増加傾向となった。

日本政府が輸出管理を厳格化しているレジスト材は、最先端プロセスによるロジックデバイスの生産向けに用いられるEUVレジストのみで、現在はまだそこまで多く消費されない。大量に使用されるArF/KrFレジストについては厳格管理の対象外となっているため、韓国半導体企業の増産に対応して日本企業からの輸出が増加している模様だ。ただし、韓国政府はレジスト材の日本への依存度が高いことそのものに危機感を抱いており、国産化(海外企業の韓国内生産を含む)を急いでいる。

一方、日本からの半導体製造用フッ化水素の輸入は約238万ドルで前年同期比88.4%減となっている。韓国では、SolbrainやRAM Technology、SKCなど複数の化学メーカーが競って国産化を進めており、原料も中国や台湾のフッ化水素メーカー(主に日系企業)から輸入を進めている。このため、大阪のフッ化水素専業メーカーである森田化学やステラケミファの業績が悪化している。上場企業であるステラケミファの2019年度業績はまだ発表されていないが、発表済みの2019年第2四半期および同第3四半期の純利益を見ると、それぞれ同58%減、同45%減と大きく落ち込んでしまっていることが分かる。