韓国産業通商資源部の成允模(ソン・ユンモ)長官は2月17日、韓国大統領府(青瓦台)で2020年の業務報告を行い、素材・部品・装備(装置・設備)産業が日本政府の韓国に向けた輸出管理強化や新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けずに確実に自立できる国産化体制の実現やポスト半導体メモリの育成に注力する方針を発表した。

韓国政府が掲げる新たな半導体強化政策

具体的には、同氏は「日本が輸出管理強化を行った後も、生産に支障をきたすようなことは発生しなかった」ということを強調したうえで、「日本の輸出管理強化と中国における新型コロナウイルス感染拡大は、韓国の素材・部品・装備産業の海外依存度の高さを認識する契機となった。今後は、素材・部品・装備で確実な自立を推進し、脱日本を実現するとともに、世界市場への進出にも注力していく」と述べている。

2月17日に文大統領に報告された通商産業資源部の半導体関連の主な施策は以下の通りである。

  • 日本が輸出規制強化を行った3品目の供給不安を完全に解消し、主要100品目を国産化するため2020年に2兆1000億ウォン(約2000億円)を投入する。なお、需給に予期せぬ支障が生じた場合には「素材・部品・装備特別法」に基づく緊急需給安定化調整命令によって供給安定性を確保する。 
  • 新型コロナウイルスが需給に及ぼす影響を精査し、中国など海外に進出した素材・部品企業の国内への回帰とサプライチェーンの多角化(複数の国々からの輸入など)を積極的に推進する。
  • このところ減少し続けている韓国の輸出を上昇させるための「ポスト半導体」(この場合の「半導体」とは半導体メモリを指す)として、システムLSI、コネクテッドカーなどの次世代自動車、バイオヘルス、ロボットなどを育成する。
  • 「次世代半導体」(半導体メモリ以外のシステムLSIを指す)の技術開発には過去最大となる10年間(2020~2029年)で1兆ウォンの予算を投入し、ファブレス(システムLSI設計企業)需要に合わせた共同ファウンドリの構築、設計支援センターの開所、1000億ウォン規模のファンドなどを通してファブレスの成長基盤を固める。
  • ソウル近郊の京畿道・龍仁(ヨンイン)に造成予定の半導体クラスター(SK Hynixが中核企業として進出することをすでに決めている地域)を素材・部品・装備産業のための特別な工業団地に指定し、企業間の協力・共生モデル構築を推進し、用水や電気などインフラ整備を支援する。
  • 2月にはソウル近郊の京畿道・華城で(Samsung Electronicsが)最先端の半導体製造の新規ラインを稼働させ、上半期中に世界最高レベルの5nmロジック半導体の量産に入る。
  • ファウンドリ市場でシェアを20%まで伸ばし、半導体輸出が1000億ドルへ回復することを目指す。

韓国勢が挑む素材部品装置の国産化

このほか、韓国通商産業資源部は、日本への依存度が90%を超える工作機械のCNC(コンピュータ数値制御)に関して、韓国を代表する企業群が共同出資するCNC技術開発専門企業を2020年上半期中に設立し、CNC装置を2024年までに国産化する計画を発表した。総事業費818億ウォンのうち、通商産業資源部も5年間で約573億ウォンの研究開発資金を投入するという。

韓国の電子産業メディアETNewsは2月18日付けで、「SK Hynixは、3D NANDフラッシュメモリ製造でシリコン窒化膜のエッチングに必須の高選択性リン酸の購入先の多様化を目指して、SKグループの半導体用ガス薬品メーカーであるSK Materialsの協力を得て化学メーカーLTCAM(2004年に創業した半導体用薬液メーカー)に量産させようとしている」と伝えた。

SK Hynixは現在、韓国の大手化学素材メーカーSoulbrainからリン酸を購入しているが、危機管理上、韓国内での複数購買を目指している。日本政府が輸出管理強化の対象品目としてきたフッ化水素に関しても、SK Hynixは、Soulbrainのほか、独自に開拓した韓RAM Technologyからも購入を始めている。韓国の業界関係者によると、Soulbrainには、SK HynixのライバルであるSamsung Electronicsが資本参加していることも背景にはあるようだという。

Samsung Displayも2021年に量産を予定しているQD-OLEDの製造装置発注・仕様打ち合わせの時期に入っているが、韓国政府の装備国産化推進政策に呼応しておもにSEMESをはじめとする韓国企業(日本企業傘下の韓国メーカーを含む)の装置を選定しているという。

日本の半導体関連企業の韓国企業へのアクセスがさらに困難に

韓国政府教育部(日本の文部科学省に相当)は、日本より1か月早く3月1日より始まる新学年に備えて「すべての中国人留学生は、入国後14日間の登校を禁じ自宅待機とする。ビザ未受給者は1学期休学(つまり当分入国禁止)を勧告する」という全国統一ガイドラインを18日に定め各大学に通達した。

韓国半導体および関連企業も、新型コロナウイルスへの感染被害が中国だけではなく日本をはじめとする多くの国・地域で拡大していることを受け、早い時期から社員の新型コロナウイルス汚染国への出張を事実上禁止(正確には帰国後14日間の出社禁止)したり、日本はじめ感染国の企業社員の会社構内立ち入りを事実上禁止するなどの対応策を講じてきたが、日韓の半導体業界関係者によると、今週に入り、新たなガイドラインが策定され、韓国企業の中には、自社社員に企業外でも感染国の企業の社員との接触(社外での面会や会議など)を禁止するところが増えてきたという。

直接会っての商談ができず、電話やインターネット経由でしか韓国の顧客にアクセスできない状態が長引くようであれば、詳細な内容についての打ち合わせなどが行えず、実際の業務に支障をきたすことも出てくると日本の半導体関連産業関係者も懸念を示すようになってきており、今後の成り行きを注意深く見守る必要がでてきたといえる。