徳島県海部郡海陽町と宍喰(ししくい)漁業協同組合、リブル、徳島大学、KDDIは3月30日、ICTを活用した漁業の安定化と効率化を目指し、「あまべ牡蠣スマート養殖事業」を海陽町那佐湾で、同1日から開始したと発表した。なお「シングルシード生産方式」によるカキ養殖で、IoTを活用した取り組みは日本初だという。同事業はスマート漁業分野で先導的な取り組みとなっている福井県小浜市での「『鯖、復活』養殖効率化プロジェクト」の横展開事業として、総務省令和元年度「IoT実装推進事業」に採択されており、受託者であるリブルとともに海陽町、宍喰漁協、徳島大学、KDDIが連携して取り組む。

  • 事業の概要

    事業の概要

4者は、2018年12月に地域活性化を目的とした連携協定を締結し、取り組みの一環としてカキ養殖における課題とICTを活用した解決策について協議しており、那佐湾で行っているカキの養殖にはシングルシード生産方式を採用している。

リブルは海陽町で新たにカキの養殖事業のベンチャーとして設立し、徳島県全体において漁獲量減少と高齢化により水産業の低迷が続いている中で、従来の獲る漁業に加え、新たに養殖業という「計画的に育てる漁業」の事業化を目指している。

日本でのカキ養殖は「イカダ垂下方式」(イカダなどからカキを吊り下げて養殖する方式)が一般的だが、海陽町の澄んで綺麗な海洋環境ではプランクトンなどカキの養分になるものが少なく、上手く成熟しないという問題があったという。

そこで、シングルシード生産方式を採用したところ、身入りが良く質の高いカキが生育することが分かり、リブルは、2018年から海陽町を拠点に事業を開始した。あまべ牡蠣は同町が朝廷に水産品を献上する地域として「あまべ(海部)」と呼ばれていたことに由来し、リブルが那佐湾で養殖するカキの名称となる。

IoTセンサ機器をカキ養殖カゴに取り付け、カキの生育に大きく関係すると考えられる「水温」「カゴの揺れ」「濁度」の情報を定期的に収集し、クラウド上へ蓄積。データはグラフ化され、いつでもPCやスマートデバイスで確認できるため、全漁業者が共通した基準でカゴの浮力を判断することが可能だという。

  • 養殖場に浮かぶIoTセンサ機器

    養殖場に浮かぶIoTセンサ機器

  • 取得した環境データのグラフイメージ

    取得した環境データのグラフイメージ

漁業者の作業を効率的に管理するため養殖管理ツールを導入し、漁業者はスマートデバイス上の養殖管理ツールに各カゴに入っているカキの養殖期間、大きさ、個数などその日の作業内容を入力することで、養殖場にいながら作業日誌を更新することができる。

  • 「環境データの見える化」と「生育状況の記録利用」のイメージ

    「環境データの見える化」と「生育状況の記録利用」のイメージ

データはクラウド上に保管され、一覧で表示できるため管理作業の効率化を実現するほか、漁業者同士での共有や振り返りが可能となり、ノウハウを蓄積していくことで生産性の向上を目指す。蓄積したデータとカキの生育状況との相関を分析し、効率のよいカキ生育ノウハウの確立を目指す。

各者の役割として海陽町は町内関係者との調整、広報、PR活動を、宍喰漁協はデータ収集におけるフィールドの提供を、リブルは養殖環境でのICT活用、環境データ収集を、徳島大学は揺れセンサの開発、収集データの分析を、KDDIはIoTセンサ、クラウドサーバ、養殖管理ツールの提供をそれぞれ担う。