日本の重力波望遠鏡「KAGRA」での観測がスタート

東京大学宇宙線研究所などは2020年2月25日、大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」による重力波観測を開始したと発表した。

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    KAGRAの中央実験室 (編集部撮影)

KAGRAは岐阜県飛騨市に建設された、世界で4台目、アジア地域では初の重力波望遠鏡で、昨年秋の完成後、感度を高めるための調整や試験運転を経て、ついに重力波観測のための連続運転を開始。他の重力波望遠鏡とともに重力波の観測に挑む。

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    観測開始時のKAGRAコントロールルームの様子。中央に写っている大橋施設長が観測開始ボタンを押した瞬間 (C) 東京大学宇宙線研究所 重力波観測研究施設

重力波とは?

重力波は、質量をもつ物体が運動するときに発生する「時空のゆがみ」が、波となって光と同じ速さで宇宙空間を伝わる現象である。

その存在は、1915年から1916年にかけてアインシュタインが発表した一般相対性理論から予測されたが、時空のゆがみはとても小さく、地球と太陽間の距離が水素原子1個分変化するくらいしかない。そのため、直接的に観測することは長らくできなかったが、1979年に発見された連星パルサー「PSR1913+16」の観測から、重力波が存在することを間接的に証明することに成功。並行して重力波を直接捉えるための研究や技術開発も続けられ、そしてアインシュタインの予測から約100年経った2015年、米国に建設された2台の重力波望遠鏡「LIGO(ライゴ)」が初めて重力波の観測に成功した。

このとき検出されたのは、地球から13億光年先にあるブラックホールの連星が合体(衝突)し、ひとつの大きなブラックホールになる過程で発生したものとされ、この重力波イベントは「GW150914」と名付けられた。地球上の重力波望遠鏡で観測ができるほどの重力波を発生する天体現象としては、このようなブラックホールの連星の合体のほか、同じように高密度で質量の大きな天体である中性子星の連星の合体、また星の一生の最期である超新星爆発などの、激しい天体現象が考えられている。

また2017年には、イタリア・ピサ近郊に建設された欧州の重力波望遠鏡「Virgo(ヴァーゴ)」も稼働を開始し、そしてLIGOとの共同観測で、2個の中性子星の合体からの重力波を検出。さらに、それぞれが離れた場所にある計3台(LIGOが2台、Virgoが1台)の重力波望遠鏡で観測したことで、その発生源の位置を正確に特定することができたことから、世界中にある光学望遠鏡や電波望遠鏡など、他のさまざまな望遠鏡が即座にその方向に向けられ、重力波に続いて到達したガンマ線や可視光線などの電磁波を観測することにも成功した。

こうした、複数の手段で宇宙や天体を観測することを「マルチメッセンジャー天文学」と呼び、新たな天文学の幕開けとなった。

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    重力波の概念図 (C) R. Hurt/Caltech-JPL

日本の大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」

そして、LIGOとVirgoに続く形で開発されたのが、日本の大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」である。世界で4台目、アジア地域では初の重力波望遠鏡で、計画は東京大学宇宙線研究所が中心となり、国立天文台、高エネルギー加速器研究機構(KEK)など、国内外あわせて60以上の大学・研究機関が協力している。

KAGRAは、LIGOやVirgoと同様に、1辺の長さが3kmのL字型の2本の長い腕を持ち、そこに2つに分けたレーザーの光を飛ばし、それぞれの腕で何度も往復させ、最終的に光の干渉を用いることで、重力波によって引き起こされたわずかな空間の伸び縮みを検出する、「レーザー干渉計」という技術を用いている。

また、KAGRAにはLIGOやVirgoにはないユニークな特徴もある。レーザーが飛び交う腕の両端には、レーザーを折り返す鏡が設置されているが、この鏡が重力波以外の原因によって振動してしまうことをいかに抑えるかが、重力波を検出する感度向上の鍵となる。そこでKAGRAでは、望遠鏡を神岡鉱山(岐阜県飛騨市)跡地の、硬い岩盤の山の地下に設置して地面振動の影響を抑えるとともに、サファイアでできた鏡をマイナス253度まで冷却することで熱振動による影響を軽減している。この「地下にある」ことと「サファイア鏡を冷やす」ことは、他の重力波望遠鏡にないKAGRAの大きな特徴となっている。

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    KAGRAのミラーで使われているサファイア単結晶 (編集部撮影)

さらに、KAGRAが建設された場所の近くには、ニュートリノ観測装置の「スーパーカミオカンデ」や「カムランド」もあり、「ハイパーカミオカンデ」の建設計画も進んでおり、重力波と電磁波に、ニュートリノも加えた共同観測による、マルチメッセンジャー天文学の発展にも期待を集まっている。

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    岐阜、富山県境の池ノ山の地下に設置されたKAGRA、スーパーカミオカンデ、EGADS、XMASS、KamLANDの俯瞰図 (C) 東京大学宇宙線研究所 重力波観測研究施設

KAGRAプロジェクトは2010年に始まり、2012年5月から2014年3月にかけて総延長7.7kmに達するトンネルをはじめとする地下空洞の掘削を実施。並行して、長さ6km、直径80cmの真空ダクトや真空容器の開発、製造が進められた。

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    KAGRAのアーム。内部は真空 (編集部撮影)

続いて2014年5月から2015年9月にかけては、地下実験室の実験環境の整備や、真空ダクト、真空タンク、冷凍容器などの搬入と設置が行われ、さらに2015年からはレーザー光学系の組み込みや、鏡を地面振動から防振するための装置の組み込み、調整を進めるとともに、冷却して使用するためのサファイア鏡の開発、製造が行われた。そして2017年から2018年にかけてはサファイア鏡の搬入、組み込みといった作業が行われ、2019年4月、ほぼすべての機器の搬入、設置が完了した。

その後、精密なレーザー干渉計として動作させるための調整や検出感度を高めるための試験、調整が進められ、2019年10月4日に完成が宣言された。その後は感度を高めるための調整、試験運転が続けられ、そして2020年2月25日、最終の試験運転を経て、ついに重力波の観測開始となった。

KAGRAの研究代表者である、東京大学宇宙線研究所長の梶田隆章(かじた たかあき)教授は、今回の観測開始に際して、「2010年のKAGRAプロジェクト開始後から研究チーム一丸となった準備をしてきましたが、ようやく重力波観測を始めることができました。このプロジェクトを支援していただいた多くの方々のおかげであり、あらためてこれまでのご支援に感謝いたします。感度はまだまだですが、引き続き感度向上の努力を続けてまいります」と述べた。

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    2019年10月4日に行われた、大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」完成記念式典で挨拶する、東京大学宇宙線研究所長の梶田隆章氏

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重力波の発生源を正確に特定せよ! - KAGRAと世界の大挑戦
日本の重力波望遠鏡「KAGRA」が報道公開 - 年内に本格観測を開始へ
写真で見る大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」

参考文献

KAGRAが観測開始しました << KAGRA 大型低温重力波望遠鏡
大型低温重力波望遠鏡KAGRA観測開始 | 国立天文台(NAOJ)
重力波とは | 国立天文台 重力波プロジェクト推進室
連星中性子星合体からの重力波が初検出されました | ニュース | 国立天文台 重力波プロジェクト推進室
よくある質問 << KAGRA 大型低温重力波望遠鏡