2019年9月30日、東京大学 宇宙線研究所は大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」を報道陣向けに公開した。2度の稼働実験を経て、2019年年内からの本格的な重力波観測をスタートする予定だ。同年10月4日には関係者が集まっての完成式典も催され、LIGOとVIRGOと連動してのより精密な重力波観測、およびマルチメッセンジャー天文学の本格始動は近い。

またアクシオンの調査手法の考案もされており、将来的には重力波だけでなく、アクシオンの探査にも活用される可能性が高い。アクシオンは仮説上の未発見粒子で、強磁場において光に変わるものと予測される。標準模型の問題解決キーでもあり、暗黒物質の候補にもなっている。

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    大型低温重力波望遠鏡KAGRA

KAGRAはこれまでにも何度かの報道向け公開を行なっているが、今回は実験開始直前の公開。実験が開始されるとなかなか施設内に入れなくなるため、多くの報道陣が詰めかけていた。公開された区域は中央実験室とXアームだ。本稿では写真中心にKAGRAの様子をお届けする。

そのため、概略や仕様については、先行して掲載された大塚実氏のレポートを参照してもらいたい。また筆者が2017年に取材した写真も入れ込んでおり、おおよそ全体をフォローしている。なお、2017年撮影の写真初出はASCII.jp。

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    神岡鉱山内の施設の位置関係を示したイラスト (画像提供:KAGRA)

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    かぐらトンネル入口

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    この日取材に集まった報道陣。安全のためにヘルメットを装備

KAGRAへは、かぐらトンネルから入ることができる。厳密にはかぐらトンネルもKAGRAの一部。トンネル総延長7758mで、中央実験室や2本のアームなどで構成されている。アームトンネルはXアームとYアームのふたつがあり、Xアームトンネルは2992m、Yアームトンネルは2956m。また制振装置も含むと、施設内は3次元的な広がりを有しており、全体像の把握が地味に難しい。この点は神岡町の道の駅スカイドームにあるカミオカラボの模型がわかりやすい。

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    カミオカラボにあるKAGRAの模型。右下の空間が前室で、機器が並ぶ空間が中央実験室。レーザー発振源は写真左側からとなる。また縦に伸びているのものは高さ14mの常温低周波防振システム。X/Yアームのエンド側も含むと計4基がある

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    徒歩で中央実験室に向かう。普段は電気自動車で移動が中心

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    中央実験室までは約500m。トンネルの処理は場所場所で異なっている

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    数日前の雨量によっては、湧水が増える

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    一部はカラフルな照明でエモい。一般公開向けの要素と思われる

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    まっすぐ進むと中央実験室、右に入るとXアームへのショートカット。手前に見えるのは排水装置。排水装置は各所にあり、雪解け水が多い3〜5月はKAGRA全体で毎時2150トンの水が出ることもある

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    前室手前の空間。車両を取り回せる広さがある

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    入口側を見たところ

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    トイレと電動自転車置き場。自転車はXアーム内移動用も含まれている模様。ちなみに主なトイレはここだけのハズ

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    前室内部。ここで着替えたり、準備をしたりするほか、サーバールームもある。ちなみに、ここからでも中央実験室内はガラス越しに見られるため、一般公開のときは楽しめるだろう

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    サーバールーム。5kmほど離れたコントロールルームにデータを送る

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    Xアーム側の常温低周波防振システム頂部へと続く上昇トンネル

中央実験室は、レーザー発振減やレーザー径拡張装置、レーザー光強度増幅部、ビームスプリッター、高感度化光検出部などからなるほか、XアームとYアームが交差する部分でもある。公開時は高感度化光検出部とレーザー光強度増幅部までだった。よって以下には2017年の写真も含まれてくるため、2019年時点と形状が異なる可能性がある点を記しておく。

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  • 前室と扉を抜けると、高感度化光検出部がある

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  • パイプ以外のほとんどはクリーンエリア内にある

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    中央がレーザー光強度増幅部

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    レーザー径拡張装置。左に向かうと、レーザー光強度増幅部。右に向かうと、レーザー予備安定化装置がある

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    レーザー発振源とレーザー径拡張装置の接続部

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    レーザー発振源。2017年時なので、現行仕様ではないハズ

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    奥にあるものがレーザー予備安定化装置

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    ホコリ類がとにかくNGであるため、電子機器にもコートがかけられている

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    随所にある着替え用テント

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  • ビームスプリッター部はクリーンレベルが異なる(左)。たとえば、容器を開くときや、ミラーの設置時などはとくにホコリを嫌うためだ。写真は折り返し用ミラー(右)

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    常温低周波防振システムの図

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    常温低周波防振システムの頂部

2つアームへのアクセスは、主に中央実験室からになる。また上記しているように、Xアームについてはショートカットルートがあるため、こちらは2通り。またYアームにも東茂住側に作業用トンネルがある。

アームは、真空ダクトが約3kmに渡って続く。1ユニットあたり12m、直径80cmの真空ダクトを繋いでいる。Yアーム側の場合は250本を連結だ。また写真では直線に見えるが、ジオイド面に沿っており、内部で約7cmの直線部を確保している。主な移動手段は電動自動車と電動小型自動車。

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    アームフロント側。KEK(高エネルギー加速器研究機構)の看板があるが、これは超伝導・極低温技術、超高真空技術などの加速器技術の多くがKAGRAに応用されているため

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    Yアームフロント側もだいたい同じ形状

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  • アームのエンド側に向かう場合、Yアームは真空ダクトの左側、Xアームは右側が通行路。照明は200m間隔、また3箇所に排水処理システムがある。Yアームは2017年に撮影だが、真空ダクトとの接触が多発したのか、Xアーム側を見ると、反射材が追加されていた

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    2017年にYアームを走行した際の写真。たしかに反射材は必要である

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    Yアームエンド側。高画素機で撮り直したい……

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    末端には、透過光モニター用真空タンクがある

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    透過光モニター用真空タンク手前にサファイアミラーが格納された容器がある。Xアーム側も同様の構造だ

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    ちなみにYアームエンド側には、さらにトンネルがあり、スーパーカミオカンデまで繋がっている

構造としてはシンプルなのだが、巨大な実験施設であるKAGRA。年内実験開始予定であり、まずは精度向上が課題となるが、早期の成果が期待できそうである。KAGRAは実験をスタートすると施設内は振動要素を減らすために無人となるため、次の機会がいつなのかまったく不明なのだが、サファイアミラーの格納容器内の撮影ができた際には、またレポートしたい。

参考:大型低温重力波望遠鏡KAGRAの中を自転車で爆走 (ASCII.jp)