ゼオライトという物質をご存知だろうか。ゼオライトとは、アルミノケイ酸塩からなる鉱物の総称で、結晶構造中に分子レベルの大きさの細孔が存在していることが特徴。その細孔内にさまざまな分子を吸着・進入させることができるが、細孔より大きい分子は内部に入ることができない。このような、分子の大きさによって物質を分離することができる"分子ふるい"としてのゼオライトの性質を生かして、セラミック基材上にゼオライトを膜状に形成した「ゼオライト膜」という分離膜が工業的に利用されている。

ゼオライト膜で濃縮した日本酒「concentration 作 凝縮 H」。内容量375mlで5000円(税別)。瓶や色、そして味などは記事下部にて

ゼオライト膜は通常、アルコールや有機溶剤の脱水、天然ガスの分離などに用いられるが、なんと今回、これを日本酒の濃縮に用いたという、日本酒好きの筆者としては聞き捨てならない情報を得たので、さっそく購入して実際に飲んでみた。

ゼオライト膜でアルコール成分だけでなく旨味や香り成分も2倍に

ゼオライト膜で濃縮された日本酒、その名も「concentration 作 凝縮 H(concentration 作)」。三菱化学のゼオライト膜「KonKer」を活用し、三重県の酒造 清水清三郎商店の純米酒「作 穂乃智」の水分子だけを取り除くことで、アルコール成分だけでなく日本酒の旨味や香り成分も2倍に濃縮されているという。

水を含む液状食品を濃縮する方法としては、熱することで水を蒸発させる方法が一般的だが、アルコールや香味成分のように水とともに蒸発してしまう成分、熱により変性してしまう成分は、この方法では失われてしまう。また日本酒をはじめとする醸造酒では、発酵のみでアルコール濃度を高めるには限界かある。そこで、KonKerの出番というわけだ。concentration 作では、KonKerの外側にもとの日本酒を供給し、内側を真空ポンプで減圧することで、水分子と、KonKerの細孔3.8Åより大きいアルコール成分や旨味成分を分離させ、凝縮している。

エタノール水溶液の濃縮例

従来のゼオライト膜では耐酸性が低く、酸性である日本酒の脱水は難しい。また、含水率が高くなると構造が壊れるなどの課題があったが、KonKerは耐水性に優れており、含水率の高い食品や飲料と水の分離が可能だという。三菱ケミカルホールディングスの広報担当者によると、「ゼオライト膜の構造を根本から設計し直し、耐水性・耐酸性を持つゼオライト膜を合成しました。もともと工業用アルコールの脱水、再生に使用されていたものと同じゼオライト膜を使用していますが、食品に適用するに当たって部材や条件を食品用にあわせて作りこんでいます」とのこと。

そのお味は?

シックな箱を開けると、シンプルで透明感のある瓶が。箱の印刷が瓶に映り込んで、金箔が舞っているように見える

前置きが長くなってしまったが、そのお味は、アルコール度数が高いため、醸造酒というよりは蒸留酒を飲んでいるような香りと感覚。日本酒の香りや旨味が濃縮されたことで、白ワインのような甘みとフルーティーさも感じられる。日本酒だと思いながら飲むと、かなり衝撃的な味だ。一般的な日本酒のように、ホタルイカの沖漬けや白子ポン酢をつまみながら……というよりは、眠れない夜にショットグラスに入れた1杯をキュっと飲んで、いい気分のまま眠りに落ちたいときに飲みたい。つまり、これだけでいい感じに酔っ払う。

一般的な日本酒と比べるとかなり濃い色。お猪口を口に運ぶと強い香りが鼻を突く

一般的な日本酒のアルコール度数は15~16度程度だが、concentration 作の度数は30度。酒税法上、22度以上の酒は日本酒にカテゴライズされないため、瓶のラベルには「雑酒」と表記されている。味も法律上も、"規格外"の日本酒なのだ。もともとconcentration 作は、2016年に開催された伊勢志摩サミットにむけて開発されたもの。たしかに、ウォッカやワインなど強めのお酒を飲み慣れている海外の人には、あまり抵抗なく受け入れてもらえそうな気はする。

concentration 作は現在、「はせがわ酒店パレスホテル東京店」にて販売中(価格は税抜5000円)。新しい日本酒の形を体験してみたい方はぜひ、一度試してみてはいかがだろうか。