Web 2.0の基本的な概念「ロングテール(Long Tail)」を著書「The Long Tail: Why the Future of Business Is Selling Less of More」で記した米Wired MagazineのChris Anderson氏が、Web 2.0におけるもう1つの概念「無料(Free)」について自身の見解を述べた最新の著書「Free: The Future of a Radical Price」を7月7日に刊行した。これに際し、News Corp.エグゼクティブバイスプレジデントのJeremy Philips氏が傘下の新聞紙Wall Street Journalへ寄稿した「To Rake It In, Give It Away」で自身の見解を述べている。

"無料(Free)"はある意味で最強の価格であり、これに勝る価格の提示は難しい。Anderson氏は著書の中で「デジタルサービスの発展が従来と比較して無料ビジネスモデルを可能にした」と説明しており、"限りなくゼロに近い"コストや中間マージンによるメリットを強調している。例えば、Googleなどはサーバや回線の維持に膨大な設備投資を行っているが、ユーザーが個々のサービスを1回利用するのにかかるコストは微々たるものだ。

無料という概念はデジタルサービス以外にも有効で、例えば、携帯電話を無料で配布して、その代わりに2年間の契約を約束させるといったトレードオフも可能だ。また有料と無料を組み合わせる方法もある。「Freemium」という造語があり、これは基本的なサービスは「Free」で、さらに付加価値のあるサービスを有料の「Premium」で提供するスタイルだ。例えば、Skypeでは多くのユーザーは"Free"で利用しているが、そのうちのごく一部が"Premium"の有料サービスを利用している。このPremiumユーザーが残りのFreeユーザーを支えている構図だ。

問題は「オンラインは無料」という概念がユーザーに作り上げられることで、結果としてすべての価格構造を破壊してしまうという業界の懸念だ。無料が当たり前の世界ではサービスを収入に変える手段が限定され、「勝者がすべてを持っていく」状態になってしまう。

たとえコンテンツホルダーであっても、ブロガーのような人々に与えられているのはAdSenseのような間接的な広告収入で、その収入は微々たるものだ。かけた時間や手間に対する対価と釣り合っているかは難しいところで、その多くは「名誉のため」といった別のモチベーションによる部分が大きい。Philips氏によれば、こうしたすべてが無料モデルで維持できるかについては米Google CEOのEric Schmidt氏でさえ疑問を感じているという。

だが一方で、Anderson氏は「無料モデルと競合するのはそれほど難しくない」ともいう。前述のFreemiumのように、Premiumなコンテンツを利用するユーザーがいるかぎり、無料サービスとの差別化に成功しているというのだ。例えば、TVは当初より無料でサービスが提供されてきたが、その後も衛星、CATV、DVDといった有料コンテンツが続々と登場し、一定の支持を得ている。金融サービスに多くの投資家が対価を払おうとするのも、情報にそれだけの価値を見出しているからだ。

"Free"のメリットの1つはユーザーの呼び込みであり、これがビジネス機会の拡大やオンラインサービスにおけるトラフィックの増加を生み出す。Anderson氏は「そう遠くない未来にデジタルサービスは(すべて)無料になる」と予見しており、その一方で「それだけでは不完全」とも付け加える。

前述のような他のサービスと競合するための"プラスアルファの何か"が重要になるという話だ。Philips氏によれば、Anderson氏はWSJの有料コンテンツモデルを肯定しており、その理由として「有料と無料を組み合わせたハイブリッド型のビジネスモデル」だからだという。Anderson氏が著書に込めたメッセージは「"Free"は最強の価格だが、それがすべてではない」という点にあるようだ。