2008年4月、米韓首脳会談が行われた。この場でさまざまな合意がなされたが、そのうちの一つに米国産牛肉の輸入緩和がある。

青瓦台に批判殺到、現在でも反対する署名活動続く

もともと韓国では、生後30カ月未満の骨なし肉という条件をつけて、米国産牛肉を輸入していた。だが、今回の会談では、骨付き肉も含め輸入を行うことに合意した。

しかしこの方針決定により、BSE(牛海綿状脳症)、いわゆる「狂牛病」に感染した牛肉が食卓へ上がることへの不安感が韓国社会に広まり、政府に対する批判が噴出した。

青瓦台(大統領府)のWebサイトの「自由掲示板」。「(牛肉輸入条件に関する)再交渉のためには大統領を弾劾するしかない」「米国人でも食べない牛肉を、私たちに食べろと…」などの文字が溢れている。中には「国民を殺すつもりか」といった過激な文句も。いずれも米国産牛肉輸入に反対する声だ。

あまりの殺到振りに青瓦台サイトのトップページにはその後、「米国から輸入される牛肉と、米国人が食べる牛肉は全く同じものです!」と主張するポップアップも掲載された。その上で、掲示板のトップには、米国産牛肉輸入に関する詳細な内容も掲示されている。事実確認が曖昧な書き込みも多いことへの対処ではあるが、それでも米国産牛肉に関する書き込みは留まることを知らない。

同サイト以外でも、インターネット上のあちらこちらで米国産牛肉輸入に関する議論で紛糾している。輸入に反対する署名運動もいくつか行われており、現在でも多くの署名が集まっている状態だ。

青瓦台サイトのトップページで一時出ていたポップアップ。「米国から輸入される牛肉と、米国人が食べる牛肉は全く同じものです!」「狂牛病が入ってくることはできず、入ってくることはありません」といった文句が見える

ネットで広がった「狂牛病怪談」、青瓦台は打ち消しに懸命

市中では米国産輸入に関する大規模デモが行われている。中には老若男女約1万人以上が終結するデモもあり、警察側も対応に必至だった。

このデモの場で、とくに目立っていたのは、普段はデモの中心になることが滅多にない中学生・高校生の姿だ。彼らがデモに積極参加するほど、韓国における米国産牛肉輸入問題が深刻であるともいえる。その彼らの問題意識をいっそう高めたのがインターネットや携帯電話だった。

つい最近まで、インターネットや携帯電話のメッセージで「狂牛病怪談」と呼ばれる噂が広まっていた。内容の一部を挙げると、「米国産牛肉の成分を利用して作った化粧品やおむつなどを使えば、それだけで狂牛病に感染する」「米国人の多くは、オーストラリアやニュージーランド産の牛肉を食べる」「韓国人の多くが狂牛病に弱い遺伝子を持っている」などだ。

後に警察は、こうした噂を広げたと思われる21人のネチズンの身元を確認すべく、ポータルサイトに調査要請を行った。こうした対策などにより、一時のパニック状態はだいぶ沈静化してきている。

また、青瓦台だけでなく、同国農林水産食品部などの政府機関が狂牛病に関する知識を、Webサイト上で大々的に広報。特に若者に対しては、狂牛病や米国産牛肉に関する正しい知識をつけてもらおうと、Webサイトに教育用の漫画を掲載したりと、その後も正しい知識の普及に努めている。

しかし、政府がいくら安全を訴えたとしても、骨付き牛肉を輸入するという事実がある限り、BSEに対する不安はぬぐいきれないのが韓国国民の心情である。ネット上での混乱はだいぶ収束してきてはいるが、今後の政策によって再び論争が加熱しない保証はない。インターネット上もまだまだ緊張感が高まっている状態だ。