近年は情報家電での活躍が目立つCiscoだが、家電分野は同社の拡大戦略における、あくまで1ジャンルに過ぎない。これまで大手企業や通信キャリアを相手にルータ/スイッチのビジネスを展開してきた同社にとって、それ以外のネットワークに関連するすべての分野への進出が新たなチャレンジとなる。この中でも特に力を入れているのが、「SMB(中小企業)」「Emerging Technology」の2つのジャンルだ。

SMB市場での切り札となるUC500シリーズとSmart Business Communications System(SBCS)製品ラインナップ。4月3日に米ネバダ州ラスベガスで開催されたCisco Partner Summitで発表された

従来のCiscoにとってSMBの攻略が難しい理由が2つある。1つはSMBの要求を満たす製品ラインが不足していること、2つめはSMBを相手にするための販売体制が弱いことだ。Ciscoでは3日(米国時間)、SMB市場を攻略するための新製品と新たな販売パートナー支援策を発表している。新製品の「UC500」は、音声/データ/ビデオ/モバイルの4つの機能を1つの機器内に統合し、「Unified Communication(統合コミュニケーション)」の仕組みを簡単なセットアップで中小規模のネットワークに展開できる点が特徴となる。これにCRM等のアプリケーションの連携機能やパートナー各社による各種サポートサービス(リモート監視や業界別ソリューションなど)を加え、Smart Business Communications System(SBCS)で総称されるプラットフォームとして売り出していく。

従来のような大手顧客であれば、直接売り込みを行うダイレクトセールスの手法が通用するが、ターゲットとなる顧客が多岐にわたるSMB市場ではカバーできる範囲に限界があり、パートナー各社によるチャネル販路の構築が必須となる。単なる再販売業者ではなく、技術サポートやソリューション提案まで細かいケアが可能なパートナーを育てるため、教育プログラムや報奨制度の整備を含めたSMB向けの新しいパートナーの認定プログラム「Cisco Certified Select」を策定し、SMBに対応したチャネルの整備を進めている。Cisco自身がこうしたチャネル販売主体の体制へと変革を進めており、現状で全世界の7割、日本ではほぼ100%がチャネル販売中心の体制になっていると同社では説明する。

SMB市場攻略とチャネル開拓と並び、同社のもう1つの強化ポイントがEmerging Technology(新興技術)分野の開拓だ。代表的なものが、Web会議システムの「TelePresence」、ビデオ監視システムの「Video Surveillance」、電子広告システムの「Video Signage」などで、TelePresenceを除けば、どれも前出の表1にある企業買収による資産を活用したものである。今後、パートナーや早期顧客とのソリューション開発を進め、年間売上で10億~数十億ドル規模のビジネスへと育て上げていく計画だ。情報家電の分野もまた、このEmerging Technologyの範疇に入るビジネスである。

Ciscoのパートナー戦略、買収戦略、研究開発投資に対するコミットがうかがえる数字。トータルで100件以上の買収のほか、年間40億ドル以上の継続的な研究開発投資が行われていることがわかる

近年のCiscoの買収企業の一覧を見ていると、こうしたEmerging Technologyやセキュリティなど、次世代の中核ビジネスとなる技術の買収が非常に目立つが、SpansLogicやGreenfield Networks買収のように、従来のコアであるルータ/スイッチ技術の強化も引き続き行われていることがわかる。同社では新規ビジネスを育てつつ、高速バックボーンが必要とされるネットワークの基幹技術でも、引き続き投資を行うことで次世代製品の開発を影で進めているのだ。同社の研究開発部門のリーダーでもあるCharles Giancarlo氏によれば、来年度だけで数十億ドル規模の研究開発投資が行われる見込みだ。買収費用とあわせれば、相当額の予算が技術投資にまわされている計算となる。これがCiscoの強さの秘密ともいえるだろう。