Ciscoの歴史を紐解けば、その最初の製品となるのが通信キャリアや大企業向けのルータ装置である。現在、こうしたバックボーン向けのルータには高速処理が要求されるコアルータと、さまざまなサービスを提供するエッジルータの2種類があるが、Ciscoの場合は大規模ネットワーク向けを中心に、規模に応じた各種ルータ製品を主力として扱ってきた。

その後、資産買収でイーサネットスイッチのCatalystシリーズを獲得してからは、コアネットワークからエッジまで、幅広いネットワーク経路をカバーする製品展開を行ってきた。だが依然として、同社はルータ/スイッチを扱うネットワーク機器のベンダーの位置付けだ。その後、ネットワークを中心としたさまざまな分野に進出して各分野でのナンバーワンを目指すようになるのは、ドットコムブームがピークを迎えた2000年以降の話である。

前ページの表1でまず注目したいのが、2002年8月に発表したAndiamo Systemsの買収だ。同社はSAN(Storage Area Network)向けのファイバチャネル(FC)スイッチ製品を開発するメーカーであり、それまでSANの世界で主流だったFCスイッチを製品ラインに持っていなかったCiscoにとって、同社の買収はストレージ業界に進出する最初のきっかけとなる。現在FCスイッチの世界では、大規模FCスイッチベンダーのMcDataを買収したBrocade Communications Systemsが業界トップとして君臨している。Andiamoを買収したCiscoは、それを追いかけてシェア拡大を目指している状態だ。

次に注目されるのが、2003年3月のLinksys買収だ。Linksysは当時、北米のSOHO(小規模オフィス/家庭)向けネットワーク機器では最大のシェアを誇っていた。CiscoはLinksysのブランドと製品を残しつつ買収を完了させたことで、北米のSOHO市場でいきなりトップベンダへと躍り出ることに成功した。CiscoにとってのLinksys買収は、企業体力向上というよりも、むしろ大規模買収での市場シェア一挙獲得の意味が強い。その後、Sipura Technologyの買収などでLinksys製品の強化を行うなど、継続してLinksysには資本が投入されている。先ほど、大規模と小規模の買収を使い分けるという話をしたが、まさにLinksysのケースはその好例だろう。