Linksysの買収後、Ciscoはコンシューマ市場を意識した施策を積極的に採るようになる。たとえば、それまで一般での知名度がほとんどなかった同社が、Linksys製品のTVスポットCMを多数打つとともに、「Cisco」の企業名とロゴを一緒にアピールするようになった。また2006年10月には、それまでの企業名を「Cisco Systems」から「Cisco」へと変更し、さらに企業ロゴも硬いイメージのものから、より柔らかいイメージのものへと変更している。さらに、近々ホームグラウンドの移転が予定されている米MLBのアスレチックスの新拠点となる球場のスポンサーを名乗り出るなど、その露出を急速に高めている。これら施策からわかるのは、来たるべきコンシューマ市場への進出、特に情報家電と呼ばれる分野への進出をにらんだアピールだという点だ。

買収資産の一覧からも、着々とその準備を進めていることがわかる。1つは2005年7月に発表された、デンマーク企業のKiSS Technology買収にある。DVR(Digital Video Recorder)は、これまでのネットワークバックボーンを支えていたCiscoのイメージからすればかなり異色の製品だが、将来的な情報家電市場攻略を考えれば順当なものとなる。極めつけは同年11月のScientific-Atlanta買収で、世界シェアトップクラスのSTBベンダを抱えたことで、STBを用いた家庭内ネットワークへの進出が容易になった。特にCATVの普及率が100%に近い米国において、STBの市場を押さえることは大きな意味を持つ。STBを皮切りに、関連製品やサービスを次々と各家庭へ届けることが可能になるからだ。

現在Ciscoでは、KiSS Technologyの技術をベースにした家庭向けコンテンツ配信システムの構築を進めている。TVに接続したコントロールボックスを操作することで、インターネットを介して各種サービスを受けることが可能になる。Ciscoによれば、2008年前半にもプロトタイプとなる製品の提供を開始していく計画だという。ここにLinksysのアクセスルータやVoIP電話、Scientific-AtlantaのSTBソリューションなどを組み合わせることで情報家電市場を攻略していく -- これがCiscoの描く青写真だ。

現在CiscoがLinksysブランドで開発中のホームエンタテイメントシステム。Kiss TechnologyのDVR技術がベースになっている

TV番組やネットワーク配信、DVD再生のほか、報道各社の最新ニュースなど、さまざまなコンテンツにアクセスできる

また情報家電の攻略においては、Five AcrossやUtah Street NetworksのSNS関連技術買収も注目したい。CiscoはUtah Street Networksの資産買収の際に、同社の運営サイトTribe.netを買収対象から外している。Ciscoとしては既存のユーザー資産よりも、技術買収による新サービス構築のほうに興味があるようだ。KiSSの技術と並び、情報家電市場攻略において、ユーザーを惹きつけるコミュニティやサービス作りでSNS企業2社の技術に着目したのだと思われる。