会社の経営にかかわる会計や経理に関する知識は、ビジネスパーソンであれば誰もが身に付けておきたいビジネスの教養です。
直接会社のお金にかかわる業務を担う会計や経理では、日々のお金の取引記録を記帳する際や、それを報告するための報告書作成の下準備として「簿記」の技術が必要になります。
そのため、会社のお金の流れを把握する手段としての簿記は、ビジネスに携わるすべての方にとって、習得するにふさわしい知識であり技術であるといえるでしょう。
この記事では、「ビジネスに簿記の知識・資格を活かしたい!」と思うみなさんが、学習教材としてテキストの次に求めるであろう「過去問題集」にスポットを当てて紹介します。
試験勉強において過去問学習が大事な理由から過去問題集の効果的な使い方、オススメの過去問題集や過去問題を公開している無料サイトまで、幅広くご紹介します。
すでに簿記の受験に向けて走り出している方にも、たった今簿記学習に興味を抱いたばかりの方にも、過去問との付き合い方について役立てていただける情報をまとめました。
なお、日本には数種の団体が主催する簿記検定試験がありますが、今回はもっとも受験者数が多く、知名度が高い「日商簿記検定」についての内容をお届けします。
また当サイトでは、簿記試験対策におすすめの通信講座をまとめた記事も掲載しているため、通信講座利用を検討している方はぜひこちらもご覧ください。
→簿記におすすめのオンライン通信講座9選と失敗しない選び方の記事はこちら
過去問学習には工夫が必要!そのわけは?
2級・3級簿記検定試験は、2021年6月(第158回)試験より試験時間や出題数が一部変更になりました。
試験時間においては、2級では120分から90分へ、3級では120分から60分へとそれぞれ短縮され、また3級試験の出題数においても、5題から3題以内へと縮小されています。
これにより、試験範囲は変わらないものの、試験自体がコンパクトになり、よりスピードと正確性を求められるよう試験が様変わりしています。
したがって、2級・3級試験では、従来の2時間試験に対応した過去問をそのまま予行演習のように活用することは、あまりおすすめできません。
一方で、新試験は「出題範囲すべての学習を求める」ことをコンセプトに掲げているため、従来の過去問を実力アップのトレーニング手段として使用することは、大いに推奨されるでしょう。
なお、1級試験においては改定など行われていないため、この限りではありません。
簿記1級の試験勉強には、積極的に過去問学習を実践しましょう。
以下に、過去問学習の重要性を解説します。
日商簿記の試験勉強で過去問学習が大事な理由~メリット3つ~
簿記試験の学習のみならず、多くの試験勉強において過去問学習は大事です。
ここからは、過去問学習をすることによって得られるメリットを3つ、ご紹介します。
試験の出題傾向・出題レベルを把握できる
どのような資格試験や検定試験においても、問題の出題パターンや出題レベルには一定の傾向が見られます。
簿記の検定試験では、たとえば1級の試験に着目してみると、商業簿記では決算整理後残高試算表や損益計算書など財務諸表を作成する総合問題が、会計学では理論を中心とした文章の穴埋め問題や正誤判定問題がおおむね出題される傾向にあります。
同様に、工業簿記では製品原価計算に関する勘定記入や差異分析、原価計算では投資の意思決定に関連する問題や差額原価収益分析などの設問が中心となります。
一つひとつの問題にはそれぞれにお決まりの型があり、財務諸表の作成問題であれば、問題に沿って適切な仕訳を行い導き出された数値を表に埋め、最終的には貸借を一致させなければなりません。
理論問題であれば、難問にとらわれず基本の意味を忠実に理解しておくことで得点力アップが狙えるなど、ある程度「パターン化」された問題を正確に処理する能力が求められます。
そのため、手当たり次第に勉強するよりも、あらかじめ過去問に触れ、出題傾向や出題パターンを把握したうえで、試験で求められることに的を絞って学習を進めるほうが、無駄のない効率的な試験勉強ができるといえます。
また、同じパターンの問題を何度も繰り返し解くことは、問題に対する瞬発力を養い、解答スピードのアップにつながります。
試験本番では、予想以上に時間を要する問題が出題される可能性もゼロではないため、一つひとつの問題に対する処理能力の速度が、速いに越したことはありません。
加えて、過去問を解くことにより、大筋で試験の出題レベルを掴めるのもメリットのひとつです。
たとえ感覚的にでも試験のレベルが把握できると、今の自分の実力から合格に必要な勉強量やそれにかかる時間にも、おおよその見当がつけられるでしょう。
このように、事前に試験の傾向・レベルをリサーチしておくことは、効率のいい学習を可能にしたり、問題演習スピードを高めたり、必要な勉強量を把握できたりといった、試験対策における多くのメリットをもたらします。
自分の実力が把握できる
過去問を解くことでわかるのは、試験のレベルだけではありません。自身の簿記に関する知識レベルも同様です。
試験では、だいたい毎回同じようなレベルの問題が出題されます。
そのため、ある程度基礎学習が済んだ段階で過去問演習に着手することにより、現時点におけるおおよその実力が把握できます。
自分の実力が客観的に把握できると、足りない部分を補う学習を追加したり、必要のない勉強を省いたりと、試験勉強全体の軌道修正がほどこせるため、以降の学習がより効率的なものになるでしょう。
学習プラン全体をさらに濃密でコンパクトなものにしたい場合は、できるだけ早い段階から過去問演習にチャレンジしていくことをおすすめします。
試験本番の予行演習ができる
簿記検定試験本番では、いずれの検定級においても、制限時間内に70%以上の正答率で解答することが求められます。
試験時間は、1級が180分、2級が90分、3級が60分で、決して多くの方がゆとりをもって試験に臨めるような時間設定はされていません。
むしろ、イレギュラーな問題に対して焦りを感じたり、緊張感から普段通りに問題を進められなかったりで、時間が足りない!と感じる方が大半でしょう。
そこで、そういった事態を少しでも軽減させるために、前もって過去問を使用した試験の予行演習にチャレンジしておくことをおすすめします。
本試験と同様、タイマーなどを用い時間をはかって過去問を解くことで、時間を費やすべき問題はどこか、反対に時間をかけずサクサク進めなければならない問題はどこかなど、試験中に大切な時間配分の意識付けができるようになります。
さらには、配点にも考慮することで、時間がない状況において切り捨てても支障のない問題がわかるようになり、より戦略的な試験対策を実践できるでしょう。
時間内で過去問演習を繰り返すことは、漫然とただ問題を解くような勉強スタイルではなく、常に制限時間と合格に必要な正答率を意識しながらの学習法へと進化を遂げることにつながります。
日商簿記・過去問題集の効果的な使い方
ここからは、おすすめできる過去問題の具体的な使い方についてご紹介します。
以下にあげる、過去問の効果的な使い方を参考に、ご自身の試験勉強にお役立てください。
できるだけ早い段階で取りかかる
試験勉強において、できるだけ早い段階でアウトプット学習をスタートさせることは非常に重要です。
テキストを片手に、心ゆくまで基礎学習で地ならしをしたい気持ちは十分理解できますが、少しでも早く合格ラインまで実力アップを図りたいのなら、テキストに目を通し次第、積極的に過去問を使用したアウトプット学習に取り組んでいきましょう。
まず、参考書やテキストはあまり時間をかけず、流すように読み進めます。
100%の理解をここでは求められていないため、とにかく先へ先へと読み進めていきましょう。
一通りテキストが読めたら、早速過去問演習にとりかかります。
最初はわからないところだらけ、解けないところだらけかもしれませんが、問題ありません。
わからない箇所、解けない箇所が出てきたら、その都度テキストや参考書に戻り、解き方や答え、なぜそのような答えが導き出されるのかといった理由を確認します。
そうやって、実践形式の問題を解きながら、一つひとつその解法を確認し、知識を定着させていきます。
直近の過去問を中心に演習に取り組む
日商簿記検定試験では、細かな変更から大々的な変更まで、出題範囲や出題形式に改定がなされることもよくあります。
実務において、使用頻度の高い簿記知識は試験範囲の中心となり、その一方で使用頻度の低いものは試験範囲から削除されるなど、時代のニーズに合った検定試験へと常にリニューアルを続けています。
そのため、試験勉強では出題範囲や傾向に大きく違いがみられない、直近の過去問題をピックアップして演習に活用するようにしましょう。
間違えたところを重点的に学習する
過去問題を解いて間違えてしまった箇所は、今のあなたの弱点です。
試験勉強では、弱点を克服することが得点力を高めるための最適な手段となります。
そこで、間違えた問題に付箋を貼ったり、チェックを入れたり、間違えた問題をノートに書き写したりして、ご自身のウィークポイントを拾い集めておきましょう。
知識がしっかり定着するまで、拾い集めた問題演習にチャレンジし、理解に努めます。
事実、すでに身についている論点を何度も学習するのは非効率です。
ただ漫然と過去問を解くだけでは、得意な分野も不得意な分野も混在した、非効率な学習を続けることにほかなりません。
試験とは、合格レベルにある知識の習得度を測るものであり、合格に必要な勉強をすることが何より求められます。
ご自身の弱点である、苦手な分野に照準を合わせて学習することで、知識の穴を埋め、効率よく得点力を底上げすることが期待できます。
何度も繰り返す
簿記の過去問には、簿記の出題傾向やそれに対する解法パターンが詰まっています。
問題、解答、解説とセットで読めば、どういう問題に出会ったときに、どういう解き方をすれば解答を導き出せるのか、理解できるようになっています。
試験勉強では、いくつも存在する解き方のパターンをただ覚えるだけです。
このパターンを覚えるため、過去問は何度も繰り返し解く必要があるというわけです。
問題を見ただけでパッと解法がひらめくほどの知識レベルに到達するまで、過去問は繰り返し何度も解きましょう。
日商簿記・オススメ過去問題集&予想問題集
簿記1級でおすすめの過去問題集と、簿記2級・3級でおすすめの予想問題集をご紹介します。
それぞれの特徴に合わせた使い方を、ぜひ参考にしてください。
簿記1級・オススメ過去問題集 2024年度版
受験生からの評判がいい、今売れている簿記1級の過去問題集をご紹介します。
TAC「合格するための過去問題集 日商簿記1級」(よくわかる簿記シリーズ)
シンプルで王道な、簿記1級の過去問題集を探している方におすすめです。
最新の連結会計における会計基準や出題区分にもしっかり対応しています。
過去問の収載は過去14回分で、問題の解答手順の練習と、各論点の知識を確認できるよう構成されています。
公式サイトより、PDF形式の解答用紙がダウンロードできるため、何度も繰り返し過去問演習をする際、非常に便利です。
やや解説が少なめで、初学者には理解が難しいといった側面もあり、ある程度簿記1級の理解が進んだ段階で活用するのが望ましいでしょう。
ネットスクール「日商簿記1級 だれでも解ける過去問題集」
ネットスクールの代表取締役社長である桑原講師が著した過去問題集です。
単行本サイズで持ち運びしやすく、科目ごと、過去の試験回ごとにヨコ解き・部分解き・タテ解きといったユニークな解答方法で実力アップを図ります。
ページを進めるごとに段階的に難易度が上がっていくよう工夫されていることと、解説がわかりやすいことから、簿記1級の勉強をはじめたばかりの方が、早い時期から過去問演習に取り組むのに適しています。
解答用紙の付属がないため、ご自身で別途用紙を準備する必要があります。
また、純粋な過去問題集であるTACと比べると、設問中にアドバイスが記載されテキストのようなつくりになっているため、じっくり考えながら問題演習をしたい方におすすめできる過去問題集です。
簿記2級・オススメ予想問題集 2024年度版
新試験の出題区分に対応した、今売れている簿記2級の予想問題集をご紹介します。
TAC『合格するための本試験問題集 日商簿記2級』(よくわかる簿記シリーズ)
新試験・ネット試験に完全対応した、本試験スタイルの予想問題集です。
本書は過去問12回分を収載し、解答用紙が付属されています。
何度も解き直す場合、解答用紙は公式サイトから無料でダウンロードも可能です。
使用者からは、本番のネット試験よりも難しく、詳細な部分まで問われる問題が多いという意見も多く、実力を付けて確実に合格したい方向けの問題集です。
TAC「第○○回をあてる TAC直前予想模試 日商簿記2級」
新出題区分に対応した、直前演習問題集です。
全4回分の試験問題を収載しており、受験生からも定評ある高い的中率を誇ります。
そのため、直前期に知識の習熟度を確認するのに活用するといいでしょう。
スマホにも対応した、頻出仕訳をマスターするための仕訳カードや、ネット試験対策用の模擬試験プログラムをダウンロードできるサービスなど、受験に役立つツールが満載です。
スマホで学習をする場合に、テキストのダウンロードや試聴にかかる通信容量が気になる場合は、楽天モバイルなどの格安SIMもおすすめです。
楽天モバイルの評判などから、自分に合っているか確認すると良いでしょう。
簿記3級・オススメ予想問題集 2024年度版
新試験の出題区分に対応した、今売れている簿記3級の予想問題集をご紹介します。
TAC「2024年度版 スッキリうかる 日商簿記3級 本試験予想問題集」(スッキリわかるシリーズ)
予想問題9回分とネット試験の模擬試験プログラムがセットになった予想問題集です。
単行本サイズで携帯にも適しており、問題と解答用紙が取り外し可能と、使いやすい工夫がなされています。
随所にポイント解説がついているため、インプットしながらの問題演習におすすめです。
ネットスクール「日商簿記検定模擬試験問題集3級 2024年度版」
新試験であるCBT方式のネット試験に対応した模擬試験問題集です。
CBT方式特有の、パソコン画面上に問題と解答欄が並ぶ表示形式をそのまま問題集に踏襲し、受験生が戸惑うことなく試験に臨めるよう構成されています。
また、ページを追うごとに、テキストレベルから本試験レベルへと段階的に理解が深まるよう設計されているため、学習をはじめて間もない頃からスタートさせるのにもちょうどいい問題集です。
問題と解答用紙は取り外して使用でき、公式サイトより解答用紙のダウンロードも可能です。
日商簿記・過去問題集を無料で確認するには?
日商簿記1級の本試験における問題については、日本商工会議所の公式サイト上で確認できます。
1級に関する模範解答ならびに解説は、「資格の学校TAC」や「LEC東京リーガルマインド」公式サイトでPDFによるダウンロードが可能です。
TACではWebより無料登録をするだけで、講師が詳細な解説と所感を話した動画を視聴できるサービスを提供しています。
過去問解説をじっくり聞いて勉強したい方におすすめです。
新試験出題区分が採用された第158回以降の日商簿記2級・3級試験に関しては、試験問題の公開はされていません。
まとめ
過去問を活用した「解き方を覚える」学習は、試験勉強において非常に有効な学習法です。
しかし、2級・3級試験に関しては試験改定が行われたことで、従来の過去問をそのまま活用しにくい状況になっています。
そのため、旧試験対応の過去問をお持ちの方は、単元ごとに実力を身に付けるための演習問題集として使用しつつ、試験本番を想定した演習には、新試験対応型の予想問題集を活用するといいでしょう。
簿記学習が効率よく進むよう、ご自身の受験級に合わせて過去問題集・予想問題集をチョイスし、試験勉強に励んでください!
また当サイトでは、簿記試験対策におすすめの通信講座をまとめた記事も掲載しているため、通信講座利用を検討している方はぜひこちらもご覧ください。
→簿記におすすめのオンライン通信講座9選と失敗しない選び方の記事はこちら