シャープが発売した、2,560×1,600ドットのIGZO液晶を搭載した10.1型タブレット「Mebius Pad」は、同社の代表的PCブランドであった「Mebius」の名前を引っ提げて投入した戦略的製品だ。

「Windows 8.1、Bay Trail、そして、シャープのスマートフォンに関するノウハウがうまく結実するタイミングがいまだった。Mebiusのブランドに恥じないタブレットを投入できたと考えている」と、シャープ ビジネスソリューション事業統轄 NB事業推進センター・笛田進吾チーフは語る。Mebius Padとは果たしてどんな製品なのか。

Mebius Padを手にする、シャープ ビジネスソリューション事業統轄 NB事業推進センター・笛田進吾チーフ

自社の強みを発揮できるデバイス

シャープがMebius Padを初めて披露したのは、2013年9月30日だ。千葉市幕張の幕張メッセで開催されたCEATEC JAPAN 2013の前日に、同会場で記者会見が行われた。

CEATECのシャープブースでも注目を集めたMebius Padは、CPUにAtom Z3770を採用。WQXGA(2,560×1,600ドット)の解像度と、約300dpiの高精細、16:10のアスペクト比を持った10.1型IGZO液晶ディスプレイを搭載。静電容量式タッチパネル方式を採用するとともに、IPX5/7準拠の防水性能、IP5X準拠の防塵性能を持ち、LTE通信モジュールを内蔵したWindows 8.1搭載タブレットだ。

Windows 8.1、Office Home & Business 2013を搭載した「TA-S10L-B」と、Windows 8.1 Proを搭載しOffice非搭載の「TA-H10L-B」の2モデルを用意。価格はオープンだが、市場想定価格はいずれも税別で約130,000円程度を想定。CEATEC JAPAN 2013で参考展示製品としてお披露目されてのち、4カ月を経た1月31日から販売を開始している。販路は法人窓口、そして同社のショッピングサイト「シャープいい暮らしストア」だ。

Mebius Padの試作機は、CEATEC JAPAN 2013のシャープブースでも展示されていた

こちらは製品版のMebius Pad。端末の正式発表は2013年12月に行われた

シャープ ビジネスソリューション事業統轄 NB事業推進センター・笛田進吾チーフは、「シャープには、BIGPADや複写機などのBtoB事業があり、この分野の事業拡大がひとつの方針」と前置きし、「PCは厳しい市場環境にあるが、法人市場におけるITという大きな視点で捉えれば、まだ今後の成長が期待できる領域である」と、製品開発の背景を語る。

「現在、コンシューマ向けのAQUOS PADは、2つのキャリアを通じて展開しているが、それとは別に業務用としてきっちりと使える製品を作りたいと考えていた。当社が持つPC分野における過去からの知見、基幹デバイスであるIGZO液晶を自前で持っていること、そして、携帯電話やスマートフォンで長年の実績を持つ通信に関するノウハウを活用することで、当社の強みを発揮できるデバイスを投入できると考えた」(笛田氏)。

市場調査での高い認知率

自社ブランドのWindows製品が発売されたことで、社員もより高いモチベーションを持ったと語る笛田チーフ

2013年度の国内PC市場は、Windows XPからの買い換え需要や、消費増税前の駆け込み需要もあり、活況を呈しているが、2014年4月以降の需要減を見込む業界関係者は少なくない。一方でタブレットは、今後も継続的な成長が見込まれており、法人需要においても引き続き注目を集めるデバイスとなっている。

笛田チーフは、「法人市場のニーズを捉えるとWindowsは最もニーズが高いOSであり、法人需要に合致するデバイスとなる。成長分野であるタブレット市場において、当社の特徴を発揮する製品がMebius Padということになる」とし、「今後はタブレットに事業を集中し、従来型のノートPCやデスクトップPCを製品化する計画はない。新たな領域に歩みを進める」と続ける。

2009年にノートPCの生産を終了して以来、この分野にはシャープブランドの製品がなく、シャープ社員は他社製PCを利用するという状況ともなっていた。Mebius Padによって、シャープ社員が利用できる自社ブランドのデバイスが復活したともいえるだろう。

そして、なんといっても注目されるのが、この製品に、「Mebius」というブランドをつけたことだ。これには、れっきとした理由があった。

笛田チーフ自身は、「もちろん、個人的にも強い思い入れがあるブランド」と強調した上で、「市場調査をしてみたところ、Mebiusブランドは、日本国内で依然として高い認知率を誇っている。シャープが投入してきたMebiusブランドの製品が、軽薄短小のイメージや、尖ったコンセプトであったことに、ユーザーが強い印象を持っているようだ。新たなブランドを立てるよりも、Mebiusを活用することで、シャープらしいデバイスであることを示すことができると考えた」とする。