東京メトロは、千代田線北千住駅において、朝のラッシュ時における混雑平準化を目的としたフィールド実証を開始し、その様子を報道関係者に公開した。
東京メトロが収集している「列車混雑計測システム」のデータをもとに、リアルタイムに混雑状況を分析し、シャープのプロジェクション技術「Omject」と組み合わせて、混雑状況に応じて、空いた車両に誘導する案内を床面に投影し、混雑平準化を図る。
東京地下鉄(東京メトロ)鉄道本部運転部運転課の小島大貴氏は、「ラッシュ時に少しでも快適に乗車してもらうためには、列車の運行本数を増やしたり、駅での人員を増して誘導したりといった施策があるが、すでに限界に達しており、今後は、お客様に少しでも空いている車両を選んでいただく提案をする必要がある。そのためには情報を的確に提供しなくてはならない。混雑している駅構内を移動しながら、パッと見て、直感的にわかる伝達方法として、シャープのプロジェクション技術を活用することにした」と、実証に至った経緯を語る。
北千住駅は、東京メトロのなかでも乗降者数が3番目に多く、とくに千代田線のホームでは、朝のラッシュ時には、混雑している号車に、さらに多くの乗客が集中する傾向がある。
東京メトロとシャープでは、データをもとに、床面に「手前の階段側、混雑中」、「大手町方面、1分歩いてホームへ」などの表示を行い、空いている通路や車両に誘導する仕組みを構築。2026年9月9日から事前調査を開始し、10月1日から北千住駅コンコースでの床面への案内投影を開始した。10月および11月の2カ月間で、混雑平準化への効果を検証する予定だ。
東京メトロではこれまでにも、情報提供などによって、列車内の混雑平準化に取り組んできた経緯がある。
ホームでのアナウンスにより、「階段方面は大変混みあいます。ホーム中ほどまで進んでお待ちください」と呼びかけたり、ホーム上に「ホームの両端は大変混雑いたします。ホーム中ほどまでお進みください」と表記したりするほか、混雑が激しい際には、駅員が空いている車両に誘導するといった取り組みも行ってきた。
東京メトロ千代田線の北千住駅ホームは、東武鉄道(東武スカイツリーライン)からの乗り換えが、大手町方面の列車の後ろ側となる10号車、9号車付近の階段とつながっており、多くの乗客がその階段を利用するため、10号車、9号車付近に人が集中しやすい傾向がある。
また、8号車付近のホームに降りることができる階段もあるが、東武鉄道方向からは回り込む形でホームに降りる構造となっているため、ホームに至るコンコースが空いていても利用する人が少ないのが実態だ。
さらに、多くの乗客が降りる大手町駅や霞が関駅でも、10号車、9号車付近の階段を利用する人が多いため、それも10号車、9号車の集中度を増す要因となっている。
ラッシュのピーク時は、午前7時45分から午前8時15分で、10号車の乗車率は150%に達しているという。平均しても、混雑している10号車および9号車と、比較的空いている8号車、7号車、6号車の乗車率は15%もの差があるという。
東京メトロの小島氏は、「お客様は、乗車する駅の構造や、到着駅の出口の位置などによって、乗車する号車を選択することが多い。だが、一カ所に混雑すると、安全性の問題が発生したり、乗降にかかる時間が長くなったりするだけでなく、車内で体調を崩す要因になるなど、お客様にとって負担がある」と指摘。「1分だけ余計に歩いてもらうことで、大手町駅や霞が関駅までの約20分間を少しでも快適に過ごしてもらいたい」と提案する。
今回のフィールド実証では、乗車率をもとに、8号車付近のホームに降りることができる階段に誘導し、そこから比較的空いている車両に乗車してもらうことを狙っている。
千代田線北千住駅では、2024年12月からコンコースに、ディスプレイを設置し、「列車混雑計測システム」によって算出したデータをもとに、号車ごとに混雑状況をリアルタイムで表示するサービスを提供している。同様の情報は、東京メトロの「東京メトロmy!アプリ」でも見ることができる。
今回のフィールド実証では、従来からのディスプレイによる情報提供に加えて、シャープのプロジェクション技術である「Omject」を使用して、駅コンコースの床面に案内を投影。到着する列車の混雑状況に応じて、比較的空いている号車方向への移動を促し、朝のラッシュ時間帯に、大手町方面列車の号車間の混雑率の偏りを軽減することを目指す。
具体的には、ひとつ手前の綾瀬駅を発車した列車の10号車、9号車の混雑率と、8号車、7号車、6号車の混雑率を比較して、混雑率の差が15%以上あった場合に、「中ほどの号車の方が有意に空いている」と判断し、案内を投影する。
床に投影する場所は、東武鉄道から千代田線につながる導線上であり、午前7時から午前10時までの間に、約25回の投影を行うことになる。投影回数は混雑状況によって変化する。
「Omject」は、2台を設置し、画面がつながるように配置。1台あたり90インチの表示を行っており、表示される文字が、誘導したい方向に移動する形にしている。
今回のフィールド実証では、Omjectは1カ所にだけ設置。混雑平準化の効果を検証するとともに、投影タイミングを変えることで、乗客の行動にどのような変化が生じるかも検証する。検証に関しては、コンコースの分岐点に設置したカメラを活用。シャープが持つAIによる画像認識技術を用いて人数をカウントし、人流を分析。それぞれの方向に、どの程度の乗客が進んでいるのかを定量的に測定して、実証前と比較する。なお、撮影したデータは、プライバシーに配慮し、個人を特定できない範囲で利用している。
東京地下鉄 鉄道本部運転部の吉野秀行課長補佐は、「北千住駅では、東武鉄道からの乗り換え時に乗客が集中しやすいという構造的な問題があるため、ここでフィールド実証を行いたいと考えた。比較的空いていて、より快適な号車を、分かりやすく伝え、混雑の平準化を図ることで、混雑集中による課題解決と安定輸送につなげたい」としている。
混雑状況を把握する「列車混雑計測システム」は、2021年度から導入しているもので、東京メトロの駅のうち、乗り換えが多い駅を中心に52駅に設置している。
カメラは、列車側を向いており、デュアルカメラによって空間を立体的に撮影。ホームから走り始めた列車の車内を、1秒間に約1000枚を撮影して、これを約4秒でAIが解析し、乗車率を導き出すことができる。高速で移動している車両の内部も分析できるため、東京メトロ東西線などでは、駅間に設置しているケースもあるという。
東京メトロの小島氏は、「綾瀬駅を発車した10両編成の全車両の撮影が終わると、データはすぐにクラウドにあがり、AIで分析した結果を、北千住駅コンコースのOmjectに送り、すぐに案内を表示できる。お客様の歩行時間も考慮したリアルタイムでの表示が可能であり、案内を見たが、空いた車両に乗車ができないということがないようにしている」という。
一方、シャープでは、投影内容が乗客に伝わりやすいように、表示するデザインにもこだわった。
シャープ ブランド戦略本部総合デザインセンターUXデザイングループ デザイナーの高橋めぐみ氏は、「通勤時間帯は、別のことを考えていたり、あるいはあまり頭が働かないまま、いつものルートを歩いていたりといったことになりがちである。今回のフィールド実証では、細かい文字を読まなくても、表示方法に従って、空いている車両に向かえることを狙った」とする。
これまでのディスプレイへの情報表示では、情報量が多く、内容を理解するために、立ち止まって見る必要がある一方、スマホアプリでの確認では、「歩きスマホ」を助長する可能性もあった。
Omjectによる表示では、急いで歩いていても、瞬時に判断できるような表示デザインにしているのが特徴だ。
千代田線と同じ色のグリーンを活用することで、千代田線に関する情報であることを知らせるほか、腰の位置あたりからの投影とすることで、プロジェクターの光が、乗客の目に直接入らないようにしたり、人の影によって見えにくくならないように配慮したりといった工夫も行っている。
「当初は、誘導する階段までの距離を表示することを検討したが、朝のラッシュ時には、距離よりも、時間を気にする人が多い。そこで、『1分』という表示にした。また、表示は3種類のコンテンツが流れている仕組みにしているが、急ぎ足で歩いている人でも、見やすい速度で動くことを考慮した」という。
事前調査時には、設置場所をラッシュ時間帯に何度も訪れて観察を行い、ラッシュ時に人が歩く速度などを検証。さらに、認識しやすい輝度で表示できるようにした。また、シャープ社内では、VRコーグルを活用し、北千住駅コンコースをデジタル上に再現して、被験者を用いた検証を繰り返したという。
シャープでは、実証期間中に、利用者へのウェブアンケートを実施し、デザインに対する評価や改善点、自由回答も収集。今後の実用化に反映するという。
シャープは、2024年9月に開催したプライベートイベント「SHARP Tech-day'24」で、光源分離型の小型プロジェクションヘッドとして「Omjectコンセプト」を公開。2025年10月に開催されたCEATEC 2025のシャープブースで、具体的なソリューション事例として、鉄道分野での利用を提案しながら、「Omject」を参考展示しており、ちょうど1年を経過したところだ。
「Omject」は、「人の行動を支援する」というコンセプトを掲げ、CEATEC 2025では、電車の扉上部にメッセージを投影し、車いすの人が降車することを通知し、通路を確保できるように促したり、有料シートの情報を表示し、チケットの購入を促進したりといった提案を行ってみせた。
シャープ デジタルイメージングソリューション事業部 技師の片山広海氏は、「当初は、交通分野だけでなく、工場現場や駐車場などへの用途も検討していたが、現在は、交通分野にターゲットを絞り込んでいる。シャープと東京メトロの狙いが一致して、今回の実証につながった」という。今回が、Omjectを活用したフィールド実証では第1号となる。
なお、今回のフィールド実証では、レスターが機器の提供を行っている。



















