パナソニックが、メーカーによる検査済み再生品である「Panasonic Factory Refresh」事業を、2024年4月から開始して約1年を経過した。店頭展示の戻り品、サブスクリプション(定額利用)サービスの契約終了後の商品、初期不良品などを、パナソニックの製造拠点やサービス拠点で再生して販売する仕組みだ。このほど、テレビやドラム式洗濯乾燥機などの再生を行う栃木県宇都宮市のパナソニック エンターテインメント&コミュニケーション(PEAC)宇都宮工場の様子を公開した。テレビなどの量産工場だった強みを生かし、メーカーならではの再生作業へのこだわりが随所にあった。
パナソニックでは、2023年9月から、ヘアードライヤー ナノケアのリファービッシュ品を、サブスクリプションサービスで提供を開始したのに続き、2023年12月からは、ドラム式洗濯乾燥機およびテレビのリファービッシュ品の販売を開始。さらに、2024年2月からは、卓上型食器洗い乾燥機(食洗機)のリファービッシュ品のサブスクリプションサービスを提供してきた。
それらの経験をもとに、2024年4月から、「Panasonic Factory Refresh」による統一ブランドを展開。現在では、ポータブルテレビやブルーレイディスクレコーダー、ミラーレス一眼カメラ、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、LED照明器具、次亜塩素酸空気除菌脱臭機、掃除機を加えており、13カテゴリーにまで広げている。
家電の購入方法や利用手段を幅広く、長く使ってもらうため
パナソニック マーケティング ジャパン ダイレクト事業戦略室新規事業推進部の渡邊暦部長は、「Panasonic Factory Refreshは、製品やサービスを通じて、天然資源の価値を最大化し、環境負荷を低減するサーキュラーエコノミーへの取り組みのひとつになる。作った商品を長く使ってもらうため、家電の購入方法や利用手段を幅広く提供するとともに、資源の最大活用につなげることができる。再生家電への取り組みはこれからも加速ざせる」と語る。
「Panasonic Factory Refreshは、同社ECサイトの「Panasonic Store Plus」を通じて販売。サブスクリプションサービスでも購入できる。厳格な出荷基準によって再生し、1年間のメーカー保証を付けているのが特徴だ。
これまでは、「使用感がほとんどなく、状態が大変良い」とするAランクを中心に事業を進めてきたが、2025年2月からは、ドラム式洗濯乾燥機、冷蔵庫、テレビにおいて、「多少の使用感が見られるが、状態が良い」というBランク、「使用感はあるが、機能、動作は問題がない」というCランクにも対応を拡大。外観、内観、使用時間および回数、製造年数、臭気の5項目に独自の基準を設けて、ランク付けを行っている。
Panasonic Factory Refreshに対する利用者の反応はいい。
パナソニックによると、検査済み再生品の購入者の満足度は94%。そのうち満足が70%、やや満足が24%となっており、品質、推奨度、価格面で高い評価を得ているという。「価格面やSDGsの側面からみても良い買い物ができた」、「中古品と感じさせない仕上がり」、「他商品も多く取り揃えてほしい」といった声があがっているという。
「メーカーならではの品質、安心に対する評価が高く、再生品だからこそ、信頼性は重要であると改めて感じている。一度、再生品を使ったお客様が、次は新品を使ってみようという行動につながり、パナソニック製品のファンになる人が増える姿を目指している」としている。
生産で培ったノウハウを活かし、モノづくりの新しいカタチ
今回、公開した栃木県宇都宮市の宇都宮工場では、2024年4月のPanasonic Factory Refreshの開始にあわせて、テレビやドラム式洗濯乾燥機の再整備を行ってきたが、現在では、食洗機、ブルーレイディスクレコーダー、ポータブルテレビ、ミラーレス一眼カメラ、次亜塩素酸空間除菌脱臭機を加えて、7カテゴリーでの再整備を行っている。ヘアードライヤー ナノケアをはじめとした小物家電などの残る6カテゴリーについては、奈良県大和郡山市のパナソニック奈良工場で再整備を行っている。
宇都宮工場では、テレビ生産で培ったノウハウを生かすとともに、白物家電製品の再生のために、水回り設備を新たに導入したのが特徴で、新製品の量産を行っている各工場と連携しながら、生産に関するノウハウを蓄積。それをもとに再生作業を行っている。7カテゴリー合計で、年間1万台の再生能力を持つ。
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション 宇都宮工場の竹田恭介工場長は、「量産工場と同等の設備、仕様、手順を活用し、安心して使ってもらえる再生品を出荷することができる。また、絶縁耐圧抵抗試験などの安全検査をはじめとして、専用の検査モードで、機能や安全性を確認している。さらに、再生に使用する部品や洗浄剤にも有害物質は使用せずに、安全性を確保している」と語る。
食洗機の場合、入庫した使用済み商品を開梱後、本体および付属品の確認を行い、使用に支障があるキズや打痕、破損、欠品などがないことを確認したのち、機器内部や外観の汚れに応じた専用洗剤による洗浄を実施。仕上げは掃除機やタオルなどを用いた拭き上げを実施して清掃、クリーニングを行う。汚れている部品や消耗している部品はすべて交換し、動作検査を行う。連鎖項目は21項目に渡り、機能に問題がないことを確認すると再生が完了。専用の梱包箱に入れて宇都宮工場からダイレクトに購入者に発送する。
また、次の商品開発に向けて、再生工程のデータを企画部門や開発部門にフィードバック。初期不良品については、どこに不良が発生しやすいのかといったことも解析するという。
宇都宮工場は、1967年に操業。長年に渡り、ブラウン管テレビの生産拠点として稼働。2003年以降は薄型テレビ「VIERA」シリーズの生産を開始し、テクニクスブランドのオーディオ機器の生産を行ってきた。現在の社員数は250人。テレビなどの生産は終了しているが、透明有機ELの生産のほか、業務用オーティオ機器、ケーブルテレビ機器、スマートガスメーター用無線機などを生産。さらに、「弱いロボット」のマーケティングメッセージで展開している「NICOBO」の生産や、デジカメ「LUMIX」シリーズのエクステリア張り替えサービスも実施している。
主力のテレビ生産が、海外移転やODMを活用する体制へと移行したのに伴い、宇都宮工場の役割を大きく転換。Panasonic Factory Refreshへの取り組みは、操業58年を迎えた宇都宮工場にとって、新たな事業の柱になる。
竹田工場長は、「創業者の松下幸之助の言葉である『道は無限にある』に基づいて考え抜いた結果、モノづくりの新しいカタチとして、再生事業による環境への貢献を目指すことにした。新製品を作るだけではない工場として、役割を再定義した」とし、「リサイクル工場を訪問した際に、回収された使用済み家電がこなごなに粉砕され、再生材料へのリサイクルが行われている様子を見た。だが、なかにはまだ使える家電が混じっており、もったいないとも感じた。パナソニックグループが持つモノづくりのスキルを用いて、こうした家電を救い出せないかと考えたことが中古再生のきっかけになっている。資源リサイクルだけでなく、サーキュラーエコノミー事業を加えて、工場の役割を拡大した」と、新たな工場への再定義に至る経緯を説明した。
従来は、製品を量産し、生産台数を増やすことで収益を生み出す工場であったが、これからは中古再生事業やモノづくり技術の習得のための拠点とし、環境貢献や地域貢献に取り組む「モノづくりの新しいカタチ」を追求する工場に生まれ変わることになる。
宇都宮工場では、リファービッシュ事業を通じて、資源リサイクルによるサーキュラー事業の強化、再生視点からの企画や設計へのフィードバック、障がい者雇用や教育活用、環境貢献による地域共生および社会貢献に取り組んでいくという。
とくに、再生視点でのフィードバックでは、キズがつきやすい部分や汚れやすい部分、部品が交換しにくい箇所などを、新製品の企画部門や設計部門、新製品を生産する量産工場と共有。「再生ならではの視点からの気づきがある。商品の循環だけでなく、より環境に配慮したモノづくりに向けて、データや知見も循環させ、次の商品開発にも生かしていく」と語る。
同社では、2024年10月に、鹿沼市と循環型社会の実現に向けた実証事業に関する協定を締結し、市民向けの見学会や再生品の市民モニターを実施している。「市民モニターは再生品としての基準に満たなかった食洗機などを対象に実施している。モニター制度を通じて意見を聞き、再生基準に反映していくことになる」という。
また、リファービッシュ工程でのカーボンニュートラルの実現、社用車への水素自動車導入なども進める。
「メーカーとして、お客様の期待を裏切らないように、体制を整えて、再生品においても品質と信頼に応えていく」と語った。
2025年6月からは、再生工程を一般公開し、同工場における環境への取り組みを広く訴求するという。
宇都宮工場のリファービッシュ工程を見学してきた
それでは宇都宮工場のリファービッシュ工程の様子を写真で見てみよう。
<動画>液晶パネルに貼付されている特殊フィルムをはがす作業