Airbnbは、日本国内において、災害発生および災害支援の確定から24時間以内に、緊急避難先となる宿泊施設を提供する災害対策プログラムを開始する。47都道府県を対象に実施するもので、全国をカバーする仕組みは、グローバルで展開する同社のなかでも初めての取り組みとなる。2025年内には、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ブラジル、メキシコ、米国の8カ国にも順次展開する計画も明らかにした。
同プログラムを推進する非営利団体Airbnb.orgの責任者であるクリストフ・ゴーダー(Christoph Gorder)エグゼクティブディレクターが来日し、狙いなどについて語った。
Airbnbは、2020年に独立した組織としてAirbnb.orgを設置し、紛争や自然災害などで、一時的に避難が必要な人々を支援する活動を行ってきた。Airbnb.orgで運用している寄付金を利用するため、一時避難時の宿泊費は無償となる仕組みだ。
すでに、米ロサンゼルスや韓国での山火事、オーストラリアで発生した台風、スペインやブラジルの洪水のほか、タイで発生した地震によって、影響を受けた広範な地域などを対象に支援。2020年以降、全世界で25万人以上に、160万泊分の緊急避難先を提供してきた。2024年1月の能登半島地震では、日本で初めてAirbnb .orgの活動を開始し、合計で630泊以上の緊急避難先を用意した実績を持つほか、岩手県大船渡市での山火事においても、現地で支援活動を行うチームのために宿泊先を提供したという。
Airbnb.orgのゴーダー エグゼクティブディレクターは、「能登半島地震の支援では、宿泊した被災者から、厳しい生活のなか、ヒノキ風呂に入浴でき、心が安らいだという心温まるコメントがあった」と発言。その上で、「避難者支援に対するニーズは高まるばかりであり、昨年は18の自然災害に対する支援を実施してきたが、今年に入ってからの5カ月間で27の自然災害が世界中で発生している。この1年間で避難を余儀なくされた人の数は1億人。とくにアジアでの比率が高く、日本だけでも過去1年間で11万人以上に達している」とし、「緊急避難先としてリスティングされている宿泊先は800万件を超え、ホストの数は500万人以上となっている。避難者に対して、即入居できるスピード、あらゆる場所に滞在先があるロケーション、キッチンやリビングルームを備えた快適性を提供できるのが特徴だ。Airbnb.orgは、人々が困難に陥ったときに様々な支援を提供できる能力を持っている」と述べた。
今回の新たなプログラムは、能登半島地震発生時の経験や、グローバルでの活動実績をもとに展開するもので、国内の非営利団体と連携し、地震や津波などの大規模な自然災害が発生した場合、全国47都道府県の選定地域において、24時間以内に緊急避難先となる宿泊施設を提供することを目指し、一時的に避難が必要な被災者を迅速に支援する。
また、今回のプログラムでは、公益社団法人ピースボート災害支援センター、特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンとも連携。医療や緊急対応を行う関係者に対する宿泊施設としても提供することになる。
災害対策プログラムでは、自然災害などが発生した際に、Airbnb.orgは、Airbnbにリスティングされているホストのうち、被災地に隣接する地域を対象に、被災者の受け入れ協力を呼びかけ、受け入れ可能な宿泊施設をリスト化する一方、連携している支援団体を通じて、避難場所が必要な被災者を特定。この情報をAirbnb.orgと共有する。これをもとに、Airbnb.orgは、滞在先を予約できる「クレジット」を避難者に付与する。避難者は、付与された「クレジット」を利用して、リスティングされている宿泊施設を予約し、滞在することができる。宿泊施設には、Airbnb.orgが確保している寄付金から滞在費が支払われ、ホストからAirbnbに対する手数料もすべて免除される。これによって、避難者は無料で宿泊ができるという仕組みだ。最大で29泊まで利用ができる。
Airbnb.orgのゴーダーエグゼクティブディレクターは、世界で起きる地震の18%は日本で発生しており、世界の活火山のうち10%が日本に集中していることを示しながら、「日本は、自然災害が多い国であるが、防災対策が進んでおり、新たなプログラムを最初に実施するには最適だと考えた」とし、「能登半島地震のその後の状況を視察した際に、日本で最初の災害対策プログラムを開始することを思い立った。日本は、国家戦略のなかでも、防災が重視され、NGOなどの協力が得られるという手応えもあった。日本のホストによる被災者に対するケアやサービスも高い評価がある」と述べる。
だが、次のようにも指摘した。
「能登半島地震の支援において学んだのは、災害発生時に迅速に支援活動を展開するためには、それ以前から環境をきちんと構築しておくことである。ロサンゼルスでは多くの人がAirbnbを使ったことがあるのに対して、日本ではAirbnbの認知度が低く、支援を実施する際にも、石川県との話し合いに時間がかかった。日本では、Airbnbへの施設の登録件数は決して少なくはないが、利用者の多くは外国人である。日本人のAirbnbの利用が少ないという点も、日本での認知度の低さにつながっている。ドイツやスペインも同じ傾向があり、このプログラムを展開する際には、日本での学びを生かしたい」とした。
今後、Airbnbの認知度を高めることが、災害対策プログラムの実効性をあげるポイントになりそうだ。
説明会では、災害対策プログラムで連携する3つの非営利団体の関係者も参加した。
ピースボート災害支援センターは、2011年に設立。これまでに10万人以上のボランティアが参加し、国内80カ所以上の市町村、海外では30カ国以上で災害支援活動を行ってきた。 ピースボート災害支援センターの上島安裕事務局長は、「日本では、避難所の数が足りないという課題や、災害関連死が増加しているといった問題がある。今回のプログラムは、こうした課題を解決する手段になる。能登での支援活動の際には、クルマのなかで寝ていた。部屋という空間が確保できれば、支援スタッフを安心して被災地に送り込めるようになる。今後は、Airbnb.orgの活動を周知していくという点で手伝っていきたい。平時からの準備が必要であり、Airbnb.orgと地域との信頼関係を築くための活動を進めたい」と述べた。
ジャパン・プラットフォームは、人道支援に関する47の非営利団体が加盟し、政府や6000社以上の企業とパートナーシップを組み、被災者支援を行う団体として2000年に設立。65の国と地域で、1300回以上の人道支援を実施してきた。110社が賛助会員として参加しており、Airbnb Japanもその1社である。
ジャパン・プラットフォームの亀田和明事務局長は、「これまでにも、被災地で半年以上、車中泊で支援活動を行ったという例もある。被災者の支援だけでなく、被災者支援を行うチームの宿泊施設の確保にも活用でき、被災者を支援できる時間を有効活用できることにつながる。日本で初めてのプログラムの実施に向け、一緒になって、使い勝手がよく、効率性が高いものに進化させていきたい」と述べた。
ピースウィンズ・ジャパンは、1996年にイラクの難民支援を目的に設立。その後、活動範囲を広げ、海外支援事業だけでなく、国内での保護犬に関わる事業も開始。また、2019年からは、災害緊急支援プロジェクト「空飛ぶ捜索医師団”ARROWS”」を開始し、被災地での迅速な支援活動を行っている。
医師でもあり、ピースウィンズ・ジャパン 災害緊急支援プロジェクト「空飛ぶ捜索医師団”ARROWS”」リーダーの稲葉基高氏は、「ARROWSは被災地にいち早く入り、医療活動を行っている。能登半島地震でも発生翌日に避難所を訪れたが、その際に、車いすに座ったままの高齢者の姿があった。避難所にいたままではいけない被災者を優先的にAirbnbにつなぐことが大切である。また、地元の自治体で働いている人たちも多くは被災者であり、休む場所を提供することも必要である。私たちも雪の降る能登で、テントで寝て、活動をしていた。屋根と壁があって、雨風を防げる場所を、Airbnbを通じて使えるようになれば、支援のクオリティもあがると考えている。さらに、次の活動としては、空き家が災害時に活用でき、防災につながるといった流れを作りたい」と語った。