前回は「偵察機とはなんぞや」という話を書いたが、その中で「写真偵察機」という言葉が出てきた。その名の通り、偵察用のカメラを搭載した偵察専用機のことである。

写真偵察機を実現する2種類の方法

実は、その写真偵察機を実現する方法は2種類ある。1つは、偵察専用機をゼロから開発する方法で、もう1つは、既存の戦闘機や爆撃機を改設計してカメラを搭載する方法だ。第2次世界大戦中、日本軍はどちらかというと専用機を開発する傾向にあった。それに対し、アメリカ軍やイギリス軍は、既存の戦闘機や爆撃機から派生させる傾向にあった。

どちらにも一長一短はある。専用機なら偵察のために必要な機能・性能を備えやすいが、所帯が小さい機体のために、わざわざ開発・生産・維持管理の態勢を必要とするので効率が悪い。既存機の派生では逆になる。つまり部分最適化か、全体最適化か、という話になる。

もちろん、どうしても専用の機体を開発しなければならない場合もある。既存の戦闘機では上がれないような高高度を飛行するロッキードU-2や、マッハ3という超高速性能を追求したロッキードSR-71といった機体がそれ。

たまたまU-2はコックピットに座らせてもらったことがあるが、「こんな狭い場所に、(高高度飛行のための)分厚い与圧服を着て乗り込んで、ロクに身動きのできない状態で十時間以上も飛ぶのは辛いなあ」と思ってしまった。

閑話休題。そういう、すこぶる特殊な性能を求められる場合は別として、一般的には、既存の戦闘機を改造、あるいは改設計して偵察機にする方法をとるようになった。主力戦闘機の派生型として偵察機を用意すれば、パイロットや整備員を訓練するにも、機体を整備するにも、元が同系列の機体だから効率がいい。そして、元が戦闘機なら飛行性能も優れている。

ただ、戦闘機だとスペースと重量の関係で、搭載できる機材に限りがある。だから、大がかりな機材を搭載したり、操作・解析のために人を乗せたりしなければならないELINT(Electronic Intelligence、電子情報)収集機、あるいはSIGINT(Signal Intelligence、信号情報)収集機だと、もっと大型の爆撃機や輸送機をベースとすることが多い。

偵察専用機いらずの偵察ポッド

航空自衛隊で使用しているRF-4Eは、戦闘機を改設計して偵察機に仕立てた典型例。機首にカメラ用のスペースをいくつか設けてあって、任務様態に合わせて最適なカメラを搭載する。機首の下面には前方、側方、下方を向いたカメラ窓がいくつか設けてあり、それに合わせてカメラを取り付ける。

  • 航空自衛隊のRF-4E。機首にカメラ窓が付いているのがおわかりいただけるだろうか

ところが最近では、こういう偵察専用機すら作られなくなってきた。戦闘任務に使用する機体が、偵察任務に就く時だけ必要な機材を携えていくようになったから。カメラを初めとする偵察用の機材を収めたポッドのことを偵察ポッドといい、これを兵装ステーションに吊して飛んでいく。

航空自衛隊の偵察機のうち、RF-4EJが偵察ポッド式だ。F-4EJ戦闘機を偵察機に転用したため、偵察機材は外付けにせざるを得ず、それでポッドを胴体下面に吊り下げて飛ぶようになった。使用するポッドは長距離斜め写真(LOROP)、戦術偵察(TAC)、戦術電子偵察(TACER)の3種類がある。

  • 航空自衛隊のRF-4EJ。胴体中心線の下に吊しているのが偵察ポッド。左右の主翼に吊しているのは燃料タンク

偵察ポッドが一般化した背景には、カメラのデジタル化も影響したかも知れない。銀塩だと、ファインダー、ないしはファインダー代わりに使えるような下方視界デバイスを用意しなければならないから、それを備えた専用機が必要になってしまう。しかしデジタルなら、データを機体側に送ってコックピットのディスプレイに表示する手も使える。

幸い、グラスコックピット化のおかげでコックピットには多機能ディスプレイ(MFD : Multi Function Display)がいくつも付いているから、そのなかのひとつを拝借して偵察ポッドからの映像を表示させることが、少なくとも理屈の上では可能だ。

そんな偵察ポッド製品の1つが、グッドリッチ社(今は買収によってコリンズ・エアロスペース社になった)のDB-110偵察ポッド。「デュアルバンド」「焦点距離110インチ」に由来した製品名だ。このDB-110はパナビア・トーネード戦闘機も搭載しているが、ここではRAPTOR(Reconnaissance Airborne Pod for Tornado)という独自の名称が付いている。

このほか、タレス社製のReco NGや、その後釜となるAREOS(Airborne REconnaissance Observation System)という偵察ポッドもある。AREOSは可視光線用と赤外線用のカメラに加えて、赤外線ラインスキャナーも備えている。撮影したデータは容量1TBのストレージ・デバイスに記録するだけでなく、無線データリンクで直ちに送ることもできる。

参考 : AREOS偵察ポッドのブローシャ

なお、偵察ポッド式の場合、ポッドを降ろせば普通に戦闘機として使えるので、運用上の柔軟性が増す利点もある。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。