今回のお題は、潜望鏡である。装甲戦闘車両でも、窓を設ける代わりにペリスコープと呼ばれる機器を備えているが、今回は潜水艦に装備する潜望鏡の話に的を絞る。

従来型潜望鏡

潜水艦が出てくる映画を見れば、艦長が潜望鏡を使って海面上の状況を観測する場面は必ず出てくる。そこで、潜望鏡の動作を思い出してみていただきたい。

艦長が「潜望鏡上げ!」と命令すると、下からスルスルと、接眼部を取り付けた筒が上がってくる。すると、艦長は接眼部の左右に付いたハンドルをぱちんと開いてから、接眼部を見て海面上の様子をうかがう。

潜望鏡は全周をカバーできるように、回転するようになっている。全体が一体となって回転する場合、接眼部もグルグル回転することになるから、それに合わせて艦長は身体を移動しないといけないだろう。

そして「潜望鏡下げ!」と命令すると、元の位置に収まる。

このイラストがわかりやすい。艦長(?)が潜望鏡をのぞいているが、その足元に、収納用の筒が見えている。かなり昔の潜水艦を描いたイラストだが、基本的な構造は今でも同じ Photo:US Navy

さて。その潜望鏡の基本的な構造がどうなっているかというと、基本は、昇降が可能な金属製の筒である。その中に光学系が収まっていて、海面上に突き出した先端部のレンズから映像を得て、鏡筒内に納めたプリズムで向きを変えたり、レンズを介したりして、映像が接眼部に届く。

そして、「潜望鏡上げ!」の指示が出たら、その鏡筒がまるごと上がってきて、海面上に先端を突き出す。しかし、潜水艦が海面に姿を現したのでは何のための潜水艦かわからないから、潜水艦そのものは海面下だ。いわゆる潜望鏡深度まで浮上して、潜望鏡だけを海面上に突き出す。

ということは、潜望鏡の光学系には相応の長さが求められる。仮に、潜望鏡深度まで浮上した時に潜水艦の船体上面が海面から10m下に位置するものとする。すると、潜望鏡の鏡筒は少なくとも11mぐらいないと、海面上に届かない。

しかし、そんな長い鏡筒をまるごと収容できる船殼を用意しようとすると、直径が大きくなりすぎる。かといって、鏡筒部を望遠鏡みたいに伸縮可能にすると、伸縮する部分の防水対策が面倒なことになる。ただでさえ、鏡筒部が船殼を貫通する部分の防水という厄介な課題があるのに。

だから、潜望鏡の鏡筒部は船殼から突出している。それを覆うとともに、レーダーや通信用などのアンテナを収容したり、浮上航走時の見張り台(潜水艦では、この場所のことを艦橋と呼ぶ)を設けたりする目的で、セイルと呼ばれる上部構造物を設けている。

横須賀にやってきたカナダの潜水艦「シクーティミ」。セイルの上部に潜望鏡やシュノーケルなどを突き出した状態で繋留していた

潜望鏡だけでなく、アンテナなどを設ける必要性があるので、セイルをなくすのは現実的ではない。しかし、潜望鏡が船殼を貫通する部分の防水は面倒だから、これはどうにかしたい。

また、従来型潜望鏡を使用すると、艦の指揮中枢となる発令所(米海軍では攻撃センターという)は必然的にセイルの真下、最上層に位置する必要がある。潜望鏡がセイルの中を通っているのだからセイルの真下になるのは分かるが、なぜ最上層か。

潜望鏡の全長とはすなわち、海面に突き出す部分の先端から、下端にある接眼部までの長さである。発令所を設ける甲板の層が低くなると、その分だけ潜望鏡の全長も伸びてしまって具合が悪い。

非貫通式潜望鏡

デジタル・イメージング技術の進歩によって、この課題を解決できることになった。それが非貫通式潜望鏡だ。

非貫通式潜望鏡というと物々しいが、要するにデジカメである。セイルの中に、昇降式の光学センサー入りマストを収容しておいて、「潜望鏡上げ!」の指令が出たら、それを上げて海面上に突き出す。センサー・マストの中には、可視光線用のセンサーと赤外線センサーが入っている。

それらのセンサーが得た映像は、電線で艦内のディスプレイ装置に伝達する。使い慣れた、従来型潜望鏡の接眼部と同じ形態にしている製品もある。

ドイツの防衛電子機器メーカー・ヘンゾルトが売り出している、潜水艦用の光学センサー・マスト「OMS200」

同じヘンゾルトの、非貫通式潜望鏡で使用する接眼部。同社では、既存艦の従来型潜望鏡を非貫通式に換装するソリューションも提案している

これなら潜望鏡が船殼を貫通することはなく、細い電線が通るスペースだけあればよい。どっちみち、レーダーや通信などのアンテナもあるのだから、それらが使用する電線と合わせて船殼内部に引き込むことになる。すると、「潜望鏡の鏡筒が船殼を貫通する部分の防水対策」という課題はなくなる(電線が通る部分は話が別だが)。

また、電線さえ引っ張れば、ディスプレイ装置は艦内のどこにあってもよい。だから、発令所を設置する場所の自由度が増す。実際、非貫通式潜望鏡を導入した米海軍の攻撃型原潜・ヴァージニア級では、発令所は最上層ではなく2層目に降ろされた。

非貫通式潜望鏡のメリット

潜水艦の船殼は水圧に耐えやすいように円筒形になっているから、最上層より2層目のほうが幅が広い。だからヴァージニア級の発令所(攻撃センサー)は、その前のロサンゼルス級と比べると広々していると思われる。

そして、映像が電気信号の形で送られてくるから、「潜望鏡を上げている間に急いですべて観測しなければならない」とはならない。潜望鏡を上げてグルッと一周させて、映像を録画しておく。それが済んだら潜望鏡はとっとと降ろしてしまい、録画した映像を後からゆっくり見ればいい。

すると見落としの可能性が減るし、複数名でじっくり検討することもできる。その代わり、「外の様子を見られるのは艦長だけ」という特権(?)はなくなってしまうが。

もちろん、潜望鏡深度という概念は同じだから、非貫通式潜望鏡で使用する光学センサー・マストは、そこから海面に先端部を突き出せる程度の長さを必要とする。そして船殼を貫通しない以上、センサー・マストはセイルの中に収まってくれないと困る。

だからといって、セイルをむやみに大きくすると抵抗が増えるから、センサー・マストは伸縮式になっていると思われる。

海上自衛隊の「そうりゅう」型も含めて、最近の新造潜水艦は非貫通式潜望鏡を装備するものが増えつつある。前述したようなメリットがあるのだから、採用しない理由は乏しい。ただし海自の場合、発令所の位置は従前通りに最上層である。

なお、非貫通式潜望鏡を装備した艦でも、従来型の潜望鏡を残していることが多い。まだ「念のために」という考えが根強いのだろう。軍人というのは自分の命がかかっているだけに保守的なところがあって、新しいものが出たときに、それまで使っていたものをあっさり投げ捨てることはしないものだ。