服装に頓着がない、かと言ってユニクロ一択にする潔さもない俺たちから勝手に所有物扱いされがちな「俺たちのしまむら」が、子供向け用品「バースデイ」の新商品に「パパはいつも寝ている」「パパは全然面倒みてくれない」などの文言を入れたことが差別的であるとして炎上、謝罪と商品の発売中止を余儀なくされたそうだ。

炎上商法、もしくは炎上してでも今の社会に一石を投じたいというコンセプトでないなら、単純に戦略ミスだ。

今の世の中パパだろうがママだろうが、一定の層に対しネガティブなことを言うのは悪手であり、ガガですらディスれば約一名の逆鱗に触れる可能性がある。

  • 「パパはいつも寝ている」けど、どうせ大人はいつも怒っている

    親でなく子供が自分で選んだなら選ばない靴下な気はするが、「働いたら負け」Tシャツを喜んで着る大人みたいな感性の子供もいるのかもしれない

呼吸を止めて一秒、だけであなた抗議されちゃうかもよ?

だからと言ってポジティブなことを言っておけばよい、というわけでもない。

仮に「パパ仕事も育児もありがとう」みたいな文言だったとしても、ママだってかなり前から仕事と育児の両立を課せられているのに、何故パパだけ感謝されているのか、そもそも自分の子どもを育てるのは当たり前だろう、という抗議が上がっていただろう。

かつてギャートルズを起用した「ひむかのくろうま」のCMですら、「とっつぁんはえらい」というキャッチフレーズに「かっつぁんもえらい」という文言が付け加えられていた。

数十年前ですら、父と母、どちらかを持ち上げたり下げたりする行為は危険球だったのである、令和でそれをやるのはもはや投げる前から当たっている死球と言っていいだろう。

つまり、特定の層をディスれば当然その層が怒るし、褒めればそれ以外の層が「じゃあ我々は頑張っていないというのか」と怒り出す可能性もある、ということだ。

もはや属性を絞って言及すること自体が危険であり、全てのリスクを避けようとしたら「全員息してるだけでエライ」しか言えなくなってきているということだ。

それすら光合成勢から抗議される可能性がゼロではないが、植物様はどう見ても人間より寛大であり、気孔でちょっと呼吸しているからおそらく大丈夫だろう。

ともかく言葉からポイズンを排除した結果、さらにポイズンな世の中になったという皮肉である。

そこから何にも言えなくなって、そんな時代にこんにちは

よって、しまむらの商品が批判されるのは仕方ないが、頻発する抗議&中止のコンボに対し何でも抗議してやめさせれば良いというわけではないだろう、と最近の風潮に辟易する声もあがっている。

確かに、エンタメ界もポリコレをクリアすることに注力しすぎて肝心のエンタメとしての面白さが損なわれているという話をよく聞く。

しかし「刺激的で面白いもの=誰かへの攻撃」というわけでもないだろう。企業やクリエイターは「いじり」をせず、かつ面白いものを考えなければいけない時代になってきているということだ。

しかし、今回のしまむら商品が炎上したのは確かだが、主に怒っているのはどの層なのだろうか。

まぁ実際、おじさんだっておじさんには迷惑しているのだが……

普通に考えれば「パパ」つまり、子持ち男性である。

ちゃんと子育てをしている父親が偏見に対し怒っている、もしくはクリリンを殺されても平常心だが自分が攻撃されるのは我慢ならない子育て不参加の父親が図星を指されて「俺のことかー!」と怒っているのではないかとされている。

だが、子持ち云々ではなく「男、特におじさんはいじってもいい」という風潮に対しての怒りだという意見もある。

確かにおじさん自身が「我々おじさんはおじさんというだけでちょっと嫌われていると思って行動しないと本格的に嫌われる」とこぼしているように、現在もっとも雑に扱われているのは中年男性という説もあり、それが許されている風潮もある。

もちろん、おじさんが何の理由もなく突然迫害対象になったわけではなく、全おじさんにデバフ付与をする高位ウイザードおじさんのモラル欠如行動が世間に迷惑をかけ続けたことにより、そういった風潮になってしまったのだが、おかげで何もしていないのにおじさんになった瞬間マイナススタートを強いられる不遇なおじさんがいるのも確かである。

しまむらが、パパディス商品だけ発売し、ママディス商品を同時発売していないあたり、「男いじりは冗談で済む」という世間の空気があったことは否めない。

赤ちゃんスタイ(よだれ掛け)の「I Love Mama」はかわいいけど

ちなみに私が個人的にこの商品に感じたヤダみは、大人の気持ちを子供に言わせている感だ。

そもそもリアルキッズは自分が親に面倒を見てもらっているという意識すらない気がする。

「寝ている」「面倒を見てくれない」という不満はおそらく子供ではなく、ママ側のものなのではないか。それを子供用の商品にプリントし、あたかも子供がそう言っているように見せかけるのは、おドッグ様やおキャット様に、人間が勝手に「飼い主さん大好きだニャン」とアテレコするような邪悪さがある。

子どもの言葉という体なら、せめて大人が考えた子どもの言葉ではなく、リアルキッズから聴取した言葉を入れるべきだろう。

その結果「ウンコ」と刺繍された靴下が販売されるかもしれないが、それに対して「差別だ」というクレームが入ることはないだろう。