「ゴキブリミルク」
私が知らない間に「トレンドを地獄にして1日62時間Twitterに貼りついてる奴を不快にしてやろうぜ選手権」でも開催されたのだろうか。
そうだとしたら、実際Twitterを見るたびに「ゴキブリミルク」が目に入って一日が台無しになったのでその大会は大成功と言えるだろう。
しかし、そもそも1日62時間Twitterをやっている奴の数が少ないので、第二回目の開催はよく考えて欲しい、コスパが悪すぎる。
だが、ゴキブリミルクは規制に引っかからず人を不快にさせるために作られた造語ではない、ということも薄々感づいている。Twitterに62時間貼りついていると、トレンドだけで社会のことがわかってくるのだ。
おそらくゴキブリミルクは、ここ数日トレンドに上がっていた「コオロギ」を代表とした「昆虫食」関連の話題だろう。実際、ゴキブリミルクは「ゴキブリを原料としたミルク」というディストピア飲料の話だった。
近い将来、世界的な食糧難が予想されている。それを解決する方法として、現在メジャーな牛豚鶏よりも環境負荷が低いなどの観点から「昆虫食」が注目されており、日本でも無印良品がコオロギせんべいを発売して話題になった。
という記事を妄想でなければ2、3年前書いた気がするが、妄想だったらもう少し楽しいことを考えると思うのでおそらく事実だろう。
よって、私にとってコオロギを食う話はそこまで目新しい話でもなかった。
数年の時を経てコオロギ食も進化、資生堂パーラーに昆虫パフェ登場、みたいな話かと思っていたが、今回はどちらかというと炎上寄りのトレンド入りだったようである。
徳島県の高校で、給食にコオロギパウダーを使ったメニューを出したところ「子供に虫を食わせるな」というクレームが相次いだそうだ。
だが給食に昆虫と言っても、スポーツ少年漫画のように「こいつが今日からスタメンだ」と言って、突然コオロギメニューがレギュラー登場してきたわけではない。
コオロギメニューは「昆虫食を学ぶ授業」の一貫として出されたもので、懸念点など説明した上で希望者のみ、業者が加工したコオロギ食材を使って調理・実食するという形だったという。
保護者にまで十分な説明があったかは不明だが、漫画の出版社にも「読んでないけどおたくはこういう内容の漫画を掲載したそうじゃないか、けしからん」というクレームが結構来るらしいので、昆虫食にクレームを入れたのは「学校が子供に虫を食わせているらしい」という情報だけをキャッチした「当該の子供に全く無関係の第三者」の可能性もある。
しかし「クジラは賢いから食うな」同様「虫はキモイから食わせるな」というお気持ちの問題だけではなく、昆虫食の筆頭であるコオロギは食用生産のガイドラインこそ作られたが、一般的な食品として立ち位置が定まったとはいえない状況のため、それを子供に食べさせることに対する反発が大きかったようだ。
特に「アレルギー」に対する懸念は大きい。小麦や卵アレルギーであれば乳幼児期に判明し、給食でも配慮ができるだろうが、現時点で「虫アレルギーなんでコオロギ食べられません」と言える人は少数派だろう。虫アレルギーがあることを知らないまま昆虫食を実食してしまったら最悪命に関わる(編集注:コオロギはエビ・カニに似たたんぱく質を含むため、甲殻類アレルギーをもつ人がコオロギを食べると、アレルギー反応が起こる恐れがあります。無印のコオロギせんべいには、甲殻類アレルギーの人は食べないよう赤字で注意書きがありました)。
コオロギ食べるブーム、足りないのは「味」の話かも
だが、そういう健康的な問題だけではなく「昆虫食」に対し、いつも通り陰謀を感じている者もいるようだ。
コオロギ養殖が認定農業者制度の対象になっているため、コオロギ養殖が優遇されている、つまり一部の者の利益のために、コオロギや昆虫食を国がゴリ押ししているということらしい。
しかし、先ほどの「昆虫食の授業」が国や自治体からの要請で行われたのかというとそうではなかったようで、子供たちが食っていたコオロギ菓子を教員も食べてみたところ、その美味さに感動し、昆虫食の授業を思いついた、という経緯だったそうだ。まさかの「子供からの逆輸入」である。
今回の反発は昆虫に対する嫌悪感や健康上の問題もあるが、「世界的食糧危機」を日本人が実感しづらいせいもあるかもしれない。
何せ食料危機より余剰生乳の廃棄など、フードロスの方が問題になっている国である。今後食い物がなくなるから虫を食おうと言われてもピンとこず、不必要な物が公金をかけてゴリ押しされているように見えてしまうのかもしれない。
この昆虫食騒動に対し、平素から昆虫食を嗜んでいる人の意見としては「コオロギという中の下クラスの味の虫を推している時点でイマイチ乗り切れない」そうである。
確かに、我々が動物や魚の死骸を食っているのは単純に「美味い」からでもある。時に「グミ」など、栄養価など無視して、美味いだけの物を食ってしまうほどだ。
コオロギがピックアップされているのは栄養価や養殖のしやすさからであり、おそらく味を追求した結果ではないだろう。
食糧難になったら味とか言っていられないかもしれないが、やはり食というのは人間の楽しみなので「美味い」のが一番手っ取り早い普及方法である。
一度、食糧問題や栄養価すら無視して「ただ美味いだけの昆虫食、むしろ体には悪い」ぐらいのメニューを、専門家も交えて作ってみてはどうか。
「ビーフオアチキンオア虫?」と、他に選択肢があるのにあえて虫を選ぶ人間が普通に出てきてはじめて、昆虫食が受け入れられたと言えるだろう。