好きなテレビ番組は、と聞かれたら『人生の楽園』そして『相葉マナブ』と答えるようにしている。私は土日だけ夕飯をテレビのある部屋で食うため、その時間帯にテレビをつけると、これらの番組をやっているからだ。(編集注:『人生の楽園』は土曜、『相葉マナブ』は日曜の番組で、どちらも18:00から放送しています)

その前に夕飯を食う時間が早すぎないか、と思うかもしれないが、田舎は都会より2、3時間やることが前倒しだと思った方が良い。

それを知らずに田舎で8時に起きたりすると、いきなりクソデカため息の洗礼を受けることになる。8時というのは都会にとって起床時間かもしれないが、田舎にとっては始業時間である。

私が前いた会社は8時半始業だが、それは建前であり、実際は8時前に会社に来て掃除、15分にラジオ体操、半に始業だった。

この時点で面倒くせえと思われたと思うが、そういう田舎の面倒臭さを一切排しているのが「人生の楽園」なのだ。

人生の楽園は第二の人生を田舎で暮らすことを決めた中高年の生活を追ったドキュメンタリー番組だ。田舎に移住して何をしているかは様々だが「年金で細々やりながら図書館やイオソのフードコートに一日中詰めている」という出演者はほとんどおらず、「カフェを開き、地域住民の憩いの場になっている」というのがテンプレである。

美しい風景と現地で取れた食材を使ったカフェ飯、住民たちの笑顔、これを見ると田舎暮らしが良いものに思えてくる。

しかし、これらが上澄みであることもわかっている。

30分の番組をつくるために96時間の使えない映像を撮っていたり、あるいは良いショットが撮れたと思ったら、カフェの壁に「コロナ 帰れ」という達筆が貼られていてお蔵入りしたりということもあるのかもしれない。

また撮影時は良かったが、その後ことあるごとに「やっぱり敏行に褒められた人は違いますなあ~」と嫌味を言われたり、単純に老化により「こんな不便な地域では生きられない」と都会に帰ったりした人もいるのではないか。

ぜひ彼岸島のようにいつか「人生の楽園 48日後…」を放映してほしい。

ある意味正直な「七か条」

  • 隣の芝は青く見えるもの……

人生の楽園が「田舎暮らしは素敵」というイメージを発信する一方で、「田舎は不便だし、原住民は全員キンタマの裏のように陰湿で、移住したところでイジメ殺されるだけ」というイメージも根強く、インターネットではこちらの田舎キンタマ説の方が支持されている印象だ。

そして先日、キンタマ勢歓喜の田舎陰湿ネタが投下され、ネット上が沸いたようだ。確かに田舎に陰湿な面はあるが、ネットもかなり陰湿であることも否めない。

話題になったのは、福井県池田町が打ち出した「池田暮らしの七か条」である。

この七か条は移住を考える人に池田で暮らす心構えを説いたもので、要約するに「この町はこれだけ面倒くさいことがあるがそれに従え」ということであり、特に良く燃えたのが「都会風を吹かさないで下さい」という一文である。ぜひ作画・地獄のミサワで「ごめーん吹いちゃった?都会風?」と言ってほしい。

我が集落はこのまま美しく滅びる予定であり、若い移住者、まして子供が生まれるなどもっての他である。間違っても移住者が来ないようにしたいという目的でこの七か条を作ったなら、担当者は相当のやり手だ。町長直々に表彰状をくれてやっていい。

だが、炎上したのは驚くべきことに、これが「住民を誘致したい」という目的で作られていたからである。当然「来て欲しいのに何でこんなに上から目線なんだ」と批判が殺到しており、「これだから田舎は滅ぶんだ」といういつもの結論に達していた。

確かにこの7か条を見て池田町への移住を考えるのは相当なインディ・ジョーンズであり、誘致戦略としては完全な失敗だとは思う。

しかし、逆に「良いことしか言わない町おこし」も結果的に失敗するような気もする。

この7か条に書かれているのは言い方はともかく「事実」だろう。事実を隠し「豊かな自然」など良いところだけ見せて人を呼んでも、この事実に直面した時点で都会に直帰してしまう。

よって「表向き歓迎しといて陰湿なことをするより、初手から陰湿で逆に親切」という意見もある。

だが、過疎化を本気で解決したいなら「変化」が必要である。この七か条の問題は「これが事実」なのは仕方がないが、それを「一切変える気がない」と宣言してしまっており、「ほしいのは老の命令を聞く兵隊としての若だけであり、変えようとする奴は来るな」と言ってしまっている点である。

やはり「俺たちはこのまま滅びるから手出し無用」という「絶滅宣言」にしか見えず、住民誘致としては間違っていると言わざるを得ない。

せめて7条の後に「これが我が町の実情ではありますが、こちらもこのままじゃヤバいとは思っているので新しい風を吹かせてくれる方を募集します」という「変わる姿勢」を見せた方が良かったのではないか。

だがそれにしても、7か条の内容が手強すぎるため「この町を変えてやろう」というチャレンジャーはなかなか現れないと思う。

それに表向き「変わりたい」と言ったところで「※新しい風を吹かしてくれる人を求めていますが、現地民が逆風を吹かさないとは限りません」という注釈も見えてしまっている。

結局、良い部分だけ出しても人はいつかない、だが悪い面を出したらそもそも人が来ないという悩ましい状況だ。

もはや過疎地に人を呼ぶより、都市部に過疎地の住人を呼び寄せる方が早いのではないか。

都会風を吹かすなという郷に入っては郷に従え精神を持つ人たちなら、まさか都会に来て田舎風を吹かすような真似はしないだろう。