PCおよびスマホ等周辺機器大手のエレコムが、充電専用USB Type-Cケーブルを発売した。公共のUSB充電ポートの利用時、約6割のユーザーが「不安を感じながら充電している」とし、また、9割を超えるユーザーがなんらかのかたちで「安全性への対策が必要」と答えたことを受けての製品だ。同社が今回の製品のためにジャストシステムの「Fastask」によるインターネット調査を行ったアンケートの結果だ。

駅や空港、電車内、また、図書館などの公共施設や街角のカフェなどに装備されているUSBポートを充電に使って重宝している方も少なくないだろう。ただ、その便利さは危険と隣り合わせだ。公共のUSBポートを悪用したサイバー攻撃は「ジュース・ジャッキング」と呼ばれるが、充電ケーブルがデータ通信ケーブルでもあることを利用し、プラグを挿入することでデータを抜き取ったり、マルウェアを送りこんだりする。

  • エレコムの充電専用USB Type-Cケーブル。パッケージにはお馴染みのUSBロゴがない

    エレコムの充電専用USB Type-Cケーブル。パッケージにはお馴染みのUSBロゴがない

今、各種のスマートデバイスの多くは両端がUSB-Cプラグのケーブルを使って充電するようになっている。デバイス側はiPhoneを含め、ほとんどがUSB-Cだ。充電器側もUSB-Aは少数派になりつつある。多くの機器は、USB Power Delivery(USB PD)という規格での安心安全をめざした急速充電に対応し、その活用のためには、両端USB-Cのケーブルを使うことが必須とされているからだ。

仕組み上、ジュース・ジャッキングの危険の回避は充電をあきらめることくらいしかない。もちろん、パソコンやスマホ側で完全な対策アプリを稼働させればいいのだが、そこをすり抜けられたらおしまいだ。

こうした流れの中で同社は充電はできるがデータの転送ができないケーブルを「充電専用」として発売することにした。USB-Cケーブルの結線のうち、USB2.0データ用のD+/D-線、USB3.0超高速データ用のTX/RX線、映像出力の制御やオーディオ転送の補助に使われるSBU線を省略することで、通常のデータ通信が行えないようにしたケーブルだ。

USB PDはデバイスと充電器が接続されたことを検知すると、そのケーブルの素性を確認し、デバイスと充電器の間で、必要な電力や電圧と電流の組み合わせについての相談をする。このときにデータが流れるが、通常のデータ用結線は使われず、CC線というネゴシエーション専用の線が使われる。この線は電源交渉専用で他の種類のデータは流せない。WindowsやiOS、AndroidといったOSへのアクセスもできず、ハードウェアとしてのUSB PDコントローラにつながっているだけだ。だから、スマホやパソコンのプロセッサやOS、ストレージには不正にアクセスするルートが物理的に存在しないのだ。

ただ、USB規格の元締めともいえるUSB-IFは、データ線の省略されたケーブルがUSBケーブルと名乗ることを許可しない。USB-IFの認証を取得できないからだ。だから、今回の同社製品には、お馴染みのUSBロゴがプリントされていない。

ただ、USB-IFが認証外製品を取り締まるものではなく、ただちに法令違反を意味するものでもない。だから「規格違反」というよりも「規格に適合していない」という言い方が近いと同社では考えている。業界標準規格に適合していない製品だからこそ、きちんと安全を担保できる信頼できるメーカーの製品を選びたい。エレコムはそんなメーカーのひとつだ。

今回同社から発売されたケーブルは素材によって、

  1. スタンダードケーブル: 普段使いにふさわしい(ホワイト/ブラック 1m/2m)
  2. シリコンケーブル: なめらかで絡まりにくい(ホワイト/ブラック 1m/2m)
  3. 高耐久ケーブル: 断線に強いナイロンメッシュ素材と高密度配線構造(ブラックのみ 1mのみ)

の3種類がある。最大伝送電力については60WのものとEPR対応の240Wのものがある。一般的なスマホやノートパソコンであれば60W対応のもので十分だが、ゲーミングパソコンなど、一部のデバイスで高い電力を要求するものを使う場合にはケーブルも対応のものを使う必要がある。

なお、すべての製品のプラグには「CHARGE ONLY MAXxxxW DP Alt Mode:X」と記載されているので映像出力にも対応していないことが一目でわかり、他のケーブルと混ざっても間違うことがない。

  • 左からスタンダード、なめらか、高耐久ケーブル。さらに、スタンダードケーブルには1メートルと2メートルがある。出張先のビジネスホテルなどではベッドとコンセントの距離が離れていることもあるので2メートルのものが安心。なめらかケーブルにも2メートルのものがほしかった

    左からスタンダード、なめらか、高耐久ケーブル。さらに、スタンダードケーブルには1メートルと2メートルがある。出張先のビジネスホテルなどではベッドとコンセントの距離が離れていることもあるので2メートルのものが安心。なめらかケーブルにも2メートルのものがほしかった

  • プラグには、これが充電専用であることと、その最大伝送電力が記載されている。また、映像出力にも非対応であることがわかる

    プラグには、これが充電専用であることと、その最大伝送電力が記載されている。また、映像出力にも非対応であることがわかる

ACコンセントがUSBポートに置き換わってきた公共の場の設備だが、今後は、かつてのようなACコンセントに戻っていき、個人はコンパクトなACアダプタを持ち運ぶようになるのではないかと考える。それなら今回のエレコムの製品のような充電専用ケーブルを用意しなくても、自前のACアダプタを使えばジャッキングの心配がないからだ。

それに、USB-AからUSB-Cへとポートの主流が変わったときに、それを置き換えるために大きな設備投資が必要だったことを運営側が経験している。でも、ACコンセントならまず主流が変わることはない。

余談だが、今回、羽田空港や成田空港のリムジンバスでお馴染みの東京空港交通株式会社に取材してみたところ、同社では現行で路線バスを309両持っているが、その内訳は

  • USB-Aポート搭載車両:135両
  • AC100Vコンセント搭載車両:99両
  • 電源設備なし:75両

となっているそうだ。同社による当初の電源提供はすべてAC100Vコンセントだったが、それをUSB-Aポートに置き換えた経緯がある。今後、現在のUSB-AポートをUSB-Cに置き換えるのか、それとも元のAC100Vコンセントに戻すのかなど、今後の車両仕様については時代の流れや社会の動向を見極めた上で決定していくという。事業者側にとっても、規格のトレンドに振り回されないACコンセントへの回帰は、有力な選択肢の一つになり得るのではないだろうか。ちなみに、同社車両ではモバイルバッテリー事故は現在まで確認されていないとのことだった。また、社内でのモバイルバッテリー使用禁止アナウンスは行っていないが、現時点ではトランクルームへの預け入れはできないルールとなっている。

  • リムジンバスの各座席に装備されたAC100Vコンセント。日本や米国のプラグがそのまま使える。韓国や中国、印度、オセアニア、中東などのユーザーは変換プラグが必要になる

    リムジンバスの各座席に装備されたAC100Vコンセント。日本や米国のプラグがそのまま使える。韓国や中国、印度、オセアニア、中東などのユーザーは変換プラグが必要になる

スマートデバイスに欠かせない充電という日常的な行為。その安全安心を担保するために、メーカーやインフラ側などさまざまな分野で対策が進められている。公共の場での利便性を享受しつつ、こうした防衛策を取り入れることで、よりスマートで安全な暮らしを送りたいものだ。