第65~74回で、VTOL(Vertical Take-Off and Landing)機とSTOL(Short Take-Off and Landing)機について取り上げた。そのうち、VTOL機は主翼の揚力に頼らずに浮揚できなければ成り立たず、その際に浮揚力の源となるのはエンジンだけ。だから、エンジンが発揮できる浮揚力が機体の重量を上回っている必要がある。さて、この「機体の重量」とは何を指すのだろうか?

いろいろある「○○重量」

厳密にいうと、重量と質量は違う。質量は物体が含む物質の量のこと。そして、重量は物体に作用する重力、いいかえれば地球が物体を引く強さのこと。だから、引力の強弱によって重量は変動するが、質量は変動しない。ただ、本連載は物理学の教科書ではないから、地球の上での話に限定する。よって、以下では「重量」という言葉を使う。

さて。飛行機に関わる「○○重量」は、意外なほど種類がある。まず、それを列挙してみよう。

自重(MEW : Manufacturer's Empty Weight)

機体構造、エンジン、機内装備などで構成する、機体そのものの重量。

基本運航重量(Basic Operating Weight)

作動油、救命用などの緊急装備品、マニュアルや日誌などの運航装備品を加えた重量。

運航空虚重量(Operating Weight)

基本運航重量に、乗員とその手荷物、機内食、旅客向けサービス用品など、運航に必要な一切合切を加えた数字。

最大ゼロ燃料重量(MZFW : Maximum Zero Fuel Weight)

燃料なしの状態で、旅客・貨物を主翼の強度が許す限界まで搭載した際の重量。多くの機体は主翼に燃料タンクを設けて、主翼を上方に曲げる荷重を緩和している。その主翼に燃料が入っていないと、翼胴結合部における強度上の負担が大きくなる。だから、機体構造設計の観点からすると、最も辛い状態。

最大ペイロード

最大ゼロ燃料重量と運航空虚重量の差分。ただし、重量の割にかさばる貨物を搭載すると、先に容積制限が来ることがある。

最大タキシー重量(MTW : Maximum Taxi Weight)

タキシング開始時点での限界重量。タキシー中に消費する燃料が加わるので、その分だけ最大離陸重量より数字が大きい。最大ランプ重量(MRW : Maximum Ramp Weight)ともいう。

最大離陸重量(MTOW : Maximum Take-Off Weight)

離陸できる限界の重量。主翼が発揮し得る揚力などによって決まる。

最大着陸重量(MLW : Maximum Landing Weight)

着陸できる限界の重量。降着装置の強度によって決まる。

なお、ペイロードとはpay load、日本語だと「有償荷重」という意味だが、実際のところ、この言葉は有償・無償に関係なく、搭載量と同義として使われている。

燃料とペイロードの両方を満載にはできない

さて。さまざまな機種について、前述の数字が出ている資料が欲しい。できれば、同じモデルで「通常型」と「長距離型」の両方があると望ましい(その理由は後述)。

ということで探してみたところ、日本航空Webサイトの「航空実用事典」にある「旅客機諸元・性能表」に行き着いたので、ここに載っている数字を使って算数をやってみよう。すでに日本航空からは退役してしまった機材だが、お題としてボーイング747-400を使う。

国内線仕様の747-400は、最大ゼロ燃料重量が242.7トン、運航空虚重量が164.3トンある。ということは、ペイロードの上限は両者の差分をとって78.4トンとなる。

JAL ボーイング747-400

そして、燃料搭載量の上限は163.4トンある。そこで、ペイロード満載の状態で燃料を満タンにすると……242.7+163.4=406.1トンとなり、最大離陸重量の272.2トンを大幅に上回ってしまう。これでは離陸できないので、ペイロードと燃料の両方を満載する選択肢は成り立たない。

一方、運航空虚重量の状態に燃料を満載すると、164.3+163.4=327.7トンとなり、これまた最大離陸重量を上回ってしまう。しかも、ペイロードを何も積めない。

そこで実際の運航では、まず必要とされる燃料の数字を先に出す。目的地まで安全に飛行できなければ輸送は成り立たないので、まず、燃料が優先となるのだ。具体的にいうと、出発地から目的地まで飛行するために必要な燃料の量(消費燃料)を計算して、そこに予備燃料を上積みした数字となる。

これによって、空荷の状態における離陸重量が確定する。それと最大離陸重量の差分がペイロードの上限という計算になる。

実際の運航では、タキシングによって燃料を消費することを考慮に入れる必要があるかもしれない。羽田にしろ成田にしろ、ランプアウトしてから離陸を開始するまでに10分や20分は経過してしまうことが多いから、その間に結構な燃料を使っているはずだ。

しかし、これは空港の規模や混雑状況によって大きく変化するファクターなので、「場合によりけり」。実際にどこからどこまで運航するかによって判断することになるのだろう。

予備燃料いろいろ

なお、予備燃料には、いくつかの内訳がある。

  • 天候などの理由で目的地の空港が閉鎖されて着陸できなかった時に、代替飛行場に向かう分の燃料。場合によっては出発地に引き返すこともある
  • 待機(ホールディング)を指示されたときに必要となる燃料
  • 補正燃料。計算した消費燃料と実際に消費する燃料との間に生ずる誤差を補正するための予備で、消費燃料の8~10%程度を上積みする
  • 補備燃料。天候や燃料搭載手続きの関係で、追加しておいた方が望ましいと考えられる予備燃料

すべて予定通りに運航できれば、これらの予備燃料は使わずに済むので、着陸した時点で残っているはずである。もっとも実際には、向かい風・追い風や高度といった要因によって燃料消費が増減するので、すべて計算通りに行くとは限らないし、そのための予備燃料でもある。