測位の話が済んだので、オートパイロット(自動操縦装置)の話を書けることになった。自動操縦といっても、ここで取り上げるのは巡航を自動化する話である。技術的には離着陸の自動化も可能になってきているが、その話はまた後で。

昔のオートパイロット

実は、オートパイロットと呼ばれる種類の機材は第2次世界大戦より前からあった。ただし、同じなのは名前だけで、中身は別物。「指示された針路を維持して真っ直ぐ飛ぶ」というものである。今でも、この種のオートパイロットを装備している機体はあるようだ。

手作業で目的地に向かう針路に乗せたところで、オートパイロットを作動させる。すると、後はオートパイロットがその針路を維持して飛んでくれる、というわけだ。高速道路をクルマで走る時に、クルーズコントロールをセットするのと、少し似ている。

しかしこれ、口でいうのと実際にやるのとでは大違いだ。なぜかと言えば、風や気流の影響を受けて針路が変わったり上昇したり下降したりするので、それを修正してやらなければならないからだ。

ということは、オートパイロットはコンパス(羅針儀)と連動していなければならない。そして、指示された針路(の方位角)と羅針儀が実際に示している機の針路を照合して、外れていたら修正する動作が必要になる。

例えば、針路270度(真西)に向かった状態でオートパイロットを作動させる。ところが当日は南風。とすると、機首は右方向に流されるから、針路が少しずつ北向きにずれてくるはずだ。針路が北向きにずれれば、コンパスから得られる針路の数字は増える。そこで、オートパイロットは左に舵を切って、針路が270度になったら直進に戻す。そのうち、また機首が右に(北に)振れてくるので、また同じことを繰り返す。

ということは、オートパイロットは「指示された針路の数字」を記憶しておいて、「コンパスから得た実際の針路の数字」と照合・修正する機能を備えていないといけないことになる。もっとも、それでは針路がフラフラしてしまうので、風の影響がどれぐらいあるかを把握した上で、最初から風上側に機首を振る方が良いのだろうけれど。

なお、ここでは話を単純にするために針路の話だけを書いたが、高度の維持も可能である。高度計から高度の情報を得て、指示された高度と照合する。そして、必要なら修正するという話になる。

  • オートパイロット機能を搭載したエアバスのヘリコプター「H135」のコックピット

INSの導入による変化

針路維持の機能があるだけでもパイロットの負担は軽減できるが、出発地から目的地まで単純に一直線で飛行するとは限らない。途中に複数のウェイポイント(経由地)があり、それぞれが変針点になっている場合はどうするか。

パイロットが手動で操縦している場合、機がウェイポイントに近付いたことを把握して、そこで針路を設定し直している。それと同じことをオートパイロットが実現できるかどうかが問題になる。そこで慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)を搭載して、それをオートパイロットと連動させる。

自機のリアルタイム位置情報はINSから得られる。事前にウェイポイントの緯度・経度をオートパイロットに入力しておけば、自機の位置と次のウェイポイントを結ぶ線を引いて、次に向かうべき針路を計算できる。あとは、その針路に載るように機の針路を修正すればよい。

INSからリアルタイムの測位情報を得ていれば、次のウェイポイントにさしかかったかどうかも分かる。ウェイポイントの上空まで来たら、その次のウェイポイントに向かう針路に向ける。それを目的地まで繰り返す。

つまり、INSのような信頼できる測位手段があれば、それをオートパイロットと連動させることで、「ウェイポイントを次々にたどりながら目的地に向かう」という操作を自動的に行える。旅客機がINSを搭載するようになり、これが一般的になった。

この、INSとオートパイロットの合わせ技は、飛行機だけでなくミサイルでも広く使われている。発射後は、発射前に入力しておいた目標地点に向かうように、オートパイロットがミサイルを操縦する。INSにGPS(Global Positioning System)を併用すれば、さらに測位精度が向上する。

対地・対艦ミサイルは一般的に、INSとオートパイロットを搭載しており、発射前の目標地点の緯度・経度を入力しておく。機種によっては、発射前に複数のウェイポイントを入力しておくこともできる。近年では、対空ミサイルも射程距離が伸びたために、中間誘導の手段としてINSとオートパイロットを搭載するようになった。GPSを併用するものも出てきている。

クルマの自動運転との違い

最近、クルマの自動運転が話題になっている。それと比べると、航空機のオートパイロットのほうが歴史が長い。

空の上にも「道」はあるが、それは物理的な道ではない。特定地点間、あるいはその特定地点に設けた航法援助施設同士を結ぶ形で設定された、形のない「道」である。物理的な道ではないから、物理的な障害物もない。

したがって、オートパイロットに求められる機能は、煎じ詰めれば「針路と高度の維持」である。クルマの自動運転では「車線から外れない制御」が不可欠だが、それと似ている。

ただし道路と違って、「障害物」とか「歩行者の横断」とかいった問題はない。周囲の機体との衝突回避については、本連載で追って取り上げる航空管制、あるいは衝突防止システムによって対処しているので、それはオートパイロットの仕事ではない。

実のところ、自動運転をいちばん実現しやすいのは鉄道かもしれない。車両側で行う操作は、加速と減速という1次元の操縦操作だけだからだ。もともとレールという案内手段があり、進路の構成は地上側から分岐器の切り替えという形で行っている。すると、残る課題は衝突回避と駅での停車という話になるが、前者は信号保安システムの仕事であり、後者もそれの応用が可能だ。