筑波大学の学生による仮想計測論文に学生賞

AI/IoTを活用して先進的半導体製造装置制御・プロセス制御(AEC/APC)の高度化を目指す国際シンポジウム「AEC/APC Symposium Asia 2019」。同シンポジウムにおいて、学生による発表の中でもっとも優れた論文に与えられる「Student Award(学生賞)」には、筑波大学大学院のHuizhen Bu氏による「2次元統合品質仮想計測(VM)モデリング:高次元少標本データのアップスケーリングと評価」が選ばれた。

同論文では、高次元少標本データに対する変数選択の安定性・再現性を検証する手法を提案し、半導体CVDプロセスを例に精度よく多次元品質の仮想計測モデルの構築・評価について議論している。大学では実際のデータを入手できないため、人工データを用いて効率的に検証したものとなっている。

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    Student Awardを受賞した筑波大学大学院のBu氏(右)

また、筑波大からは、この論文と対をなす「多次元品質VMモデルの性能評価:オープンデータの応用」と題する論文がポスターとして発表されている。オーラルセッションで発表した半導体プラズマCVD工程向けに開発した仮想計測モデルを、まったく異質な化学プロセスのデータでも検証し、高精度クラス分類の有効性を確認したものであった。

同シンポジウムで毎回欠かさず発表を続けている大学は、筑波大学(同シンポジウムのプログラム副委員長でもある有馬澄香 講師の研究室)だけしかないが、他大学からもAIやIoTの活用で成長著しいAPC分野での発表が期待される。有馬研究室のAI研究は、実産業用途での社会実装を目指し、知的財産や情報処理システムの開発までを担い、産業の課題解決に向かう方法論と事例の開発を同時並行して行っているという。

仮想計測(VM)に関しては、このほか以下の2件の報告が行われた。

  • Cu-CMPプロセス向け仮想計測(VM)-APC自動実行システムの構築(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング)
  • スマートな仮想計測(VM)手法を用いたICPエッチングプロセスの終点予測(アズビル)

いずれも製造装置内部に設置したさまざまなセンサから収集・蓄積したビッグデータを活用して実際のシリコンウェハ上での計測は省略して製造の効率化をはかる試みである。

AEC/APCで半導体製造を最適化・効率化

このほか、APC(先進プロセス制御)分野では、

  • 傾斜光照射による高精度In-situ膜厚検出(日立製作所)
  • 先進的センサ追跡分析による不良原因分析の正確性の改善(BISTel America)
  • ヘルスインデックス(診断パラメータ)によるPID(P:比例、I:積分、D:微分)パラメータの再調整の適用可能性(アズビル )
  • レシピの整合性とデータをプロセスAPCシステムへフィードフォワードするためのリソグラフィ測定ツールレシピ検証システムの社内開発(Global Foundries)

の4件の報告が行われた。

また、AEC(先進製造装置制御)分野では

  • トレンチ断面積予測モデルを用いたRIE装置管理(東芝デバイス&ストレージ)
  • 実用的な装置運用のためのシリコンウェハの反り分類(東京エレクトロン)
  • 高調波センサを用いたウェハ搬送部の機械学習型劣化診断(パナソニック)
  • 半導体製造装置チャンバのパラメータのばらつきを詳細に分析することにより機差をなくして製造性能の最適化(米BISTel America)

の4件の発表が行われた。

最後に「すべての道は環境に通じる」という風変わりなタイトルの発表が東京エレクトロンからあり、人目を引いた。半導体工場で消費される電気だけではなく、冷却水、純水、清浄空気、ラインガス、排気ガス。クリーンルーム冷暖房などすべてに消費されるエネルギーを換算係数を用いて統一的に評価するためのSEMIスタンダード手法について論じた。同社では、廃棄物の削減だけではなく、リサイクルにも取り組んでおり、硫酸の再生装置の開発で排気量を47%削減できたという。

すべての講演終了後、ポスター発表者だけではなく口述発表者もポスター展示し、参加者の質問に答え、活発に意見交換も行われた。「組み込み人工知能(e-AI)を使った半導体工場のデジタル化」(ルネサスエレクトロ二クス)が最優秀ポスタ―賞(Best Poster Award)を受賞した。すでに商品化されているエッジAIを活用して、半導体製造ラインでプラズマエッチングの異常放電、液体流量や真空装置のリークなどの異常検知を試みたものだという。

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    ポスター会場の様子。発表者と参加者が熱心に議論を交わしていた

AI/機械学習を使った発表が増加

同シンポジウムの柿沼プログラム委員長は、「以前からものづくりの現場でデータに基づいて判断・アクションするデータドリブンな報告が多かった。その中で、ここ最近の傾向として、現場で収集されているビッグデータにAIや機械学習を使った報告が増えている。ただ単にAI機械学習をブラックボックスとしてではなく、制御理論や物理化学に裏打ちされた考察を取り入れているが、実際に現場で実用化する上で必要な事であろう。今後もこの傾向は続くと思われる。この様なAI機械学習を使った活動が半導体製造で活発に活用される1つの理由に、国際的な標準化、エコシステムとしてのSEMIスタンダードによるところが大きい。工場全体がオンライン化されそこから発生するデータが、ビッグデータとして蓄積されているからである」と述べたほか、「最優秀論文賞は、2回連続で女性のエンジニアが受賞した。この分野での女性が活躍している証拠で、喜ばしい」と付け加えた。

また、同シンポジウムの西村運営委員長(ルネサス)は今回を振り返って以下のように述べている。「この2年で世の中の環境が大きく進歩し、ディープラーニングもAIも外部(半導体産業以外)に豊富な事例が存在するようになった。それらを参考にして、画像データを使って製造改善する事例も出てきた。プロセス技術以外の発表が増えたのもAPC/AECをベースにした技術の適用範囲の広さを示しており、今回の特徴と言える。また、データの意味づけの価値や改善効果を環境指標で考えるといった、参加者の方には新たな気付きを得ていただけたと思う。今回のテーマは『デジタルツインで価値を高めよう』だが、今回の優秀論文は単なるシミュレーションではなく半導体製造現場での検証も十分されており、両方が備わっていた。毎回のことだが、オーサーズインタビューとポスターセッションでは活発な議論が展開され、参加者の方々には有意義だったと思う。これらの気づきが、次回の論文に生かされてくることを期待している」。

(次回に続く)