AI/IoTを活用して先進的半導体製造装置制御・プロセス制御(Advanced Equipment Control/Advanced Process Control:AEC/APC)をさらに高度化して、科学に根差した効率的な半導体生産めざす国際シンポジウム「AEC/APC Symposium Asia 2019」が、11月中旬に東京都内で開催された。

前回開催の2年前のテーマは、「IoTとAIの融合による次世代AEC/APCに向けて」だったが、今回のテーマは一歩進んで「データサイエンスに基づくデジタルツインで新たな価値を創造しよう」というものとなった。今回のシンポジウムの主催は、International Symposium on Semiconductor Manufacturing(ISSMI:半導体製造国際会議)実行組織で、AEC/APC Symposium Asiaはその姉妹会議に位置付けられている。

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    図1 AEC/APC Symposium Asia 2019の会場風景 (著者撮影)

デジタルツインにより新たな価値を創出

半導体の製造装置ではIoTを活用することで多角的なプロセスの状態をセンシングする技術が進化している一方、そのようにして収集された大量のデータ(ビッグデータ)を扱えるAI技術の登場で、AEC/APCは急速に進化してきている。半導体製造現場という物理空間にある現実の製造機器や設備の稼働状況、環境情報などをリアルタイムで収集するとともに、データサイエンスに基づいて構築したデジタル空間のモデルを双子(デジタルツイン)として、生産の最適化・効率化によって新たな価値を生み出そうという取り組みが活発化している。

今回のシンポジウムは、半導体製造チュートリアル(講義)2件、基調講演1件、口述発表12件、ポスター発表3件の合計15件の一般発表が行われた。

一般発表15件の発表機関別内訳は、筑波大学、東京エレクトロン、アズビル、米BisTelがそれぞれ2件、GlobalFoundries、ルネサス エレクトロニクス、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング、日立製作所、東芝、キオクシア、パナソニックが各1件となっている。

最優秀論文はキオクシアの機械学習活用

最優秀論文賞(Best Paper Award)には、キオクシア(旧東芝メモリ)四日市工場の田中祐加子氏らによる「機械学習(非負値行列因子分解)を活用した異種ウェハマップ間の類似性分析手法」が選ばれた。

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    図2 最優秀論文賞を受賞した田中祐加子氏(右)と柿沼プログラム委員長 (著者撮影)

半導体デバイス製造では、品質管理のために様々な検査が実施されており、ウェハ面内における物理特性、欠陥、不良などの傾向を示す検査結果が様々な種類のウェハマップとして出力されている。

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    図3 各製造プロセスおよび最終検査で出力されたウェハマップ例模式(模式図) (出所:キオクシア田中祐加子氏の発表資料)

複数の検査を横断してウェハマップを比較することで、不良と原因との因果関係を解明し、歩留改善につなげることができるが、解像度や検査感度の異なる異種ウェハマップの比較は熟練した技術者には容易であっても人手によらぬ自動化は困難であり、膨大な時間がかかる問題を抱えていた。

そこで、キオクシア四日市工場では非負値行列因子分解((Non-negative Matrix Factorization:NMF)という機械学習を適用して、異種マップ間の類似性を高速で分析する手法を開発した。NMFは、各検査のウェハマップから特徴的なウェハ面内傾向とその発生度分布を自動で学習することができる。同社は本手法では新たに発生度分布の類似性に注目することで、異種マップ間の類似度を自動的に算出することに成功した。その結果、異種マップの分析作業時間を99%削減することに成功したという。

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    図4 ある工程から得られた多数のウェハマップと最終製品検査のウェハマップの類似性分析(概念図)) (出所:キオクシア田中祐加子氏の発表資料)

同シンポジウムの柿沼プログラム委員長(キオクシア)は、同論文について「不良はクリーンルーム内のどこかの製造過程で作り込まれたもので、指紋の様な痕跡を不良マップは表現している。複数の検査を横断してウェハマップを比較するのは人間の目では比較的容易であるが、機械に行わせるのは難しい。工場の半導体技術者がAI論文を読み解き、半導体製造現場で実現してしまう所に、今後のエンジニアの理想的な姿が見える」と講評している。

一方、受賞した田中氏は「キオクシアでは、若い技術者たちが熱意をもってAIや機械学習を使った業務効率化に取り組んでいる。今回の受賞はその成果であり、大変嬉しく光栄に思う。半導体業界はデータが豊富でAIや機械学習とは比較的相性が良いと言われているが、優れた技術者の行動を教師としてそれをデータ化する点が難しいと感じている。今後は、行動を教師データとして蓄積する仕組みについても積極的に考えていきたい。まだまだ課題は山積みだが、新しい技術との出会いを楽しみながら解決に向けて頑張りたい」と今後の抱負を述べている。

同論文は、今回のシンポジウムのテーマである「データサイエンスに基づくデジタルツインで新たな価値を創造しよう」の趣旨に合致した模範論文ということが言えそうだ。

(次回に続く)