具体的には、無磁場でCDWからの回折プロファイルが取得され、その温度依存性から試料内に長距離秩序と短距離秩序の両CDWが存在することが確認された。短距離秩序CDWは、超伝導状態で散乱強度が減少することから、超伝導と相関を持った状態であることが示唆されると研究チームでは説明しているほか、散乱強度の比較からCDWの成分の半分以上が短距離秩序CDWであることも確認されたとする。

  • X線回折実験により逆格子空間で観測された、電荷密度波に由来する信号強度

    X線回折実験により逆格子空間で観測された、電荷密度波に由来する信号強度。(左)無磁場。(中)24Tでの磁場中の測定結果。(右)破線内でL方向に積分したスペクトルの強度磁場依存性 (出所:東北大プレスリリースPDF)

また、今回の実験における最も注目すべき発見として研究チームでは、磁場を印可すると、ある磁場(Hm)を境にCDWからの散乱強度が急激に増加することを挙げている。このHmは超伝導体に侵入した磁束線が融解する磁場であることから、強磁場で誘起される渦糸液体状態とCDWの間に強い結合があることがわかるとのことで、超伝導との関係性から、この変化は短距離秩序CDWが担っていることが考えられるとしている。

一方、Hm以下の強度変化は、SDWの磁気散乱強度の磁場変化と整合することから、渦糸の動きが止まった「渦糸固体状態」での磁場変化は長距離秩序CDWの応答であると理解できるともしており、これらの結果について研究チームでは、超伝導と競合する性質を持つ長距離秩序CDWとは対象的に、短距離秩序CDWは局所的な超伝導対と共存し、渦糸の形成にも関与する可能性が示されているとしている。

  • 超伝導、CDW、SDWの概略図

    (左)超伝導、CDW、SDWの概略図。CDWには、超伝導とSDWを伴わず超伝導と共存する短距離CDW(CDWSRO)と、SDWと共存するが超伝導とは競合する長距離CDW(CDWstripe)の2種類がある。(右)CDW(黒丸)とSDW(赤丸)によるX線散乱強度の磁場依存性が示されている (出所:東北大プレスリリースPDF)

なお、CDWの素性については、まだ不明な点が多く残されており、銅酸化物高温超伝導に普遍的な性質と物質に固有な性質の見極めが重要だという。今回の実験で、シングルショットプローブである高輝度レーザーとパルス超強磁場の組み合わせが、高温超伝導体の電子不均一性の解明に有効であることが示されたことから、研究チームでは今後、超伝導転移温度の高い銅酸化物に対して同手法でCDWの素性を調べることで、超伝導転移機構におけるCDWの普遍的役割が解明されることが期待されるとしている。