映画の創造性はテクノロジーと共に進化する

――SSFF & ASIAではこれまでも新たな試みを積極的に取り入れてきましたが、スマートフォン映画も非常に盛り上がりそうですね。どのような経緯で新設を決めたのでしょうか?

別所:ショートフィルムは“スナックサイズムービー”と言われるような小さなものであり、しかし映画としては大きな宇宙を持っています。そんな中、ツールとしてスマートフォンを用い、その特性を活かした作品が少しずつ生まれ始めていました。これはひとつのカテゴリとしても、あるいは映像の未来地図を見るうえでも、非常に大切なことではないかと思ったのです。

エジソンやリュミエール兄弟の時代から、映画はテクノロジーと共に進化し、それがクリエイティビティにも影響してきました。だから、スマートフォンを使うことで新しいクリエイティブが生まれてくるのではないかと期待しています。

例えば、カメラがこれまで入っていけなかった小さい場所や狭い場所、あるいはスマートフォンの視点を通して映る世界観、生活の中にある景色がどう物語として切り取られるか、とても楽しみですね。

反響も非常に大きく、8月1日から募集を開始したのですが、すでに数百もの作品が応募されているんです。

――もうそんなに! クリエイターの側からも求められていたカテゴリだったのですね。

別所:そうですね。世界中でみんなが見ている方向だったと思いますし、その中でも異なる表現を磨いていこうとしているのだと思います。スマホ画面の中のダイナミズムを追求すると、撮りかたやカット割りが変わってくるでしょうね。

  • 別所哲也

――先ほどのお話のように、新しい才能を発見し、育てていく意味では、ツールとしてスマートフォンが媒介してくれる部分はとても大きそうですね。

冨田:そう思います。今のスマートフォンは、少し前のPCよりもずっと処理能力が高く、カメラもついていて、そのまま編集してネットワークに上げるところまで完結できます。物心ついたころからスマートフォンのある世代の使いこなしかたはすごいですよね。今の中学生くらいの人たちが、4〜5年して映画祭にどんどん作品を応募してくるようになれば、そのクオリティがどれほどのレベルになるのか、今から楽しみです。

別所:本当にそうですね。僕はそこからさらに、ゲームの中にある創造性やエンターテインメント性が融合してくるような、シームレスなつながりが出てくることも楽しみにしています。

――それもまた、スマートフォンで撮ることの可能性になるわけですね。

別所:そうですね。ただ、やはり真ん中にあるのは物語だと思っています。

冨田:(スマートフォンは)ツールであり、手段ということですね。

別所:はい、そこにどんな物語を生み出すのか。日常にある「わかる!」なのか、「その世界知らない!」なのか……。もうスマートフォンなしでは生きていけないほど、ライフスタイルの一部になっているものだと思うので、そこから見えるプライベートが、どんな飛躍を見せてくれるのか。まず来年へ向けて、縦で撮ってくるのか、横で撮ってくるのか、そこから注目ですね。今までずっと映画は横長の世界で見てきましたけど、縦長になったときに何が見えるのか、すごく楽しみです。

冨田:縦位置の作品も多そうですよね。

  • 別所哲也

――数々の映像作品に出演されてきた別所さんだったら、スマートフォンでどんな作品を撮りたいですか?

別所:難しいですね……。個人的には犬が大好きなので、ペット動画になりがちなんですけど(笑)。映画としては、そこで起きた物事がどう人の感情や人間関係に影響を与えていくか、という部分を見るのが好きなんです。人間が誰でも持っている微妙なフェティシズムのようなものとか。良いも悪いも全部含めて、そういう部分に光を当てられたらいいですね。

――最後に、SSFF & ASIA開催に向けて映画ファンへのメッセージをお願いします。

別所:世界中のつながりあるクリエイターやアカデミー協会と協議しながら、ようやくこの9月に4会場+オンラインという形で映画祭を開催できました。リアルな会場では大きな画面で世界中のショートフィルムを堪能できる時間を楽しんでいただきたいですし、オンラインではこれまで出会えなかったショートフィルムの世界にプライベートな空間でどっぷり浸かっていただきたいですね。ぜひ、多彩なショートフィルムで世界中を旅する「シネマトラベル」をお楽しみください。

――ありがとうございました。