前編では、紙と判子が必須となる業務がテレワークを妨げている現状とそれを解決する電子契約および電子署名ソリューションについて解説しました。後編では、契約・合意のプロセスに沿った電子化のメリットについて説明します。

現代の契約・合意形成プロセスにおける課題と解決策

契約・合意形成のプロセスは、準備、署名・捺印、実行、管理の4つのライフサイクルで成り立っており、ライフサイクルごとに課題が存在します。電子契約・電子署名ソリューションによる解決策と合わせて、それぞれにおける課題を挙げていきます。

1. 準備

合意する契約内容の交渉を含む契約書の準備にあたるプロセスです。現行の人手に頼った契約書の準備作業においては、次のような課題があります。

  • 契約書ドラフトが最新のテンプレートを利用して作成されているかどうか
  • 契約書記載条文・条項の修正が適切に実施されているかどうか

最新テンプレートが利用されない場合、法的要件を満たさない契約書が作成されるリスクがあります。また、契約の交渉の多くにおいて利用される文書編集ソフトでは、修正途中のバージョン管理や、相手方修正内容の精査(承認・拒否・代替え案等)が煩雑になり、最終版に適切な条文・条項が反映されないリスクもあります。

これらのリスクを軽減し、円滑かつ安全な契約書準備を可能とする解決策は以下となります。

(1)最新の契約書テンプレートや条項・条文ライブラリを利用した契約書の自動生成

(2)契約先との契約交渉の過程や改訂バージョンの一元的管理

(3)円滑な社内回付を実現する、自由度の高いワークフロー

2. 署名・捺印

合意済み内容を反映した契約書の回付、承認、署名・捺印を実施するプロセスです。紙ベース契約書の署名・捺印においては、以下の課題があります。

  • 最終合意に至った契約内容の社内回付、レビュー、承認処理の煩雑さ
  • 契約にあたり契約書類への署名・捺印が必要

合意済み契約書の社内回付を人手で行う場合、契約最終版で回付されているか、書類紛失による回付の遅延、承認者不在による承認遅れなどのリスクがあります。また、契約締結においては紙の契約書への署名・捺印に加え、相手先への契約書送付・相手先の処理が追加で発生し、ビジネスの遅延につながってしまいます。

署名・捺印の遅延をなくし、迅速かつ安全な契約締結を可能とする解決策は以下です。

(1)円滑な社内回付を実現する、自由度の高いワークフロー

(2)契約書並びに署名・捺印を電子化する電子契約、電子署名ソリューション

3. 実行

契約後発生する、他の専用システムを介した支払い、請求、商品発送などの処理を実行するプロセスです。契約後の作業においては、以下のような課題があります。

  • 人手を介した契約書のスキャンと他部門への展開
  • 締結済契約書の内容に基づく、システムへの契約内容(購入商品情報)などの入力

契約締結後、契約内容に沿って複数部門での処理が必要なケースがあります。複数部門に契約内容を共有するため、契約書のスキャンまたはコピーを電子メールや回覧で展開することが一般的ですが、担当者多忙による処理遅延や共有先への配信誤りなどにより、必要作業が期日までに完了しないリスクがあります。また、人手を介したシステム入力処理は契約内容を確認しながら行うため、入力間違いが発生しやすく、再入力処理が多くなり、さらなる遅延を引き起こす可能性があります。

このようなリスクを軽減し、より迅速かつ安全な契約締結を可能とする解決策は以下です。

(1)条件別に、契約データを適切な形で処理する高度なワークフロー

(2)契約締結をトリガに、支払いなどの処理を自動的に実行するシステム間連携

4. 管理

すべての処理が完了した契約書を保管・検索・報告するプロセスです。契約管理においては、以下のような課題があります。

  • 締結済み契約の有効期限確認
  • 法改正などに伴い発生する、締結済み契約内容の適正性確認の煩雑さ

契約に関わる処理がすべて完了した後、契約書は保管され、必要に応じて検索されます。契約の期間について自動延長する記載がない場合には、契約を維持するために更新が必要となります。この契約更新が期間内に完了しないケースにおいては、契約が一時的に無効となり、ビジネスを継続できないといったリスクが発生します。また、契約書が電子化されていたとしても、現在の法や規制に照らし合わせ、適切な条文や条項で構成されているかどうかを判別することは難しく、契約内容の適法性を速やかに把握できないリスクがあります。

このような管理におけるリスクを軽減し、迅速かつ安全な契約を可能とする解決策は以下です。

(1)契約内容の重要事項(有効期限等)を、属性情報として検索可能な契約管理

(2)条文・条項を検索可能な全文検索機能、不適切な条文・条項の自動検出を可能とする人口知能(AI)技術

ここまで挙げた課題の多くはテレワークを阻害する要素となっており、それらに対応する解決策を電子契約および電子署名ソリューションで実現することで、テレワークが可能な契約・合意形成プロセスを構築することができます。

電子契約・電子署名ソリューションに必要な要素

契約・合意形成プロセスのライフサイクル(準備、署名・捺印、実行、管理)における解決策の一部を実現する電子契約・電子署名ソリューションは多数存在していますが、全工程を一気通貫に電子化できるソリューションを選択するのが望ましいです。

各ライフサイクルを電子化するソリューションを組み合わせた場合と、ライフサイクル全工程を一元的に電子化した場合の違いは何でしょうか。

各ソリューションの組み合わせた場合、ライフサイクル毎に別々のソリューションで構成され、契約書類、契約内容、契約者情報等、重要な情報が複数のシステムを跨いで蓄積されることになります。クラウドサービスを利用した場合には、重要情報の管理が煩雑になり、安全性に問題が生じる可能性があります。

また、各ソリューションが密に連携されていないため、各データを有効に活用できないかもしれません。例えば、過去の契約時に修正・追加した条文・条項を契約交渉時に活用できない、契約締結後必要な複数の業務プロセス処理を速やかに実行できないといったことが考えられます。

一方で、契約プロセス全工程を一元的に電子化できるソリューションの場合には、上記のような問題は発生せず、シームレスに契約プロセス全体をつなぐことができます。管理工程で蓄積した契約データをライブラリ化し、新規契約書作成時、交渉時に利用することが可能となり、契約書類ならびに処理中に発生した各データをデータレポジトリ(データ保管場所)で一元化して管理することで、重要情報の管理がシンプルとなります。

データレポジトリの一元化に伴い、逆にデータの安全性に対して懸念を抱かれるかもしれませんが、ソリューションによっては第三者機関の認定取得や定期的な外部セキュリティーテストを実施することで、高度な安全性を維持し続けているものもあります。

ここまで、いろいろな側面からテレワークと電子契約・電子署名ソリューションについて考察してきました。昨今の外出自粛の流れの中、ビジネスを継続していくため、さらに踏み込んだBCP対策が必要となっているのではないでしょうか。

ビジネスを遂行する上で必須の契約・合意形成プロセスを電子化することで、バックオフィス業務のリモート対応を可能とし、いかなる状況下においてもビジネスを継続可能な、強固な企業体質を築くことができます。

【著者紹介】
ドキュサイン・ジャパン ソリューション・エンジニアリング・ディレクター 佐野龍也
米国に本社を持つドキュサインは、合意・契約の準備から署名捺印、実行、管理までの一連のフローを自動化する製品群「DocuSign Agreement Cloud」を提供しています。同製品群の電子署名ソリューション「DocuSign eSignature」は世界で56万社以上が導入(無料版除く)し、数億人が署名する世界で一番利用されている電子署名です。