ロケットの技術については、エンジンにばかり目が行きがちであるが、"頭脳"はどうなっているのだろうか。10月3日、横浜で開催された「Design Solution Forum 2019」にインターステラテクノロジズ(IST)の森岡澄夫氏が登壇、「民間小型宇宙ロケットを実現する身近な組み込み技術」と題した講演を行い、同社の取り組みについて紹介した。

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    インターステラテクノロジズ(IST)の森岡澄夫氏。個人活動では「超電磁P」という名前でも知られるエンジニアだ

ミッションの成功より重要なのは安全・安心

同社は現在、観測ロケット「MOMO」と、超小型衛星用ロケット「ZERO」を開発中だ。MOMOは5月4日、3回目の挑戦でついに高度100kmを突破。日本の民間開発のロケットとしては、初の宇宙到達となった。

このあたりのことについては、過去記事に詳しくまとめてあるので、そちらの方を参照して欲しい。

参考:「MOMO3号機現地取材」

今回、森岡氏が講演で説明したのは、MOMOのアビオニクス(ロケットや飛行機に搭載される電子機器)についてだ。宇宙というと、何か特殊な技術が使われていると思いそうだが、実際は「身近な組み込み系の技術の塊が飛んでいる」と森岡氏。実際、バスにはCANが使われており、アーキテクチャは車載とほぼ同じだという。

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    ロケット内の動作環境。温度、振動、加速度などはそれほど厳しくない (C)IST

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    MOMOのアビオニクスの構成。車載のようにCANバスに各機器が繋がっている (C)IST

ただ、自動車と大きく異なるのは、それが音速を超えるような速さで飛んでいく、ということだろう。もし制御を失ったロケットが人間の近くに落ちるようなことがあれば非常に危険。それを避けるのがアビオニクスの大きな役目で、森岡氏は「ロケットの打ち上げで、成功/失敗より重要なのは、絶対に街中に落とさないこと」だと述べる。

ミッションの成功よりも、最優先でまず確保すべきは「安全」であること。打ち上げ時には、機体が落下する可能性がある区域を設定しており、確実にその範囲内に落とす。そして事業の継続のためには、安全のための様々な対策をしっかり施して、周囲に「安心」してもらうことも欠かせない。

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    判断の優先度。ミッションの成功よりも、安全、安心を優先させる (C)IST

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    そのために欠かせないのが、ロケットを制御するアビオニクスだ (C)IST

この姿勢が表れたのがMOMO4号機の打ち上げだ。機体側のエンジンや姿勢制御に問題はなく、飛行を続けていれば宇宙に到達できた可能性はあったが、地上からのコマンドが届かない状態になったため、エンジンが自動停止、ミッションは失敗した。だが、機体は常に地上からのコントロール下に置く必要があり、判断としては正しいと言える。

参考:MOMO4号機はエンジンを自動停止、打ち上げの64秒後に何が起きた?

もし重大な事故が起きれば、問題はISTのみに留まらないだろう。森岡氏は「会社が持続できないだけでなく、日本の民間ロケット産業が途絶えてしまう。我々は営利企業ではあるが、パイオニアとしてのポジションにあることを常に認識して、産業が育つように行動しないといけない。それが我々の使命」との認識を示した。