まもなく発売となる、Beats by Dr. Dre初の完全ワイヤレスイヤホン「Powerbeats Pro」。Appleが3月末に発売した新しい「AirPods」と同じく「Apple H1ヘッドフォンチップ」を搭載している。

  • Beats by Dr. Dre初の完全ワイヤレスイヤホン「Powerbeats Pro」

マイナビニュースでは、Beatsのプレジデント・Luke Wood(ルーク・ウッド)からPowerbeats Proの特徴について話を伺えた。Lukeの発言とともに製品の魅力をお伝えしよう。

  • Beatsのプレジデント・Luke Wood(ルーク・ウッド)

2018年のグローバルマーケットにおいては、完全ワイヤレスイヤホンが前年比でおよそ4倍、さらにその中でスポーツ向けモデルの需要がおよそ5倍近くまで伸びているという数字が出ているらしい。だが、Beatsとしては、高まる需要の中で、ユーザーのニーズを全て満たすヒット商品がまだ世に出てきていないと感じていた、というところからこのインタビューは始まった。

Beatsの製品開発については、一にも二にも音質が優先である。これは創業以来、一貫したスタンスである。Powerbeats Proにおいてはアコースティック性能から筐体全てにおいてゼロから見直せる機会として、開発に取り組んだそうだ。Powerbeats3 Wirelessイヤフォンと比較するとおよそ17%の重量減と、筐体自体、およそ23%のサイズダウンになっているという。

  • Powerbeats3と比較するとおよそ17%の重量減と、およそ23%のサイズダウン

アコースティック面での大きい特長として、新しいドライバーが採用されている。これまでのBeats製品では「ティンパニックドライバー」と呼ばれる、ポリマーで単一成形された振動版が搭載されていたが、これを「ピストニックドライバー」という異素材を混合させた振動版を採用する運びとなった。ちなみにこれまでの主流はやはりティンパニックドライバーのほうで、他社もこちらの方を採用しているケースが多い。

ここでLukeは、ドラムに例えて振動板の性質を説明してくれた。この辺りは流石に現役のミュージシャンらしいと言うべきか。

Luke Wood ドラムのヘッドは、叩いた時に均一に振動するのではなく、打面の中央から外側に向かって振れ幅が変わっていって、外側に近づくにつれて、ロスだったり、共振だったりといった現象が生じるのですが、一般的なティンパニックドライバーでも同じようなことが起こるのです。その不均一な振動がノイズを発生させたり、音質が損なわれたりといった状態を招いていました。一方ピストニックドライバーは、振動版の中央にアルミ素材を採用し、上下のピストン・モーションを行うことで空気を振動させ伝える仕組みになっています。これによって、長時間再生、および長期間の繰り返しの再生において振幅の劣化を非常に小さいものにできるようになりました。これで、常に均一な音質を確保できるようになったのです。

エアフローの最適化を図るべく、空気孔も設けられている。本体上側の穴がバックチェンバーの空気孔、逆にノズル側についている小さいレーザーで加工してあるのがフロントチェンバーの空気孔だ。これらにより歪みが低減され、鳴っている音域に合わせた音質のバランス調整が可能になっている。

そして、音質の次に大事なファクターであるという「フィット感」についても再検討された。

Luke Wood 音質面と同じくらいフィット感は重要です。音響以外で不快感を排除するのにいろいろと研究を重ねました。過去のモデルにおいては、イヤホン自体のノズルが耳の穴に直角に入ったりとか、耳の外側のパーツに不必要な圧力がかかったりとか長時間の着用やリスニング難点があったのですが、そういった問題を解決したと自負してます。イヤーチップの形状や素材も見直しました。フィット感は、実は音質とも直結しているのです。イヤーチップを変えるだけでも、音の聞こえ方は大きく変わってくるのですね。イヤーフックを採用したのもスポーツ向けということだけではなく、やはり音質の確保というところに関わってきているのです。イヤーフックで装着することで、常に同じ角度で、耳穴に向かって音を出力できるんですよ。さらにイヤーチップ自体が耳穴の中で動き回るという事態を減らすのにも一役買ってます。他社製品では、どうしてもイヤーチップが動いてしまうことで、特に低音域のズレだったりとか聞こえ方が変わってくるという傾向を回避できていないという印象がありました。イヤーフックの形状と角度を最適化することによって常に同じ音質を均一化できているメリットとしてあります。

実際に着用してみると、確かにフィット感は非常に良い。イヤーチップのフィット感や大きさは、音質に影響を及ぼすとのことで、ユーザーの耳の大きさにあったイヤーチップを使用してもらうのがとても重要なのだと力説する。

例えば、NBAの有名プレイヤー、レブロン・ジェームズは身長2mを越える体躯ではあるが、彼の場合、ミドルサイズのイヤーチップが一番フィット感が良かったりするそうだ。逆に背の小柄な人でも一番大きいイヤーチップがピッタリだというケースもあり、人によって耳の大きさや穴の形は異なるため、フィット感や遮蔽性が変わってしまうと音質に及ぼす影響は大きくなるので、自身に合ったイヤーチップのサイズを必ず確かめてほしいとアドバイスしてくれた。

  • 同梱されるイヤーチップは4種類

筆者は初代AirPodsのレビューで「耳にフィットしなくて低音が聞こえない」というようなことを書いた。Lukeの提言は実に的確なのはもちろん、Powerbeats Proについては「音質的にダメな状態で聴きようがない」ところまで追い込んだ仕様になっていると太鼓判を押せる。

フィット感の向上はもう一つ、完全ワイヤレスイヤホンで懸念される「脱落による紛失の不安」から解放してくれる。イヤーフックの装備で、使用時に外れるという事態はほぼ追放されたと言って良い。

このフィット感の向上に関しては、Appleブランドの一部としての在ることが大きいとLukeは続ける。

Luke Wood 人間工学に基づいたナレッジベースはもちろん、製品開発に取り組む上で、テストをする際に当然、実際の人間の耳というのが必要になりますよね。社員数が非常に多いというのと、Appleの文化として、秘密保持というのが強力に守られているのも相俟って、多様な耳の大きさ・形で、テストを行って開発できたというメリットがあります。

冒頭で触れたApple H1ヘッドフォンチップ(以下、H1チップ)についてはこう説明する。

Luke Wood H1チップの大きな特徴としては、やはりiOSデバイスとの近接ペアリングが挙げられます。iOSデバイスに近づけただけで初回ペアリングが簡単に済ませられるのと、初回のペアリング以降はiCloudデバイス間でシームレスな切り替えが可能となります。もう一つ大きな特徴として、パワーマネジメントが挙げられます。Powerbeats Proでは、本体それぞれにセンサーが付いてまして、ケースから取り出した時点で電源はスタンバイになるのですけれども、実際の接続は、耳に装着することによってそのセンサーが反応して初めて確立されます。逆に耳から外すとそれで電源がバッテリーセーブの状態になる仕組みになっているので、より長い時間の使用が可能となっているのです。

  • H1チップのお陰でiOSデバイスとのペアリングは非常に簡単

これはどうやらiOSデバイス以外、例えばAndroidとの組み合わせで使用した場合でも有効のようだ。ちなみに、イヤホン単体での連続再生がおよそ9時間、ケースと組み合わせることで連続でおよそ24時間の再生が行える。また、「Fast Fuel」という急速充電機能も搭載されており、5分間の充電で、およそ1.5時間の再生が可能となる。

Luke Wood 私は、普段から良くランニングをしているのですが、これから走りに行くという時にバッテリーが切れていると、非常にモチベーションが下がりますよね(笑)。でも、5分だけでも充電していただければ1時間半もつので、ランニングするのには十分カバーできるのではないかと思います。あわせて15分、さらにもう10分長く充電していただければ、およそ4時間半再生可能になります。スポーツだけでなく、ちょっと出かける際に、ある程度、長時間、音楽を聴くっていうのにも楽しんで頂けるバッテリー性能に仕上げてます。また、イヤホン部が充電ゼロでケースのバッテリー残量が40%以下になると、ケースに搭載されたLEDが赤色に点灯します、それによって、電池残量が少なくなっていることを知らせてくれるのです。バッテリー残量が低くなった際に、イヤホンをケースに戻せばLEDの色で教えてくれるので、いちいちiOSの中で電池残量を確認せずとも見た目で、「あ、もう残量が少ないから、今チャージしよう」という判断ができるのですね。ケースとイヤホンを含めたフルシステムの充電はおよそ2時間半で完了します。ケースにイヤホンの充電ができるバッテリー残量があれば、イヤホン単体がゼロの状態からおよそ90分でフル充電できるようなスピード感になっています。

  • バッテリー残量のチェックもすぐにできる

4時間半再生可能なら、マラソンランナーにも歓迎されるのではないだろうか。通話においても十二分なバッテリー性能を誇り、連続通話は片耳最大6時間。例えば、右耳で6時間ぶっ通しで話ししてまだそれでも話が終わらない場合、右耳を充電ケースに戻して左耳に切り替えて……という繰り返しを想定した場合で、最大36時間通話ができる。

  • 左右どちらの本体マイクを使うかiOSデバイスから設定が可能

こうした使い方ができるのも、完全ワイヤレスならではだ。一般的な完全ワイヤレスでも、親機と子機が存在するケースが殆どだが、Powerbeats Proでは完全に独立してデバイスと接続するので、ユーザーのニーズにあわせた使用法が可能というわけである。

通話機能に話を戻すと、Powerbeats Proは左右それぞれにビームフォーミングマイクを本体上部と下部に搭載していて、ユーザーの口元から発声される際の角度だったりとか位置がどこだろうと際限なく拾ってくれる。同時にマイクのノイズをカットしてクリアにユーザーの音を拾って処理してくれる構造になっている。さらに音声加速度センサーと組み合わさることによって、ユーザーの音声なのかそれ以外なのかも判断してくれるのだ。

  • 本体上部と下部にビームフォーミングマイクを内蔵

最後にAirPodsのような交換プログラムは用意されるのかどうか聞いてみた。前述の通り、イヤーフックの搭載で紛失の可能性は劇的に低減されるだろうが、充電を繰り返すことでのバッテリーの劣化は避けられず、いつか充電自体ができなくなる。

Luke Wood 現状、AppleCareの範囲内での対応になるかと思います。ご指摘の通り、充電を繰り返すことでバッテリーは劣化していきますので、交換プログラムに関しては今度、検討します。紛失に関しては基本的にAppleCare通じて代わりのものをご提供という形になります。

拙稿で指摘したよう、完全ワイヤレスイヤホンは「使い捨て」になってしまう可能性がある。他のBeats製品はバッテリーの充電ができなくなってもワイヤードで利用しようと思えばできるのに、Powerbeats Proではそれができないからだ。少なくともAppleの保証規定に則った形での交換には応じてくれるようなので安心したが、二代目AirPods同様、「使い捨て」にならないような形での提供をお願いしたいところではある。

当初、5月発売が予定されていた本製品だが、やや遅れて7月の発売となった模様だ。カラーはアイボリー、モス、ネイビー、ブラックの4色展開で、ブラックのみが7月に発売される。他の3カラーについては今夏発売予定だ。Apple直営店(Web含む)での価格は24,800円(税別)。完全ワイヤレスイヤホンの大本命の登場まで、しばしお待ち願いたい。