ソニーは1月15日、クラウドファンディング・ECサイト「First Flight」における新規事業の加速支援サービスを提供すると発表した。

First Flightは2015年7月にスタートしたクラウドファンディングとECサイトの機能をあわせもったWebサイト。これまで、同社の新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」で立ち上げた事業の製品を取り扱ってきた。

1月9日の記事「クラウドファンディングをソニーが始めた意味」でも触れているが、First Flightでは単なるクラウドファンディングではなく、テストマーケティングとしての場、ECサイト機能やコミュニティ機能といった継続的なユーザーとの接点を求めて作られた。

サイト立ち上げ前には、試験的に外部のクラウドファンディング「Makuake」で製品を公開。電子ペーパーの時計「FES Watch」は目標金額に対して達成率138%の299万6888円、スマートロックのQrioでは達成率の1696%の2748万9780円を記録するなど、ソニーとしての実力を見せつけている。

一方でFirst Flightでも独創的な製品開発と、サイトの求心力の高さを見せており、FeliCaチップを内蔵した「wena wrist」ではソニー調べで国内初となる資金調達1億円を達成、その他製品を含めても平均約4000万円(4製品)の調達額を達成しているという。

【特集】
ソニー変革の一丁目一番地、SAPのいま

2018年3月期の通期決算予想で、過去最高益となる6300億円が見込まれるソニー。イメージセンサーやテレビなど、既存製品の収益力向上、シェア増がモメンタムを作り出している。一方で、かつてのソニーファンが口を揃えて話す「ソニーらしさ」とは、ウォークマンやプレイステーションを生み出したソニーの社訓「自由闊達にして愉快なる理想工場」の賜物だ。世界中の大企業が新機軸のイノベーションを生み出す苦しみに陥るなか、ソニーは「SAP」でそれを乗り越えようとしている。スタートから4年目に突入するSAPの今を見た。

新規事業支援サービスの強みとは?

これまではSAP内で立ち上げた自社製品にとどまっていたFirst Flightだが、これをスタートアップなどの新規事業を立ち上げる企業に対して提供するのが新たな取り組み「新規事業支援サービス」だ。同社が強調するFirst Flightのメリットは以下の通り。

  1. 集客力
  2. 支援者とのダイレクトコミュニケーションによる商品改善
  3. ソニーSAPの「加速支援チーム」による量産化、事業化のサポート
  4. ECサイトとして販売をサポート

他のプラットフォームでも似たような特徴を訴えることは多い。ただ、筆者が特に注目したいのが「3.ソニーSAPの「加速支援チーム」による量産化、事業化のサポート」だ。

  • ソニーWebサイトより

加速支援チームは、主に事業開発支援と、技術、設計、量産支援、オペレーション体制構築の支援を行う予定。つまり、審査を経て事業価値のある製品・サービスであることが認められれば、ある一定の技術力・知識などは必要だろうが、ソニーがこれまでSAPで培ってきたノウハウをフルに活かすことが出来るわけだ。

例えば筆者が「僕が考えた最強のスマートウォッチ」というアイデアを持っているとしよう。

その理念は良いけれども、筆者だけでは1年後、3年後、5年後のスケール目標が明確には決められない。あるいは、手作りの製品ではコストが5万円かかるとして、それを量産化した時にターゲットが3万円なのか、1万円まで抑えられるのか、あるいは消費者が望むボリュームゾーンがどこにあるのかさえわからない。

もちろん、ここまで市場を理解していないアイデアに対してソニーがGoサインを出すことはないだろう。ただ、少なくともソニーは製品戦略と事業計画の作成手法、あるいは量産化から商流、物流、カスタマーサポートの手法まで、大部分の作り方やインフラを持っている。こうした"モノづくり"に特化したサポート体制を持っているプラットフォームは他になく、かなり魅力的なスキームと言えよう。

プラットフォームビジネスにソニーの強みを練り込んだ

ソニー 新規事業部門 副部門長 兼 新規事業創出部 統括部長 小田島 伸至氏

現場でSAPを統括するソニー 新規事業部門 副部門長 兼 新規事業創出部 統括部長の小田島 伸至氏は、1月11日の記事「ソニーだから回せるSAP、コア事業にも影響し始めたSAP」でこう答えていた。

「組織が大きくなると、それだけ収益化が難しくなる。また、モノを安く作るために大量生産すれば、今度はそれらをたくさん売るのが課題になる。すると、今度はマーケティング力やPRの力が必要となってくる。つまり、モノをたくさん作って売ろうと思えば、それらを支えるオペレーション部分が重要になる。多くの会社は資金調達して人材を増やしてしまい、それでなかなか黒字化できなくなりがちだ。その点、ソニーは長年の知見からオペレーション部分の効率化はかなり得意だ。そうしたオペレーションの得意なメンバーが、SAPに入ってくることで、さらに効率化できる」(小田島氏)

つまり、ソニーのノウハウと新規事業立ち上げという特殊性を併せ持った部門として、その独特のポジションを活かしたソリューション化して外販しようというのが今回の新規事業支援サービスの狙いだ。また小田島氏は次のようにも語っている。

「SAPの基本はプラットフォーム型にある。コアをソニーが持ち、他のプレイヤーが得意なコンテンツを持ち寄ってくれる世界を目指している」(小田島氏)

  • これまでSAPを通して、社内起業家に対してソニーが持てるさまざまな部門の力を、小規模組織にカスタマイズしてきた。そのノウハウを外部にも提供するのが今回の新規サービスだ

これはSAPのプロダクト構造を語ったものだが、SAP全体、First Flightもまた、他プレイヤーとの協業、共創の場として世界を広げていくことになる。競合他社、例えばパナソニックもB2B分野でオープンイノベーションを強く打ち出しているが、同様のフォーマットながらWebの特性も活かした仕組み作りという点で、ソニーらしさが際立つようにも思える。

外部公開を発表した当日に公表されたアニメとのコラボレーションプロジェクト「ヌマヅノタカラプロジェクト」は、目標金額が2217万円と高額ながら、公開2日目の16日夜には目標額を達成した。ネットとの親和性の高いアニメコンテンツのプロダクトという側面もあるが、第1弾は上々の結果と言って良い。