とはいえ、これだけではただのセンシングに過ぎない。いかに次世代のモノづくり、「モノづくりイノベーション」に繋げていくのか。

工場の現場に限らず、カイゼンおよびインダストリアルエンジニアリングの観点で人の仕事を大別すると「付加価値作業」と「非付加価値作業」「何もしていない待ち時間」に分けられる。とある現場の事例では、付加価値作業が30%、非付加価値作業は40%、待ち時間は30%と、本来最大化すべき付加価値作業が30%程度にとどまっていた。

一力氏は「何もしていない待ち時間」よりも「非付加価値作業」の方をカイゼンの「宝の山」だと評価する。非付加価値作業は、一般事務で言えば資料作りのための自分が作った過去の資料探しのようなもので、これを最小化して付加価値作業に転換できれば、従業員の、そして会社の生産性を大幅に向上できる。

従来はこうした分析の鍵となるデータ取得が手間だったが、IoTの進展で収集が容易になり、機械学習などによるデータ分析も活用することで「データを価値のある情報に変換ができ、その情報から非付加価値作業の削減」を具体的に提案できるようになった。

ここで興味深いデータがある。というのも取り組みを始めた当初、あるパナソニック内の工場でデータ活用の状況を調べた結果、本来は取得できるデータの1/100しか得られていなかった。その上、実際に活用できたデータは1/30で、「(かけあわせると)1/3000のデータしか活用出来ていなかった」(一力氏)。これをいかに精度高く、そして効率よくデータを回せるかが鍵となる。

推進室ができた3年前、「実のところ、IoTによるデータ収集が目的となって、成果が出なかった」(一力氏)。冒頭で説明したパナソニックが目指す第4世代のモノづくりとは人を中心に考えること。データだけ収集していても、そのサイバー空間上の"空論"を人というフィジカルに還流できなければ意味がない。

つまり、「データを現場と人に還元し、その成果を再びデータにする」というPDCAサイクルを回すことが、「パナソニックが大切にする第4世代のモノづくりの考え」である。「『何が課題か、何を解決するためにデータを収集するのか』を考えるようになってから、効果が出るようになった」という一力氏の話は、目的と手段の見誤りに気付いた重い言葉と言える。

  • 現場の課題想定し、各種デバイスで収集したデータによって課題の解決策を見つけていく。さらにそれを繰り返して定着化させるのがパナソニックのアプローチだ