シャープの前社長である高橋興三氏は、「鴻海精密工業グループからの出資完了後は、シャープの事業拡大に寄与するとともに、財務体質の改善にも貢献することになる。近年、抑制せざるを得なかった新たな成長に向けた投資を行っていくことができる」と成長分野への投資が加速することをメリットのひとつに掲げていたが、今回の有機ELディスプレイのパイロットラインの設備投資は、まさにそれを具現化したものだといえるだろう。

鴻海精密工業の郭台銘会長は、「私がエンジニアだったら、有機ELよりも、IGZOへの投資を優先する」と語っていたが、まずは有機ELディスプレイへの投資を優先させる考えだ。このあたりの変わり身の早さも鴻海精密工業流といえるもの。

さらに、シャープの戴正呉社長は、シャープ買収後に有機ELディスプレイの開発に関して、ライバルであるジャパンディスプレイ(JDI)と共同開発したいとの意思を明らかにしてみせたこともあった。

JDIにとっては、事前になんの根回しもない突然の発言に同社関係者は驚きを隠さなかった。

こんなところにも、鴻海精密工業流の一手が見え隠れするといえる。

次期iPhoneから有機ELディスプレイが採用されると

シャープが、有機ELディスプレイに対する動きを一気に加速させている背景には、アップルの存在がある。

アップルは、2017年に発売予定の次期iPhoneにおいて、有機ELディスプレイを採用する方針を示しており、これを巡る争いがここにきて熾烈化してきたからだ。

有機ELディスプレイが採用されているApple Watch。AppleHPより

アップルでは、現在、Apple Watchに有機ELディスプレイを採用するに留まっているが、iPhoneへの有機ELディスプレイの搭載が決まれば、液晶ディスプレイからの転換が一気に進み、有機ELディスプレイに対する需要が拡大。同時に熾烈なシェア争いが勃発することになるのは明らかだ。

一部調査では2018年には、スマホ向けディスプレイは、液晶を有機ELが逆転すると予測されている。

有機ELディスプレイは、すでに韓国サムスンがGalaxyシリーズに採用。現時点では、有機ELディスプレイ搭載スマホといえば、これしかないといった状況だ。現在でもスマホ換算で年間2億枚以上の生産が可能で、さらに生産規模を5割引き上げる計画もあるようだ。LG電子も、大型テレビやスマホにも有機ELディスプレイを採用するなど、サムスンを追随する姿勢をみせる。2018年の新工場稼働に向けて約10兆ウォンを投資するといった動きもあり、韓国2社の先行ぶりが際立つ。

また、中国勢も大手4社が今後3年間で4兆円にのぼる投資を有機ELディスプレイにつぎ込むとの見方も出ている。

先行している韓国勢に対して、シャープは、アップルと強いパイプを持つ鴻海精密工業グループの力を活用して、ここに入り込もうとしているというわけだ。

また、売上高の半分以上をアップルに依存するJDIも、次期iPhoneで商談を失えば、業績への痛手は図りしれない。すでに、アップル依存の影響もあり、2期連続赤字という状況に陥っているだけに、アップルの有機ELディスプレイへのシフトは、同社の今後の行方を左右することになるのは間違いない。だが、有機ELディスプレイに対するJDIの出遅れ感は否めず、今後、政府がどんな形でJDIを支援するのかも気になるところだ。

今回のシャープの一連の動きで、いくつか注目しておくべきポイントがある。