サロモンブランドを担当する田口氏は「1990年代はスキー産業の全盛期で、私たちの製品も店頭に置けば売れるという状況でした。ですが、売上に陰りが出てからというもの、単にハードウェアだけを売っていればよいという認識は改めました」という。

レンタル事業でスキー需要を呼び起こす

そこで同社が手がけたのが「サロモンステーション」。これは、高品質なスキー用品をレンタルできる施設で、2000年に五竜スキー場に開設され、現在15拠点を展開しているという。スキーメーカーが最新の高品位用品のレンタル事業を手がけると、新製品が購入されなくなるのではないかと疑問が残る。

アメアスポーツジャパン サロモン ウィンタースポーツ SKI プロダクトマーケティング マネージャーの田口龍児氏

野沢温泉スキー場のサロモンステーション(写真提供:アメアスポーツジャパン、©Akira Onozuka)

これに対し田口氏は「確かに“サロモンステーション”の施策が、新品の販売を圧迫している事実はあります。ですが、スキーは初期投資が高額になってしまうスポーツ。初期投資が高いからといってスキーを始めるのをあきらめられてしまうよりも、“レンタルでよいので最新の板に乗れるのなら一度試してみようか”と思ってくださるほうが、スキー場にとっても我々にとってもプラスです」とそのねらいを語る。事実、サロモンステーションを展開するスキー場からは、入場者数が増加傾向にあると報告を受けているそうだ。

サロモンがねらう層は、過去にスキーを楽しんでいた人たち。「1990年代にスキーを楽しんでいた人たちは、子育てが佳境にさしかかっていると思います。そういった方々がお子さまを連れてスキー場に訪れていただき、最新のスキー板を試していただく。それで、お子さまがスキーに興味を持っていただければ幸いですし、あわよくば“またスキーを始めてみるか”と、親御さんに当社の新品をご購入していただければ(笑)」。

全盛期の1991年、スキー用品市場は約4,300億円といわれたが、2012年にはその1/4の約1,100億円まで低下した。田口氏によるとサロモンブランドの売上高は全盛期から4割程度まで落ちたというが(数値は非公開)、市場全体の落ち込みからみればサロモンは健闘したといえる。これは、スキー板、ビンディング、ブーツ、ウェアすべての用品を1ブランドで統一できるナショナルメーカーの強みがあったからだという(井上氏、田口氏)。

紋切り型のスキー場運営からの脱却

スキーを運営する側も手をこまねいていなかった。経営難に陥ったスキー場を傘下におさめ、グループとして戦略を建てる観光企業もスキー産業を変化させているという。その代表例が加森観光やマックアース、日本スキー場開発、星野リゾートなどだろう。

こうした企業はスキー場を傘下におさめると、グループ内での特徴を与えるという。例えば「周辺地域1時間圏内にしか広告を打たない地元密着型スキー場」、「フリーライドスキー施設が多いパークスキー場」、「グルーミング(ゲレンデ整備)を徹底的に行うスキー場」などだ。単体経営だったり第三セクターだったりすると、どうしてもすべての需要を満たさなくてはならない“紋切り型”のスキー場になってしまい個性は生まれない(井上氏)。だが、グループ内でそれぞれ役割を与えれば、多様化するスキーヤーのニーズに応えられるというわけだ。

ここ数年、スキー産業は横ばい、もしくは微増という報告が目立つようになった。これはある意味底を打ったといえるかもしれない。しかし、1990年代に起こったような爆発的ブームはもう期待できない。いかにこの横ばい・微増傾向を続けていくか。スキー場、スキーメーカー、宿泊施設など業界関係者の努力が試される局面だ。

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