Memory

DDR3に関しては、すでに規格上の最高速であるDDR3-2166モジュールも出荷され、オーバークロック版でよければDDR3-3000すら手に入る状況になっている。ただしその一方でモジュール容量に関しては、Unbufferdタイプでは8GB/Moduleがほとんどで、たまに16GB/Moduleがある(ただし高価)といった具合である。まずはこのあたりから。

Photo01はITRSのPIDS(Process Integration, Devices, and Structures)ロードマップの中にあるDRAM Technology RequirementsのTable(PIDS6)をちょっと抜粋したものである。

Photo01:これは2013年におけるTechnology Trend Targetなのだが、いまだに2014年版がリリースされないのでこれを引き続き利用する形で。2016年にはゲート絶縁膜が従来のSiON(酸窒化シリコン)からHfSiON(ハフニウムシリケート)になるとしているが、これはVCNを実装するのにSiONのままでは難しいからということと思われる

ここで何がわかるかというと、DRAMについては「チップあたり8Gbit」に関しては一応の目処が立ち、ごくわずかに生産も始まっているが、「チップあたり16Gbit」に関しては全く目処が立っていないということだ。

実際ロードマップを見ると、2014年にはDRAMのセルサイズを若干(14%ほど)縮小することでなんとか8Gbit/チップをターゲットに入れられるとしており、2015年には微細化することで低価格化を可能にすると説明している。

DRAMの場合、もともとダイサイズを無視すればいくらでも容量は増やすことが可能である。ただ、現実問題として量産品の場合はダイサイズを50~80平方mmに抑えないと価格面で無理がある。

2014年の0.00406平方μmの場合、このセルを8Gbit分集約すると約35平方mmになる。ところがここにはセンスアンプとか配線、周辺回路などに費やされる分は含まれていないから、これを合算するとざっくり2倍で70平方mm近いダイサイズになり、市販できる上限すれすれといったところ。2015年の0.00346平方μmだと、DRAMセルだけで約30平方mm、チップ全体としては60平方mmになるので、割と妥当な価格になる。問題はその先だ。

ITRSのロードマップによれば、2016年はDRAMのFETの構造を、従来のRCAT(Recess Channel Array Transistor)+FinFETからVCT(Vertical Channel Transistor)に切り替えることでより微細化できるとしている。これは何かといえば、要するに微細化を進めた結果としてDRAMを構成するキャパシタの断面積が小さくなりすぎてしまい、いくらトレンチ(溝)を深くしても十分な容量を稼げなくなってしまった。そこでトランジスタを縦型にすることで、キャパシタの断面積を大きくしようという発案である。

理屈はわかるし、研究レベルでの試作例は存在するが、いまのところこれを量産するための方策は存在しない。Photo01でVCTが赤の"Manucacturable solutions are NOT known"というのは、要するに製造方法がまだ確立されていないという意味であり、この状況は今もって変わっていない。

加えて言えば、2016年以降はCell Factorを従来の6F^2から4F^2にすることで容量を1.5倍に増やそうというものだが、こちらはこちらで(VCT程ではないにせよ)技術的な難易度が高く、やはり量産が難しいとされている。

そもそもこのロードマップが無茶というのは皆が理解している。なのでこれはIntelの願望だなどと陰口をたたかれているのはともかくとして、8Gbit/チップに関しては何とか目処が立っているが、その先の16Gbitに関してはプレナー構造のDRAMでは無理、というのが業界全体の見解になりつつある。

実際プロセス自身も、30nmを切るあたりまではロジック向けプロセスを上回るスピードで微細化が進んでいたが、ここから急速にブレーキが掛かっており、いまだに20nmを切る目処が立たない状況になっている。

というわけで背景を説明し終わったところで以下本題。そんなわけでDDR3は2015年中は引き続きコモディティのメモリで有り続けるだろう。理由は2つある。まずは対応プラットフォームが無いこと、もう1つはDRAMベンダーの立ち上がりが遅く、当面は特定用途向けになると考えられることだ。

Photo02はどのメモリが主流になるかを予測したものであるが、2015年においてDDR4は11%程度のシェアしかなく、DDR3が引き続きマジョリティであり続ける。これがDDR4とほぼEvenになるのは2016年になる予定だ。

Photo02:DRAM Technology Forecast。出典:IDF San Francisco 14の"DDR4:The Right Memory for Your Next Server and High-End Desktop System"より

またメモリ密度の予想(Photo03)についても、2015年は引き続き4Gbitチップが主流であり、8Gbitチップがマジョリティになるのは2016年以降になると見られる。そしてそのDDR4であるが、最初に立ち上がるのはサーバー向けマーケットであり、Desktopは2016年の第2四半期でちょうどクロスポイントを迎えることになる。

Photo03:Density Forecast。出典:IDF San Francisco 14の"DDR4:The Right Memory for Your Next Server and High-End Desktop System"より

また、ここには書いてないが、ノートブック向けはおそらくこの中間になる。というのはSkylakeはまずMobile向けで投入されると予想されるからで、これが投入される2015年第3~4四半期にぐんとシェアを伸ばすことになるだろう。というわけで、2015年は引き続きDDR3がマジョリティであり、モジュールあたり4GB(8チップ)~8GB(16チップ)が引き続き主流であり続けるだろう。

ついでにDDR4についても少々。Haswell-Eの出荷にあわせてDDR4-2133モジュールが出荷され、またDDR4-2400モジュールも入手可能になっているが、この先の動作周波数はちょっと難しい。DDR3では先に触れたとおり既にDDR3-3000なんぞが存在するが、これは1.65V駆動だから可能な技であり、1.5VではDDR3-2400あたりが限界だ。

ましてやDDR4の1.2Vとなると、さらに動作周波数が下がることになるわけで、現状のDDR4-2133は定格動作の限界に近い。2015年末にはプロセスや回路の改良でDDR4-2666あたりまで伸びるかもしれないが、定格動作のDDR4-3200モジュールが登場するのは早くて2016年であろう。

Photo04:DDR4へ移行するタイミング。出典:IDF San Francisco 14の"DDR4:The Right Memory for Your Next Server and High-End Desktop System"より

現状はむしろサーバー向けが主であり、こちらは速度よりもむしろ安定性や容量が重視される。これもあり、例えばSamsungはいち早くTSVによる積層DRAMを使った64GBモジュールの出荷を開始した(Photo05)。

Photo05:Samsung提供のモジュール写真。RDIMMということでバッファチップも大量に搭載されている。片面あたり18個のメモリチップで、両面で36個となる

このモジュールは36チップだが、ECC付きなのでデータは実質32チップ相当である。このモジュールは4Gbitのダイを4つTSVで積層することで、16Gb/チップの容量を実現した形で、これが32個で64GBというわけだ。

恐らく他社(SK Hynix/Micron)も当然この路線に追従すると思われる。というのは、そもそもDDR4でTSVを使って最大8つのダイを積層することで128~256GBのモジュールを作ろうというアイディアはJEDECから出てきたものだからだ。

サーバー向けの場合、昨年位から本格的に普及が始まったIn-Memory Computing(データを全部オンメモリに置いて処理する方式。SSDをMemoryに含むかどうかは解釈が微妙なところ)の関係で、とにかくサーバーに目一杯メモリを積みたい。そうなると、DDR3→DDR4にするだけで消費電力が半減する(=電気代が大幅節約になる)から、なるべく早期にDDR4へ移行したいという流れがある。

スピードに関しては、HDDなりSSDをDRAMに置き換えるだけで十分高速なので、そこでDDR4-2133をDDR4-2400にしてもそれほどメリットは無いし、それで消費電力が増える位ならDDR4-2133のままに据え置いて容量を倍増してくれたほうがうれしいというわけだ。そんなわけでサーバー向けはDDR4-2133のままひたすら容量を増やすほうに進化するだろう。

次がモバイル向けであるが、こちらは1~2枚のSO-DIMMで4~16GBの容量が確保できればモバイル向けとしては十分だし、速度も2015年中はDDR4-2133どまりと見られる。その上のDDR4-2666とかDDR4-3200のニーズが出るのは、2016年に入ってからになりそうだ。