コンピューターの歩みはテキストエディターのそれと同じです。テキストファイルの作成や編集に欠かせないテキストエディターは、現行のOSであるWindows 8のメモ帳やOS XのTextEditのように標準搭載されていることからも、その重要性を理解できるでしょう。今回の「世界のテキストエディターから」は、フルスクリーン表示機能が興味深い「TextRoom」を紹介します。
フルスクリーン表示機能を搭載
そもそもテキストエディターは、文字どおり文書入力やテキスト編集に特化したソフトウェアです。もちろん世の中には特定の機能に特化したテキストエディターが数多く存在し、MS-DOSに常駐にしてファイラーとして機能を備えたVZ Editorや、統合開発環境と同等の使い方ができるGNU Emacsなど、さまざまなテキストエディターが登場し、愛用されてきました。しかし、冒頭で述べたようにテキストエディターは本来、文書入力もしくはテキスト編集が主たる役割です。
以前、喫茶店などで原稿執筆を行う方に話を聞いたところ「自宅・会社と違って執筆に集中できる」ことを理由に挙げていました。確かにネット環境が充実している自宅・会社はインターネットを利用した情報収集や調べ物に便利ながらも、それだけ集中力を欠くことになります。また、他の作業を行えるということは、同時に割り込みが発生しかねません。
気分転換に読んだミニブログで作業が遅延し、電子メールによる確認依頼で手元の作業が停滞してしまった経験をお持ちの方も少なくないでしょう。最近ではモバイルWi-Fiルーターの登場で接続環境を得られますが、自身で電源を切ることができることを踏まえれば、外出先での執筆作業が持つ優位性は揺るぎません。
このようなコンセプトの上で開発されたデジタルメモツールとして、現在リリース中の「ポメラ」も興味深いですが、同様のコンセプトで開発されたのが、Omer Bahri Gordebak氏とPetar Toushkov氏の手によって開発が進められている「TextRoom」です。GNU GPL v3(General Public License version 3)ベースのマルチプラットフォーム向けに開発されたテキストエディターのTextRoomは、2008年に産声を上げました。執筆やコーディングに集中できるように、フルスクリーン表示機能を前面に押し出したテキストエディターとして、2011年まで開発が続けられてきました(図01)。
トルコのアンカラ在住のGordebak氏と、ブルガリアのソフィア在住のToushkov氏がどのような関係で出会い、どのようなスタンスで開発を始めたかを知るドキュメントは残されていません。そもそもフルスクリーン表示を特徴とするテキストエディターは目新しいものではなく、Plan 9向けとして開発された「Acme」のようにコンセプト自体は以前からありました。Acmeの作者であるRob Pike氏は、Plan 9やInfernoといったOSやLimboという開発言語を生み出したことで有名ですが、Acmeの開発者リストには、C言語産みの親の一人であるDennis Ritchie氏の名も並んでいます(図02)。
Acmeに関しては稿を改めますが、多くの先人が生み出したコンセプトを現代のテキストエディターとして復活させたのが、TextRoomと捉えるのがわかりやすいでしょう。前述のとおりTextRoomマルチプラットフォームとして開発され、最新版は2011年2月4日にリリースされたバージョン0.8.2ですが、Windows OS向けにコンパイルされたのは、一つ前のバージョン0.8.1。一見すると古いテキストエディターに見えますが、Google Codeのページのバグリストによりますと、ほぼすべてのバグは修正されています。
それでは次ページから、TextRoomをWindows OS環境で使用するための設定や使用感などを紹介しましょう。