コンピューターの歩みはテキストエディターのそれと同じです。テキストファイルの作成や編集に欠かせないテキストエディターは、現行のOSであるWindows 7のメモ帳やMac OS XのTextEditのように標準搭載されていることからも、その重要性を理解できるでしょう。「世界のテキストエディターから」では、Windows OS上で動作する世界各国のテキストエディターを不定期に紹介していきます。

Picoクローンとして登場したGNU nano

皆さんは"nano"という単語を聞いたことがあるでしょうか。大半の方は携帯型音楽プレイヤーであるiPod nanoを連想するかも知れませんが、UNIX系OSに精通している方なら同名のテキストエディターを思いつくことでしょう。UNIX系OSを使用する場合、Emacsやviといった高機能テキストエディターを使うのが一般的です。しかし、設定ファイルのように簡単なテキストファイルを編集する場合、Emacsやviはあまりも高機能。また、独特のキーアサインもコンピューター初心者にはなじみません。

電子メールシステムが登場し、誰しもが使える簡単なテキストエディターが求められるようになった頃、ワシントン大学で開発されたのが、「Pico(Pine Composer)」というスクリーン型テキストエディター。元々はPineという電子メールクライアントの文書入力機能として開発され、後にテキストエディターとして単独リリースされるようになりました。

UNIX上で動作するPicoは、Windows OS上で動作するメモ帳のように、直感的な操作と[Ctrl]キーを使ったショートカットが用意されており、コンソール上のテキストエディターとしては最初に出会う入門書のようなもの。一時期は多くのUNIX系OSが標準テキストエディターとして採用していました。

筆者は確認していませんが、BSD UNIXベースで開発されているMac OS Xの古いバージョンにもPicoが搭載されているとか。現在でもPicoの開発はワシントン大学で続けられていますが、ライセンスは同大学が保持したまま。そのため、オープンソースベースのソフトウェアを採用するLinuxディストリビューションに取り込むことは簡単ではありません。このような背景で生まれたのが、PicoのGNUによるクローンである「GNU nano」です(図01)。

図01 Debian GNU/Linux上で動作しているGNU nano。画面下部に並ぶコントロールキーもPicoと同じです

Debian GNU/LinuxやUbuntuなどがGNU nanoを採用し、標準テキストエディターとして設定されていますが、公式サイトのダウンロードページを見ますと、Fedoraなどで採用されているRPM形式のバイナリやDebian GNU/Linuxのバイナリに加えて、Windows OS用が用意されていました。

さて読者のなかには、GNU nanoという名称の前に付く"GNU"というキーワードに疑問を持たれた方がおられるのはないでしょうか。そもそもGNU(グヌーもしくはグニュー)は、UNIX互換のソフトウェアをすべてフリーソフトウェアで実装することを目的にRichard Stallman(リチャード・ストールマン)が立ち上げたプロジェクトです。

ソフトウェアの複製や使用する自由などを掲げ、オープンソースベースの開発に大きく寄与してきました。皆さんご存じのLinuxも、GNU一般公有使用許諾(GPL:General Public License)というライセンスの元で配布されており、我々も気付かない間に多くの恩恵を受けています。GNUの成り立ちや存在意義といった所まで語り出しますと、それだけで誌面が尽きてしまいますので、今回は軽く触れる程度にし、本命であるGNU nanoの話に取りかかりましょう。